一人と自由な羽
星乃
自由な羽
渡り鳥の行く先を、私はいつも夢想している。
多分どこか遠くて、今いるところより生きやすくて、とても綺麗な場所。
けれど、その行き先は自分で選んだのか。そこへ行くことは、自由なのか。
きっと、詳しいことは調べたら分かるのかもしれない。
だけど答えは知らないままで良いと思った。
昼休み。私は一人でお弁当を食べるため、いそいそと教室から出た。
最近、ぼっち飯に最適な場所を見つけたから足取りが軽い。
寂しい、と思わないわけではない。一番あるのは、これは自分で選んだことだから、という清々しさ。だけどどこか、複数人で賑やかに食べている人達を見ると、後ろめたいような、悪いことをしているような気分にもなる。
階段を上って息をついた後、屋上の扉前の定位置に座ろうとして固まった。
先客が、いた。
私の足音に気づいたのか、ゆっくりとこちらを振り向く。
前髪で片目が隠れていて表情が分かりづらいけれど、多分驚いていた。
「あっ……ごめんなさい。私、最近ここでよく食べてて、まさか誰かがいると思わなくて」
沈黙が流れ、おずおずと私から切り出すと、見知らぬ女生徒は「どうぞ」とでも言うように端っこに移動した。どうしたら良いか分からず佇んでいたら、優しい風のような声が耳に響く。
「ここは誰かの場所って決まってるわけじゃないから……誰が座っても良い」
私を見上げる瞳は、まるで全てを見通すかのように透き通っていた。
恐らく、私も座っても良いということなのだろうけれど一応確認する。
「隣、良いですか?」
こくりと頷いたのを見届けてから、少し緊張しながら彼女の隣に腰を下ろした。
空腹のままにお弁当箱を開ける。そういえば、と思い隣を見ると、やはり彼女は何も持っていなかった。周りに何か食べた痕跡もない。
「……お昼ご飯、何か食べました?」
尋ねると、彼女はゆっくりとかぶりを振った。
不思議そうな彼女と、お弁当箱を交互に見ていたら自然と言葉が溢れる。
「食べます……?」
お弁当箱の中身を見せると、彼女は珍しげに顔を近づけた。それから匂いを嗅いで、こくりと頷く。
箸を渡そうとしたら受け取ってもらえず、好きそうだなと思うものを直感で選び、彼女の口に運んだらぱくりと食べてくれた。私もお腹が空いていたから等分になるように自分も食べつつ、二人で完食する。
空っぽになったお弁当箱を片付けると、沈黙が降りた。正確には、下の階や外からの賑やかな声は微かに聞こえている。けれど、一人でいる時とはまた違った心地良い静けさだった。
不意に、隙間風がふわふわと私と彼女の髪を揺らす。
「……風」
彼女が、少しだけ視線を上げてぽつりと呟いた。
「屋上、閉まってるの残念ですよね。きっとすごく風が気持ちいいのに」
「もっと、自由でいたらいい」
風、と聞いてチェーンのかかった屋上の扉の先を想像したら、彼女はそう言って、いきなり立ち上がった。驚いて座ったままの私を見下ろすと、また優しい風のような声を響かせる。
「心は、いつでも自由。あなたは、どんな空が良い?」
言い終えると、彼女は走り出して、階段の手すりを飛び越えた。
「えっ……!?」
急なことで身体が着いていかず、数秒遅れて手すりの下を覗き込んだのだけれど、彼女の姿はどこにもない。大きな音もしなかった。
誰もいないのに一人首を傾げていると、予鈴が鳴る。
頭が混乱状態のまま、ふと彼女がいた場所に目を向けたら白い羽が落ちていた。しゃがんで拾い上げると、白く艶のある見た目に、羽だから当たり前かもしれないけれど手触りはふわふわしている。
さっきまであっただろうか。彼女の影に隠れていたのだろうか。
彼女の行方といい、頭の中が疑問だらけだ。
そうこうしているうちに本鈴がなって慌てて駆け出す。羽はお弁当箱が入っている布袋の中へ咄嗟に入れてしまった。
次の日の昼休み。昨日見た彼女の姿はどこにもなかった。
予想はしていたけれど残念に思いつつ、いつも通り一人で食べ終えて廊下を歩く。大体の教室で、食べ終わった後の延長で談笑している複数人の塊があった。
どこか心の片隅で後ろ暗さを感じていたら、ふと視界の端の白が気になって、窓の方に視線を移す。
白い鳥が、飛んでいた。
自由に旋回して、こちらにその白い翼を披露した後、すぐにどこか遠くへ行ってしまった。
いつもの癖で行き先を夢想する。けれど途中で止めて、入れたままだった昨日の羽を取り出し、手のひらに載せた。
そこから、自由に想像する。もし彼女があの白い鳥だったとしたら……と。きっと、自由に気の赴くまま、もしかしたら風に呼ばれるように飛んでいるのかもしれない。
白い羽をもう一度見たら、心は自由だと言った優しい風のような声が響いた気がした。
一人と自由な羽 星乃 @0817hosihosi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます