死を呼ぶ数字
旅野和士
死を呼ぶ数字
月曜日の朝。
いつものように登校して、六年三組の教室に入った
教室にいるクラスメイト全員のひたいの真ん中に数字が書かれていたからだ。
友達の
唯が『17』で智代が『32』。
「なに、その数字。
沙耶香は自分のひたいを指先でとんとんしながらふたりにたずねた。
「数字?」唯と智代は顔を見合わせる。「なに言ってんの?」
「なにって、唯が『17』で智代が『32』って書いてあるでしょ。テレビでやってたの? 昨日は早く寝ちゃって、テレビ観てないんだ」
唯と智代は不思議な生き物でも見るような目で沙耶香を見た。
もう一度、顔を見合わせた唯と智代がお互いのひたいをまじまじと見る。
「わたしのひたいになにか書いてある?」
「ん~ん。わたしは?」
「書いてない」
沙耶香はバカにされているのかと思った。
「書いてるでしょ! ほら、ほかのみんなのひたいにも!」
唯と智代は教室を眺めまわしたあとに沙耶香を見て、「大丈夫?」と声をそろえた。
「じゃあ、わたしのひたいには何番って書いてある?」
沙耶香は前髪を持ち上げた。
「だから書いてないって」
沙耶香は窓に近づいて、ガラスに自分の顔をうつした。
自分のひたいには『20』と書かれていた。
いったい、いつの間に。
手でごしごしとこすっても、数字は消せなかった。
沙耶香たちの騒ぎに集まってきたほかのクラスメイトたちの目にもお互いの数字は見えないようだった。
信じられなかった。みんなでドッキリに引っかけようとしているのかとも思ったが、それでは自分のひたいに書かれた数字の説明がつかない。
自分がおかしくなってしまったのかと沙耶香は不安になった。
ひたいに数字が浮かび上がっているのは六年三組の児童だけだった。六年生だけでなく、ほかの学年にもひたいに数字が書かれた児童はひとりもいなかったし、先生のひたいにも数字はなかった。
沙耶香はそれぞれの数字になにか意味があるのではと思い、クラス全員の数字をノートに書き写して考えてみたが、なにもわからなかった。
絶対になにか意味があるはずなのだ。
しかし、ひたいの数字以外は、おかしなことはまったく起こらず、いつもとなにも変わらなかった。
なにひとつ変わったことが起こらないまま放課後になり、沙耶香は家に帰った。
家に帰っても数字は消えなかったし、両親にも数字は見えないようだった。
翌日、火曜日。
学校に行ってもクラスメイトのひたいに刻まれた数字は消えていなかった。
今日もまた、ひたいの数字以外はなにも変わったことの起こらない一日なのだろうかと思ったが違った。
沈んだ顔で教室に入ってきた担任の先生の口から、智代が昨日、学校からの帰りに心臓発作で亡くなったことが告げられた。
智代は心臓に持病をかかえていたわけではなく、まったく突然の死だった。
智代のひたいの数字は『32』だった。この数字と智代の死はなにか関係があるのだろうか。
そして、不幸はそれだけで終わらなかった。
この日、同じクラスの
翌日、水曜日には
いずれも放課後に帰宅中の事故で、ひたいの数字は典子が『11』、保隆が『5』、秋雄が『29』。
学校が休みの土曜日と日曜日には死者は出ず、月曜日の放課後に
この謎の連続事故死はテレビや新聞などでも大きく取り上げられ、全国的な話題となった。
六年三組は呪われたクラスだと噂されるようになった。
沙耶香が六年三組の生徒のひたいに数字が見えるようになってから死者が出はじめたことからも、ひたいの数字とクラスメイトの死が関係しているのはあきらかだった。
しかし、いくら考えても沙耶香には数字にどういう意味があるのかわからなかった。
翌日、火曜日。
次の犠牲者は自分かもしれない。沙耶香はおびえた。
放課後が近づくにつれて、恐怖は増していった。これまでに死んだクラスメイトはみんな学校からの帰り道で事故にあっているのだ。
沙耶香は放課後になると真っ先に教室を飛びだした。一刻も早く、家に帰り着きたかった。
走って家へと帰る途中、沙耶香はふとあることに気づく。
そういえば、昨日死んだ愛華も放課後になると真っ先に教室を出てなかったっけ。
覚えているかぎりでは、秋雄も保隆もそうだった。
放課後になって一番はじめに教室を出た生徒が死んでいるのだ。
そのことに気づいた沙耶香に向かって、歩道に乗り上げた車が猛スピードで突っこんできた。
※
「今日は20番だ」
「きたぁ! ビンゴ!」
ビンゴカードの数字が一列そろった死神が叫ぶ。
「おいおい、もうビンゴかよ。まだ七個目だぞ」
「悪いな。はじめに決めた約束どおり、ここまでの七人の魂はおれがもらっていくぞ」
死を呼ぶ数字 旅野和士 @mrdn
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