第4話 

 縦横無尽に行き交う、人々の群れ。紫陽花みたいな、色とりどりの傘。

 色濃くなっていく、灰色のコンクリート。

 信号機の音。遠くで聞こえる嬌声。リズムを上げる、急かすような雨音。

 その中に、場違いな爆音。

 だけど誰も、足を止めたりはしない。

 ただわたしだけが、そこで立ちすくんで動けずにいた。


 傘も持たないわたしの髪の毛を、雨がどんどん滑り落ちていく。


 目の前の大型スクリーン。

 雨の日の夕方には、不自然に明るいその箱の中に、記憶のままの、あなたがいた。

 わたしの知らない誰かと。わたしの知らないギターを手にして。

 わたしの知らない曲を。

 わたしの知ってる、あの笑顔で。


 彼は、夢を叶えていた。

 スクリーンに映る、Gt.霞 の文字。

 胸が震える。涙が零れる。

 ギターをかき鳴らす、整った横顔。

 そしてその胸元には、vivienneのシルバーのネックレス。

 

 わたしは自分の胸の、土星型のゴールドのネックレスをそっと引き寄せた。

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vivianne @rui_takanashi

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