第4話 真の突破者

 巨拳が振り下ろされる。

 

『うわぁぁぁぁ!!』


 悲鳴を上げる街中の人々。

 ソレに対して、ユイイツは――。


「シッ」


 手刀を振るった。

 それだけだった。


「は?」

 

 巨人王の拳と肉体は、跡形も残さず消し飛んだ。

 否。それどころではない。

 大地に峡谷もかくやというほどの、巨大な斬裂痕が刻まれた。

 世界を縦に両断する一撃だった。


 ブレイクスラーとは、突破者である。

 彼はその一人だった。


「ふう。久しぶりに『手刀』を使ったな」


 その名を、ユイイツ。ただの旅人を名乗っている。



 □



 自らの長を失った巨人軍は脆かった。

 天変地異の如きの破壊痕によって、巨人軍の半数は消し飛び、残りの半数は半狂乱になって逃げだした。

 ユイイツは追撃はしなかった。


「ふう。まーた服が汚れちまった。俺の動きに耐えられるただ一つの一張羅だって言うのに」


 一つの国を守っておきながら、彼は平常通りだった。

 服の汚れを嘆き、ぶつくさと文句を言っていた。


「あ、あの……」

「うん? ああ、ゼンか」

 

 少年がユイイツの目の前に立っていた。

 その足は震えていた。

 当然だ。巨人にすら瞬殺する絶対強者相手なのだ。

 その人物にあまつさえ自分は石を投げてしまった。

 しかも濡れ衣を着せられたに過ぎなかったのに。


「ご、ごめんなさい!!」

「ごめんなさい!!」


 幼い兄妹が頭を下げる。

 ソレを見て、少しユイイツは笑った。


「二人とも、顔を上げてくれ」

「で、でも……」

「いいから」


 おずおずと顔を上げる二人。

 その二人の前に両の拳が差し出されていた。


「俺は旅人だ。どこかに定住はしない。今回みたいにこの街に居合わせたのは単なる偶然だ。だから次は、君たちが守るんだ」

「俺たちが……?」

「そうだ。いっぱい食べて、いっぱい動いて、いっぱい学んで、いっぱい寝て。大きくなるんだ。そしたらこの街は大丈夫だ」

「怒ってないのか? 俺たちがしたこと」

「全然。ああいうのは慣れているからな」


 少し悲し気に笑うユイイツ。

 しかしその笑みもすぐに、快活なモノに変わる。


「そんじゃあな。この街の飯は旨かったぜ」


 そう言って、ユイイツは去っていく。

 街の人々の謝罪と感謝の声に背を向けて、片腕を上げるだけで返事として。 

 旅人は、旅に出るのだ。



 □



 その後、僅か数日で巨人国が滅んだという知らせが、この街に届いた。

 大勢の奴隷となっていた人間たちが解放され、その一部がこの街を訪れたのだ。

 彼らは口々にこう語っていた。


『ユイイツと名乗った旅人が、自分たちを解放してくれた』と。

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巨人殺しのブレイクスラー ポテッ党 @poteto_party

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