宇宙人のラーメン屋

***

「へいらっしゃい」


「あ、はい」



 ラーメン屋に入ると俺は目が点になった。


 ドライブの途中、地方の小都市で俺は目についたラーメン屋に適当に入ったのだ。ただ昼飯を食う、それだけの目的だった。美味しさとか店の雰囲気とかはどうでも良かった。そう何度も来るはずはなかったからだ。



「ご注文は?」


「あ、ちょっと待ってもらえますか」


「はいよ! 一名様注文待ち!」


「はいよぉ!」



 店の中に威勢の良い掛け声が響く。俺は驚愕の目でそれらを眺める。


 とにかくカウンターに座り、俺はメニューを見るフリをしつつ店の中を観察した。


 どう見ても宇宙人だった。店の店員が全員どう考えても宇宙人だった。


 灰色の肌、真っ黒な大きな眼。グレイ型とかいうやつだろうか。詳しくはないがオーソドックスな宇宙人だろう。


 その宇宙人たちが普通にラーメンを作り、客に運び、レジを打っている。



「俺頭おかしくなったのかな」



 俺はまず自分の正気を疑った。知らない間にノイローゼになっていたのか。とにかく何度眼をこすっても目の前の光景は変わらない。


 俺の目の前では割烹服を着た宇宙人が汗をぬぐいながら面の湯切りをしていた。



「おやじ、ちょっと今日チャーシュー薄くない?」


「冗談言っちゃいけないよ。俺の感覚に狂いはないんだから。老眼始まってんじゃないの?」


「ははは、まだ大丈夫だよ」



 宇宙人は横の客と小粋なトークを繰り広げていた。おやじなのか。俺にはすべすべの肌の宇宙人にしか見えないが。


 というか、客はそれなりに居るが全員人間だ。しかも普通に宇宙人とやり取りしている。どうなってるんだこれは。



「いらっしゃいませ、お水です。ご注文はお決まりですか?」


「あ、すいません。えっと」



 気づけば横に宇宙人が一人立っていて、水を俺の前に置いた。声を聴くにどうやら女の子のようだった。注文を取りに来たのだ。俺はさっとメニューを見る。あまりにも普通のラーメン屋のメニュー。いや、違う。ひとつだけ妙なのがある。



「あ、UFOラーメンひとつ」


「はい、かしこまりました。UFOはいりまぁす!」


「はい! UFO一丁!!」



 また店内に威勢の良い声が響き渡る。 


 UFOラーメン。UFO型の大きなメンマにネギやもやしやワカメがどっさり入った野菜系の塩ラーメンのようだった。


 さすがに気になった。この店員たちでUFOラーメン。あまりにも気になった。


 見た感じ普通のラーメンの範疇を出ていないが、なにか、なにかがあるのではないかと思ってしまう。


 というか、マジでなんなんだこの店は。俺は悪い夢でも見てるのか。



「メルちゃん、今日は機嫌良いね」


「分かります? 新しい美容液使ったら肌ツヤ良くなったんです」


「へぇえ、全然わかんない」


「男の人はこれだから」



 注文を取りに来た宇宙人が常連らしきおっさんと楽しそうに会話している。肌はこれ以上ないほどツルツルに見えるが。


 客は本当に誰一人この状況を疑っていないようだった。一体全体どういうわけだ。



「お客さん、よその人かい?」



 と、唐突におやじと呼ばれていた宇宙人が話しかけてきた。



「はい、まぁ。そんな感じです」



 俺はたどたどしく答えた。



「まぁ、うちは普通のラーメン屋だけどね。気に入ったらまたこの辺来た時寄ってくれたら嬉しいよ」


「は、はぁ」


「お客さんの頼んだUFOラーメンはワカメたっぷりだから抜け毛なくなるよ、ってこんなツルツル頭に言われても信ぴょう性ないか! ははは!」



 なんかおやじと言われた宇宙人は一人でしゃべって一人で勝手にウケていた。若干うざい。それに確かに頭はツルツルだがどう反応すれば良いんだ。



「はい、そう言ってるうちに。UFOお待たせぇ!」



 そして、目の前にUFOラーメンが置かれた。


 見た目は普通のラーメンではあるが。俺は恐る恐るUFOラーメンを受け取り、そして目の前に置いた。



「......(ゴクリ)」



 喉が鳴ったが食欲によるものではなく緊張によるものだった。一体、どういうラーメンなのか。


 もしかして、この宇宙人たちはラーメンになにか盛ってこの町の人間を洗脳しているのではないか。俺もこれを食べればその一員になるのではないか。


 様々な憶測が俺の頭をよぎった。


 だが、腹は減っていた。俺は恐る恐るスープをすすった。



「う、うま」



 美味しかった。それもそれなりの美味しさだ。値段から見たら明らかにコスパが良い。美味しい普通のラーメン、そういった感じだった。



「お客さんのその言葉が最高のご褒美だねぇ」



 と、カウンターの向こうではおやじが俺の言葉を一人噛みしめていた。何だか分からないがおやじが喜んだなら良いことなのか。


 俺はそのまま麺をすすり、スープを飲み、山になった野菜を崩しながら食べていく。


 どれも美味しかった。手抜きの部分は一切感じられない。そして、俺の体への変化も一切感じられない。普通に美味しいラーメンで、俺はそれをあっという間に完食した。



「ごちそうさまです」



 俺は合掌し、小声で言った。



「おそまつさま!」



 そんな俺の小声も聞き逃さず、おやじは答えた。


 そして、水を飲むと俺は席を立つ。



「お客様お帰りぃ!!」


「ありがとうございました!!」



 そして、出切口に向かうとまた威勢の良い声が響き、レジに宇宙人がやってくる。


 俺は普通に会計を済ませ、そして店を後にした。


 俺は店の外から外観を見る。


 どう見ても普通のラーメン屋だった。



「なんなんだこの店は」



 結局最後まで普通のラーメン屋だった。なにがなんだか分からなかった。





















「さっきのお客さん.....」


「ああ、知ってるよ。テレビに出てた。コールドスリープから目覚めて脱走したっていう地球人の人だろう?」


「だから、私たちを見て目を白黒させてたんですね」



 バイトの少女とおやじは会話する。今日もラーメン屋は繁盛しており、客でいっぱいだった。



「地球人が戦争で滅びかけた時代の人なんですよね。その後に私たちが入って地球の修復を手伝ったとかって。学校で言ってました。400年も前のことですよね」


「そうだね。あの人は400年前の人だ。俺たちが分からなくても仕方ない。それに、記憶も混濁してるんだろう」


「政府が捜索してるってニュースで言ってましたけど、通報しなくてよかったんですか?」


「ラーメン屋はただラーメンを客に出すのが仕事だからね」



 おやじは言った。今日は不思議な客がやってきたのだ。だが、その客はおやじのラーメンをうまいと言った。だから、おやじはその客の未来を案じずにはいられなかった。

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宇宙人のラーメン屋 @kamome008

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