第11話 梅カツオ冷やし春雨と薬味卵
絵に描いたような真っ青な空が西から徐々に暮れていく。東の空にはモコモコと成長した積乱雲のてっぺんが横に平らに広がった、かなとこ雲が夏の夕方らしい景色を作り出していた。
(あの雲の周辺は、絶対飛びたくねぇな)
なんて考えながら、干していた洗濯物を取り込み溶けてしまうほど暑いベランダからエアコンで適温にしている部屋に戻る。
ローテーブルの横に洗濯カゴを置きフェイスタオルから順番にたたみ始める。たたみ終えたら、それぞれの収納場所へ戻して冷蔵庫からキンキンに冷えたビール……ではなく、麦茶をコップに注いで一気に飲み干した。
夕方になって多少はマシになったとはいえ、まだまだ暑いこの気温の中。外へ食べに行くのも火を使ってご飯を作る事も億劫な俺は、レシピフォルダを開いて目当てのレシピを表示した。
電気ケトルでお湯を沸かしてる間に一人分の春雨を食べたい分だけ耐熱容器に並べ、沸いたお湯をかけ春雨が透明になるまで放置する。
春雨が戻るのを待っている間に梅干し4つの種を抜いて包丁で叩き、ある程度潰れたら鰹節を好きなだけ加えて梅干しと混ざる様に叩いて梅カツオを作り、好きな量をどんぶりに入れておく。
梅カツオが入ったどんぶりに和風だしの素小さじ一杯。お湯400mlを入れて箸でかき混ぜ、だしの素が溶けたのを確認してから、たっぷりの氷と風味付けにごま油を小さじ一杯加えれば、さっぱりつゆが出来上がった。そこへ戻しておいた春雨を湯切りして入れ、大葉や梅干し。茹でたササミをトッピングするだけでも十分に美味しいのだが、俺的には少したけ物足りないのでアレンジ。昨日の夜に仕込んでおいた薬味卵の保存容器を冷蔵庫から取り出し、ドーンと丸のままトッピングする。
この薬味卵も作るのは簡単で、鍋に水と卵、お酢を入れて火にかけて、沸騰したら弱火にして7分加熱して出来上がったゆで卵を氷を入れた冷水にとって、冷やしておく。この時殻にヒビを入れておくと未来の自分が苛々せずに殻を剥くことができるので、忘れずに入れる。
一緒に漬け込んでおく漬けダレには、長ネギを専用カッターで細切りにしてから、みじん切り。生姜はすり下ろして同じ耐熱容器に入れ、そこに水100mlと2倍濃縮タイプのめんつゆ100ml、砂糖とみりんをそれぞれ大さじ二杯入れ、ラップをかけて600wの電子レンジで3分加熱しておく。加熱が終わった漬けダレに刻んだミョウガと大葉、ごま油を加えて混ぜる。出来上がった漬けダレに冷やしておいたゆで卵の殻を剥いて入れて、味が染み込むまで数時間冷蔵庫で保管しておけば完成するので、作り置きにはもってこいで、以前ご飯のおともに作って美味しかったからリピートした。
出来上がった冷やし春雨の器を持ち、ダイニングテーブルを見て一瞬悩んだが、一人で食べるだけだろと思い、移動せずカウンターキッチンに備え付けているカウンターチェアに座って食べる。箸でしっかり梅カツオを春雨に絡む様に混ぜてから、一口啜る。カツオ風味のつゆにさっぱりした梅干しの酸味が暑さに参っている胃にはちょうど良く。麺を春雨にすることで、他の粉を使った麺とはまた違うツルッとした食感がなんとも言えない。さっぱりした味に少し物足りなさを感じ、トッピングしている薬味卵に箸をつけた。プリッとした白身の表面は薄く漬けダレの茶色に染まり、一口食べれば甘辛ダレとトロッとした黄身のまろやかさが口いっぱいに広がる。麻薬卵の様な刺激はないが、生姜や長ネギが冷房で冷えた身体を内側から温めて乱れ気味の自律神経を整えるだけでなく消化を助け、ミョウガや大葉で爽やかな風味でさっぱり食べられるのが、薬味卵の魅力だ。
(麻薬卵のあの辛さも病みつきになるから好きだけど、夏はさっぱりの薬味卵が良いな〜)
もう一つ薬味卵を追加しようかとチェアから腰を浮かせるとインターホンもなしに玄関ドアが開く音が響いた。誰だと思い器を持ったまま、玄関側の扉を開けてそちらを除けば、いつも以上に頬を真っ赤に染めて手を団扇がわりにパタパタとする相方が靴を脱いでいた。
「お疲れ、点検終わったか?」
「全然。足りないもの多すぎ……だから、夏場は発注しても届くまで時間かかるから早めに在庫補充しようって言ってるのに」
「まぁ、上から一応待機命令は出てるし、全機飛べないって訳じゃないんだろ?」
俺の問いに相方は、当たり前でしょという顔をして風呂場へ向かった。その両肩には目には見えないが疲れがドッシリと乗っている様で疲れ切っている。これは相当腹も減っているだろうが暑さで食欲はほぼないであろう。相方にも自分が食べてるのと同じものを用意してやろうとキッチンに立った。鼻歌まじりにパパッと作り器に盛り付けて、薬味卵は好みでトッピング出来る様に保存容器ごと器の隣へ並べる。タイミングよくシャワーから上がってきた相方は、赤い髪をタオルで拭きながら、ダイニングテーブルを見る。
「暑いから、冷たいのが良かったな……」
「ご希望通り、冷たいっての! 温くなる前に食べろよ」
俺はそれだけ言うと自分が使った食器をシンクへ持っていき、食後の一杯を準備するべくキッチンへ立った。水を入れたポットをコンロへかけていると、うまっ! と小さな声で感想を言う相方に微笑んだ。
ズボラ飯 かず @cuzki_17
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