【カクヨムコン10短編】未来みくじ
星野光留
神社にて
1月1日。昼。
実家の田舎町に帰省していた若い男が、人ひとり見当たらない寂れた神社にいる。
男は、初詣に来ていた。
というのも、男は中途半端に面倒くさがりで、中途半端に行動力があったのである。
男の家の近くには、他に初詣に行けそうな神社はなく、かといって、のんびり実家で過ごす予定だった男には遠出する気力もなく、しかしなにか正月らしいこともしないとなという微弱な義務感を捨てることもできず。
どこでもいいから、手近なところで初詣を済ませてしまおうという結論に行き着いたのだ。
二礼二拍手一礼の参拝を済ませたところで、男は、あるものを目にした。ポストに瓦屋根がついたような物体で、中心には白文字でデカデカと『おみくじ』の文字があり、端には硬貨の投入口。
そして、その機械の横にある立て看板には、安っぽい文字でこう書かれていた。
【100%当たる! 未来みくじ】
この寂れた神社の、胡散臭いおみくじに100円か。
地味に高いな。と、男は思った。
しかし、ここまで胡散臭いと逆に面白くなってくるもので、男は興味本位でそのおみくじを買ってみることにした。これで、友人との馬鹿話のタネにもなればいいだろう。
期待を込めて硬貨を入れる。
出てきたおみくじが筒状に丸められたものであったため、男は、そのおみくじをするすると伸ばし、開いていく。
その、内容は。
1回目は『おみくじに300円使う』
ショボい内容だった。そこまで言うなら、300円使ってやろうじゃないか。
2回目は『賽銭箱の下から10円を見つける』
賽銭箱を調べると、本当に10円が見つかった。
3回目『未来を知った代償に』
そこまで見た男は、手を止めた。
続きの文章の上部を、少しだけ見てみることにしたのである。チラリと見えたのは、『一』の下に『タヒ』の上部のようなもの。
『死』
男は怖くなって、おみくじを放り投げて踵を返した。おみくじの全文を確認することなく、その場を後にする。なんだか嫌な予感がしたからだ。
ひらひらと、おみくじが地面に落ちる。
開かれたおみくじ。
『未来を知った代償に死ぬ』
そう書かれていた。
しかし、インクが滲み出るように、続きの文章が付け加えられていく。そして数分の後、文章は完成。
『未来を知った代償に死ぬ
という運命から、なんとか脱する』
かくして、男は一命をとりとめたのであった。
【カクヨムコン10短編】未来みくじ 星野光留 @5563857
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます