第3話 

 霞くんとの日々は、楽しかった。

 付き合っていくと、いろんな霞くんを知った。

 爬虫類が好きなところ、笑顔が可愛いわりに腹黒いところ、案外計算高いところ。

 だけどすごく思いやりがあって、努力家で、責任感があって、芯が強くて。


 一緒に住もうなんて話もして、家具や雑貨を見にいったりもした。

 お互いの誕生日には、同じブランドのネックレスを色違いで交換し合った。

 それは当時わたしが好きだったブランドで、わたしがプレゼントしてからは肌身離さずつけていてくれた。

 お互いの匂いに染まるように、ずっと一緒にいられるように、香水の交換もした。

 わたしたちは、ずっと一緒だった。


 だけど、それは突然やってきた。


 霞くんのバンドは、最初の宣言通り全国ツアーをやるようになって、だんだんと動員も増えていった。そんなに大きな箱でなければワンマンライブもできるようになり、それに比例するように霞くんもどんどん忙しくなっていった。


 連絡は変わらず取り合っていた。

 忙しい霞くんだから、少しでも一緒にいられるように、同棲の準備もしていた。

 それなのにわたしは、霞くんを信じ切ることができなかった。


 後になって知るのだけれど、それは悪質なデマだった。

 わたしと霞くんを仲を引き裂くための、嘘だった。

 だけどわたしは、霞くんよりも、よくわからない友達の友達の言っていることを信用してしまった。もちろんそうしたのには、それなりの理由があったのだけど。

 ちょうど不自然に途切れたメールも、わたしの疑いを加速させ、確信へと変えた。


 家で浮気をしていた元カレだって、霞くんと同じバンドマンだった。

 前の彼氏もバンドマン。その前もその前もみんなバンドマン。

 そしてみんな、浮気をしていた。

 仕方がないのだ。だってモテるのだから。

 女は無限に寄ってくる。

 据え膳食わぬは男の恥。

 そういって開き直ってきた男もいた。

 

 いくら年下でも、可愛くても、所詮はバンドマンなのだ。


 もう振り回されたり、傷ついたり、そんなことにも疲れた。

 

 わたしは、本当に馬鹿なわたしは、霞くんには何も言わず、離れた。

 全国ツアーに出ていた霞くんには、何も残さぬまま。

 ひっそりと雪深い地元に帰り、連絡先も変えて、すべての霞くんの情報をシャットアウトして、日々を塗りつぶした。

 拷問のようだった日々も、やがて日常になる。

 ビジュアル系の情報にも触れずにいると、興味も薄れてくる。

 霞くんのことは忘れたことはなかったけれど、あれはもう過去のこと。

 

 10年の月日が経っていた。

 

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