「ダンジョンに手をだしてみた!」

てぃ

Chapter1:「キャラクターメイキング」


 この世界でも水は高きから低きへと流れている。即ち、放り投げた物が地に落ちるのは自明の理。今まさに上から下へ、一人の人間が底の見えぬ奈落に突き落とされていた。


 それは地上から最下層まで垂直に結ぶ一方通行の直通路である。

 ダストシュート、と言い換えてもいい。


 通常ならば数秒程度で落着するはずだった。しかし、直前にかけられた落下制御の魔法が作用し、まるで宙を舞う羽のように緩やかに降下している。


 気持ちの悪い浮遊感が持続する限り到底落ち着けなかったが、乾いた空気が地下へ降りるにつれて水気を含み、冷たくなっていく様を駆け足で感じることが出来たのは珍奇といえば珍奇な体験だったかもしれない。視覚を封じられた怪我の功名、とでもいうべきか。


 着地は胸からだった……ように思えた。

 石床に先に触れたのは革靴の爪先だった気もするが、些細な違いだ。


 ──即座に体勢を変えて膝立ちになる。

 背後では時間差で落着した革袋が形をひしゃげて尻餅をついていた。暗闇に馴れる為の目隠しを外し、素早く腕に巻く。ここでは貴重になるだろう、清潔な布地だ。


 ……さて、状況を把握しなければならない。

 魔物が巣喰う地下迷宮という話だが、幸いなことにこの部屋にはいないようだ。


 周囲を見回す。部屋の四隅に明かりが合計四つ。視線の高さで壁をくり抜き、埋め込むように設置されている。一見すると油洋灯オイルランプのようだが、おそらくは魔法の明かりだろう。


 その明かりから現在地が石壁で囲まれた広間であることが知れた。

 一部が闇黒あんこくとなった天井も低くはない。だが、それはこの広間だけが特別な造りをしているだけかもしれない。


「旦那」


 その時、気配のなかった壁際から声が響いた。人影が動く。一つの角を指差した。 

 そして、人影は先導するように明かりへと歩いていく。怪しんで佇んでいても仕方ない、後ろ姿を追った。


 声をかけてきた者の正体が明かりによって暴かれる。物乞いにしか見えぬ風体ふうていの、見すぼらしい男であった。一方──



 *性別は?


⇒・男

 ・女

 ・それ以外



「へへっ、背格好から判断したんだが間違いなくて良かったぜ。俺はガイドって名で通してる。アンタは? ……そうかい、だんまりか。ま、訳ありの人間だもんなぁ。目当ては恩赦かい? それとも報酬かな? ……おっと、その前に大事なことを聞きそびれた。アンタ、善人かい? 自分の人生を振り返って善人か、悪人か……どちら側の人間なんだい?」



 *あなたは──


 ・善人

 ・悪人

⇒・どちらでもない※(中立)



「へへっ、こんなこと言われて断言するのも難しいもんな。宗教にかるか、危ない思い込みでもなきゃ即答出来ないよな? 曖昧にしておくのが賢い選択ってもんだ、話しやすいぜ。……俺はアンタからおこぼれを貰う、見返りに俺が知る限りの情報をアンタに渡す。どうだい? その袋の中身はパン一切れって訳でもないんだろ?」


 *広間の中央に革袋がある。大きさは──


 ・大

⇒・中

 ・小


「へへっ、食料はアンタの虎の子だ。安くねぇしな、ある程度は無料タダで聞かせてやるよ。まず、ここは迷宮の最下層だ。この広間から一本道で上層へと続く階段がある。この最下層と次の第五層では魔法で創られた生物、いわゆる魔法生物……縮めて魔物とかモンスターと呼ばれてる怪物な。こいつらはいないから安心していい。もしも、うろついているとすればそれはアンタと同じような境遇の先駆者さ。彼らと手を組むもよし、取引するもよし、略奪するもよし。勿論、その逆も然りだ。同じ人間だからといって油断すると寝首をかかれるぜ?」



 *先駆者か──

 

⇒・手を組む

 ・取引について

 ・略奪!



「先駆者にも事情は様々だ。古代の魔道士がのこした魔法の迷宮に挑む為に試験としてやってきた人間や、恩赦の為に潜り込んだ犯罪者。独力で突破出来ずにまごついてる連中がアンタを手ぐすね引いて待ってることだろう。仲間にするもしないも自由だが善か悪か、ウマが合わないと面倒なことになるかもしれないな。それと悪人、知っているかもしれないが恩赦目当ての連中は時間制限タイムリミットがある。長くて半年、極悪人で強烈なヤツほど時限は短い。ただ、そんな極悪人ほど地の獄じゃ魅力的に映るからタチが悪いんだけどな。ちなみに、新人が降ってくるのは五日に一度。一人の時もあれば、複数人の時もある。アンタみたいに同期がいない時は結構、珍しいんだぜ?」


 ──ガイドが意地悪く笑う。


⇒・取引について尋ねる

 ・略奪したい


「取引か。基本的に迷宮じゃ物々交換だ。通貨代わりに使えるのは薬と食料、それと水だな。知っての通り、この地下迷宮は俺たちの時代に俺たちの技術で人を試す為に造られたものだ。物資は有限だが、定期的に補充されている。じゃなきゃ、一切れのパンを巡って骨肉の争いが起きちまうもんな。人間同士で殺し合うなんて本末転倒もいいところさ」



⇒・略奪するにはどうすればいい?



「力づくだな。悪人同士で徒党を組んで階層の支配者にでもなるかい? せいぜい、分配で揉めないようにな。二度と人を信用出来なくなる道だが、俺には止めるほどの力もなけりゃ義理もねぇ。好きにしたらいいさ。でもな、こんな迷宮から抜け出せる人間なんざいくらでも現れるし、バレたら縛り首だ。こんな穴倉でボスを気取ってもいいことなんか一つもないぜ? ま、足もとを見た交渉くらいでめておくんだな」



 *迷宮について尋ねる──



「……へへっ。打ち解けたところで本題だな。こっから先は有料になるが、それでもいいんだな?」



⇒・はい

 ・いいえ


「なら、アンタの革袋をそこの明かりの下に置いてくれ。それで契約成立と見做みなす。話が終わるまで互いにブツには手を出さない。俺もアンタも公正で、公平で、対等な取引を心がけるべきだ。素性が分からない以上、誠意は大事なんだ。分かるかい?」



 *同意する代わりに明かりの下へ革袋を置いた──



「へへっ、情報屋ガイドしぼる前にシメても何の得にもならないってことさ。金の卵を産むガチョウをめるのと同じにな。それじゃ、最下層から話していこうか。とはいえ、最下層に部屋はこの一つしかない。仕掛けも地上と通じている一方的な進入路のみだ。歩いて出られる出入口も一つ。扉もない、そこを出れば階段までは一本道だ」


 ──出入口を過ぎれば魔法の明かりが壁の両側にぽつぽつと取り付けられている。 

 おそらく階段まで続いているのだろう。


「先にも言ったが、最下層に魔物はいない。次の五層にもな。そして、お役立ち情報だが、なんと階段には魔物どもは入ってこれないんだ。階層を結ぶ1~99段の階段上では魔物に襲われることなく、ゆっくり休むことが出来る。いわば聖域だな。これを知るのと知らないのでは生き残る確率も違うだろうから、憶えておいた方がいいぜ」



 ──ガイドが話を続ける。



「階段を上って出るのは五層の中央だ。階層のど真ん中だよ。階段が十字路の起点になってて、幾つかの玄室げんしつがある。居残る羽目になった連中が個室として使ってるが、満室になることはないから安心していい。もっとも冷たい床に硬い壁、オマケに鍵はかからねぇ。居心地が悪くてセーフハウスにゃ程遠いから、すぐに出ていきたくなるだろうがな。四層への階段は歩き回ればすぐ見つかるだろう。魔物は階段から追ってこれないが、人間は違うぜ? 悪さして後ろから刺されないよう気を付けるこった」



 ──ガイドが冗談めかして笑いかけてきた。無視して続きを促す。



「第四階層。この階層から魔物がうろついてる。数はそこそこ多いが、強さは大したことはない。素手でも殴り殺せるだろう。なんせ人の背丈の半分しかない小鬼ゴブリンどもが相手だからな。ヤツらは小賢しく短剣や木の棒で武装しているが根本的に非力で振り回してるうちにすぐ息切れしちまう。バテたところをくびり殺してやればいい」


 ──ガイドはさらに「小鬼ゴブリンは頭の造りも良くないから不意打ちが出来ない」ことも付け加える。


「例え木の棒でも武器さえ手に入れば我が家のように歩けるだろう。それと四層には清水が流れ落ちてくる泉がある。飲んで腹を下すこともないし、傷を負っても洗って清潔に出来る。時と場合によっちゃ、取引材料にもなるかもよ? ま、よっぽど切羽詰まってなきゃ無料タダ同然だろうけどな」



 ──第三階層。



「立ちはだかるのは犬と豚だ。犬の頭コボルト豚の面オークだよ。……この階層から気を引き締めないといけねぇ。独りで行くなら尚更な。毎日、何人分かの食料と雑貨が落ちてくる広間がある。新人はまずここを目指して突っ走ることになる。雑貨の中身は日替わりで気紛れだ。他に先人が使い古した武具なんかも置いてある。ここで体に合う武具が見つかれば一安心だろうが、そうじゃなきゃ一旦戻って誰かと組むのが賢明だ」


 ──第二階層。


「まるで生きているかのように動く鎧を見たことはあるかい? この階層じゃそんな魔物を相手に戦うんだ。そいつらを叩き壊し、鎮めて、残った使えそうな部位ガラクタで武装していく……これがこの迷宮の正当な攻略法だ。他には毎日って訳じゃないが、薬が落ちてくる部屋がある。普通の傷薬から薬草から、有り難いことに魔法の薬なんかもある時にはある。これがこの迷宮で最も価値のある取引材料だし、運良く懐に入れたまま脱出出来れば結構な小金になるらしいぜ? ちなみに魔法の薬は上層に転がっている死体からたまに手に入るって笑い話もある」


 第一層──


「……俺が話せるのはここまでだ。知らないことは他人に教えられないよな? あとは自分の目で確かめてくれ」



*話は終わった。食料を──



 ・渡す

⇒・渡さない



「おいおいおい、約束が違うじゃないか? おふざけはやめようぜ?」



 ・悪かった

⇒・悪びれない



「……冗談だよな?」



  ・冗談だ

 ⇒・冗談ではない



「なるほどね……俺の落ち度といえば、落ち度ではある。見做す、なんて野暮ったい言い回しをするじゃなかったぜ。ああ、分かった。分かったよ。今回は勉強料と割り切ってやるよ。儲けたな。大した悪党だぜ、アンタ」


 ……ガイドは苦笑いして降参した。

 まるで駄々っ子相手に根負けしたような大人の振る舞いだ。

 しかし──



*****


 *(WizLike or RogueLike ?)


*****



 ・見逃す

⇒・見逃さない



 ──違和感があった。革袋を明かりの下に置きに行った時のことだ。

 何気なくガイドの横を通り過ぎたのだが、物乞いのような薄汚れた風体ふうていの割に鼻につくような生活臭が一切におってこなかった。


 ──ガイドは語った。魔法で創られた生物。魔法生物。……魔物。



『まるで生きているかのように動く鎧を見たことがあるかい?』



 確証はなかった。疑心暗鬼と言われれば、そうかもしれない。

 自分が必ずしも善人であるとは言えないが、だからといって魔物の戯言ざれごとだまされてやるようなお人好しも善人とは言わないだろう。


 ──明かりの下の革袋を拾って、無言でガイドに押し付けてやった。


「アンタ……!」


 一転、ガイドは顔をほころばせて胸に抱いた革袋を足元に置いた。

 遠慮なく紐で縛られた革袋の口を広げ、中を覗き込んだ隙に何気なく背後へ回り、彼奴きゃつの首をひねってやる。が前のめりに倒れた。


 しかし、力づくで真後ろを向かされた体勢である為、うつ伏せではない。

 じれた首、驚愕に見開いた目、半開きの口。口から垂れ下がった舌は精巧だが、唾液にまみれていない。


 彼奴の体が痙攣するかのように動いているのは断末魔における生理現象ではなく、立ち上がろうとしてはしくじっているだけだ。突然、前後が逆になった感覚についてこれないだけ。見抜いた以上、早急にとどめを刺さなければならない。



*****



『……ふざけた真似するじゃねぇか、今度の新人は!』



 ──そして、戦闘は終わった。ひとまず戦闘不能には出来た。

 結論から言うと、ガイドは人形だったのだ。


 まともに戦えば手強い相手だったろう。常に有利な状況で戦えたのが功を奏した。

 けれど、これほどに痛めつけても口はまだ回るらしい。


 ──少し喉が渇いた。酒が吞みたいな。


『クソ野郎が、すかしやがってよ……! こんなに壊しやがって、これじゃ廃棄するしかねぇじゃねぇか! いいかお前はな、やっちゃいけねぇことをやったんだ! 俺に手を出したことじゃない、本質的にもっとヤバいことをやらかしたんだよ! お前がぶち壊したのは予定調和だ、調和を乱した者は例外なく呪われるんだ! お前はこれから、俺をおとしめた罪をつぐなうことになるんだよ!』


 ……革袋の紐はその口を閉じても十分に余るほどだった。

 手に巻き付けて、肩に背負う。


『階段を上った先が言葉通りと思うなよ』


 ──朗報だ。横たわる人形を一瞥いちべつして広間を出ていく。

 意外に早く、美味い酒にありつけるかもしれない。






<終>




*****




・「あとがき」


カクヨムコン中だし、短編でも書こうか。ダンジョンモノは忌避してたけど、なんか思いつけたら設定とか細かいもの全部ぶっとばして書くだけ書いてみよう。で、思いついた。書いてみた。なんだこれは!? どうしてこうなった……


……まぁ、動機と結果はそんな感じです。


基本的に自分がダンジョンモノというかダンジョンに忌避感があるのはなんか必然性がないというか設定的に不自然な感じがするからですね。そこがどうにも克服出来んかったので進んでやる気にはなれなかったんですよ。


それでは、今回の短編の話。


ダンジョンモノというと自分の中では大きく二つあって一つはウィザードリィ系の3Dダンジョン、もう一つがローグライクというか不思議のダンジョン系。冒頭からキャラクターメイキングというていで設定を開示しながら話を進め、最後に二周目の裏選択的などんでん返しを仕掛けて読者を騙し討ちする……そういう筋書きでした。


ウィザードリィと見せかけて、ローグライク。


話の中で初期設定次第じゃ持ち物がパン一個であるかもしれなかったり、階段が聖域だったり、序盤は素手で敵を倒したり……一応、ほのめかしてみたんですが伝わったでしょうか? 階段が聖域ってのはちょっと違うかもしれませんが。何分、うろ覚えなもので……


あと、ちょっと分かりづらいですがガイドの最後の台詞が世界が切り替わったことの示唆ですね。予定調和の崩壊=予想出来ない、つまりはランダム(ダンジョン)です。


タグに入れた「フロムなんたら」はそういうのを引き起こすのはあそこのプレイヤーキャラっぽいよなぁ、という聞きかじったただの自分の偏見です。申し訳ない。


ただその、調子に乗った戦闘シーンっぽいのが下手するとレギュレーション違反かもしれない。果たしてあれが暴力表現に入るかどうか……なるべく穏当な表現にして、戦闘シーンもとっかかりだけで後はバッサリとカットしたんですが。


あ。その関係で目隠しの布を使うのも没にしました。やむなし。


自分じゃセーフと思うものの、運営にどう判断されるかでダメならダメで仕方ない。

今回は「騙し討ち」がテーマなもので……短編だし、挑戦的に自分の殻を破る為にも自重ではなくちょっと我を通してみようかな、と。


サブタイに合わせ、センシティブにチェックしなかった理由はそのあたりです。


それと「騙し討ち」ですが、で軽いダンジョンモノと見せかけて一昔前の──そして、ラストの選択と。二段構えになっておりました。


一粒で二度おいしい、的な? ……違うか。

ま、こういうのは強引でも言ったもん勝ちですよね。


じゃ、話すことも話したんでそろそろ締めましょうか。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。それでは!




※その他のカクヨムコン10参加小説


・「魔術師と剣のひらめき」(長編)

https://kakuyomu.jp/works/16818093087114848590


こちらは剣と魔法の世界で冒険者をやる王道的な話です。

作者の趣味で魔術師成分が強めです。



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「ダンジョンに手をだしてみた!」 てぃ @mrtea

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