わたしの好きなひと。

幽幻 桜

それでもわたしの、好きなひと。

先生と生徒。

歳の差は十三。


それは、大きいような、小さいような……。


それでもわたしの、好きなひと。




「春ー!おはよー!」

「おはよう、愛生。」

朝。通学路。わたしは後ろから友達に声を掛けられた。

わたしの名前は春音。高校二年生。友達からは、春とか春音って呼ばれてる。

「ねぇねぇ昨日のアニメ最新話観た!?」

「観た観た!最高だったね。」

そして、オタクである。更に付け足せば、あまり明るい方ではない。陰キャ、と言われても仕方の無い性格をしている。

それでもわたしは満足してた。毎日が楽しい。

優しい友達に恵まれて、好きなことがあって――学校に、好きなひとがいて。

「それであのシーンでさぁ……!……おっと。」

「……?どうしたの、愛生……。」

そこまで言ってわたしは気付いた。愛生の視線の先。そこには。

「夏目くん……。」

「夏目ー!」

タッタッタッ……ドーン!

愛生のタックルにも似た抱擁。

そう。夏目くんは、愛生の彼氏。……同い年の、恋人。

「愛生。おはよう。

春音ちゃんもおはよう。」

「おはよう、夏目くん。」

「それはそうと愛生~!毎朝タックルはやめろって言ってるだろ~~~~!」

グリグリグリグリ~~~~!

「ちょっ、痛い、痛いよ夏目~!」

「うふふ、今日も仲良いね。」

愛生は夏目くんに『梅干し』をされていた。

微笑ましい光景。わたしは、このカップルを見ているのが好きだった。

見ててほのぼのする……。

「あっごめん春!話の続きしよ!

それであたしは何回も言ってるけど今季は本当にあのアニメが覇権取ると思ってて~~~~!」

「面白いもんね。でもわたしは土曜日のあのアニメも好きだなぁ。」

「春はどっちかって言うとほのぼの系が好きだもんねー!

あたしはやっぱり王道のー……」

わたしと愛生がアニメの話を再開すると、夏目くんも自分のお友達の所へと行った。

……ずっと一緒にいなくても、絶対に離れない仲良しさ。本当に素敵だと思う。

わたしの恋は、違うから……。

「もう学校だねぇ~。

冬本先生、いるといいね(コソッ)」

「うん……!」

冬本先生。

それがわたしの好きな人の名前。


初めて先生を見たのは入学式の、体育館での担任紹介の時だった。

わたしは列が前の方で、先生方の顔がよく見えた。だから――見えてしまった。

冬本先生の顔を見た時に、わたしは恋に落ちてしまった。いわゆる、一目惚れ。

生徒としてあるまじきだけど……冬本先生のお顔が、わたしのタイプストライクだったのだ。

眼鏡がとてもよく似合う、ちょっと厳しそうな顔。でも、少し見せた笑顔が……とても、可愛らしい、ギャップだった。

担任の先生に、なって欲しいなぁ……。

その願いは叶い、檀上で、冬本先生はわたしの担任の先生だと発表された。

冬本先生は、ペコリと頭を下げただけ。笑いはしなかった。

けれど、それがクールでカッコいいとさえ思ってしまった。

担任の先生……!?

毎日顔を合わせる……!?

……なるべく休まないようにしよう。模範の生徒になってみせよう。この恋を守る為に……嫌われないようにしよう。

この恋は、許されない。なら、密かに想うだけ。

だから、せめて嫌われないが第一条件。

そうして、わたしの恋物語の幕が、静かに開いたのだった。




そうして現在。

冬本先生は――いる。

冬本先生は、風紀委員会の担当でもあるから、毎朝校門前で風紀委員の生徒と一緒に挨拶をしている。

「おはようございまーす。」

「はいおはよう。」

冬本先生は相変わらず、表情を崩さずに挨拶をしていた。

「今日もカッコいい?」

「もう愛生ったら……!

……でも、うん。」

「そっかー!春ちゃんおきゃわですなぁ♡」

「もうっ!からかわないで……!」

わたしが冬本先生が好きだってことは、愛生、そして愛生の恋人の夏目くんしか知らない。二人共、絶対に言わないって約束をしてくれて、わたしの秘めたかすかな想い語りを聞いてくれたり、時には相談にも乗ってくれていた。

本当に、良い友人を持ったと思ってる。

「じゃあ、行こっか!」

「うん……!」

愛生はそっとわたしの手を取り、校門へ一緒に向かってくれた。

一人だと勇気が出ないというわたしに愛生は根気強く付き合ってくれている。

「おはようございまーす!」

「おはようございます……!」

「はいおはよう。

あ、今日も仲良いね。」

「……!?」

突然の認知。突然の認知にわたしは驚き……

「しっ失礼しましゅっ!」

その場を愛生の手を引っ張って逃げてしまった。そして噛みました。


「あっはっはっはっはっ!」

「もう~そんなに笑わないでぇ~!」

教室に着くなり、大爆笑を始める愛生。まぁ……笑われても仕方ないのかもしれない。絶対変に思われたよぉ~!

……でも、先生がわたしのことを覚えていた。それはもちろん去年担任をやってくれていたので当たり前なのかもしれないけれども……実は先生との繋がりはもう一つある。

今年は残念ながら、担任の先生ではなくなってしまったのだけれど……今年から新設された文芸部。部員はわたしと、もう一人の女の子。部長はわたし。

冬本先生はその……顧問になった。

だから正直なことを言うと、先生とわたしの仲は悪くない方だ。

でも、なるべくこの想いが知られないように、会話は控えめ……そもそも恥ずかしくてなかなか踏み出せない、というのもあるけれど。

冬本先生は、本を読むのが大好きだそうで。

わたしは、小説を書くことが好きだった。

そのことがきっかけで、わたしは先生の笑顔を初めて見ることが出来た。

わたしはいつも、学校ではスマホで小説を書いていた。

パソコンは学校に持ち込めないし、パソコン室はパソコン部の部室で使えない。だから自然と、わたしの活動はスマホになってしまうのだ。

ある時、わたしはいつも通りスマホのメモ機能を使ってせっせと小説を書いていた。もう一人の部員の子は日向で軽くお昼寝。

そこに、先生が入ってきた。

けれどわたしは気付かず、せっせと書き続けていたらしい。

すると不意に先生が、

『お前は小説を書けるんだな。俺は読む専門だから、凄いと思う。』

と、わたしに向けて声を掛けてきた。そして、笑った――前回の部活中の出来事。

この事はまだ、愛生には話していない。

次の部活までにどうにかしたいので、わたしは、まだ人も少ない教室で大爆笑中の愛生に話を切り出した。

「あ、愛生。あのね――。」


「って事があって……。」

「えー何それ急展開!

めっちゃいいね!恋愛マンガなら王道展開じゃん!」

こんな時にも例えで二次元コンテンツを出してくる辺り、本当にわたしの友達だなぁって思う。

でも、話は真面目に聞いてくれていて……。

「それで?春はなんて返したの?」

「い、一応、ありがとうございますって言えた。スマホで顔は隠しちゃったけど……。」

「ありがとう、を言えたならヨシ!」

「その後は先生、部活中の定位置に着いて本を読み始めちゃったから、それ以外は特に……。」

……でも、褒められたのは確かで。

本当に。本当に。嬉しかった。

「そっかー!んー!……だったらさ、冬本先生に、掻いた小説読んで貰えば?」

「…………。」

……へ?

「いっ、いやいやいやいや無理っ!ぜぇったい、無理……!」

「えー何でー?」

愛生ってたまに本当に突拍子のないこと言うよね……!

「そもそも、まだ人に全然見せられるクオリティじゃないし……!」

「でも文芸部って文化祭になったら個人冊子出すって決まったって言ってなかったっけ?」

「うぅ……。」

そう、文化祭でわたしたちは個人で冊子を創ることになった。

でも、知らない人に見られるならまだしも、知ってる人にはまだ……ううん、冬本先生には、まだ、見られたくない……!愛生にすら、見せてないのに……。

「じゃあ、添削お願いしますーって言うとかは?」

「それでも無理無理無理無理……っ!」

自信が無いわけじゃない。

正直、わたしは、わたしの、自分で創る物語が、結構好き。

でも……。

それを、否定されたくない。

面白くないって、言われたくない。

だから、知ってる人に、見せたくない。

面倒くさいけど、これがわたしなの。

「そっかー……。」

「ごめんね、愛生。でもこれだけはまだ……難しい。」

「そうだよね。」

「え?」

「自分の大切にしてること。それを強要することは出来ないし、、春にとって大事な想いに踏み込んでいいわけじゃない。

春のペースで頑張ることだよね。

こっちこそ、無理言ってごめんね。」

愛生……。

……愛生はいっつも、こうやってわたしのことを分かってくれる。そんな愛生だからわたしは、安心するんだ。

「愛生、ありがとう。

でもいつかは、知ってる人……勿論、愛生にも。

わたしの小説、読んで貰うね……!」

「……!うん!楽しみにしてる!」

そうしてわたしたちは笑い合った。そして……

「「あ。」」

笑い合って、気付く。

「「本来の相談の件、忘れてた……!」」


それから二人でうんうん唸って考えたけど、結局いい案は浮かばなかった。




そうして、放課後の部活の時間――。

愛生は文芸部には正反対の、運動部。夏目くんとおんなじ部活だ。

……好きなひとと部活がおんなじなのはわたしと同じだから、やっぱり親近感は湧く。

でも……。

「どうしよう……!」

わたしは部室前で、頭を抱えていた。

だって結局、何の解決策も無いまま、部活の時間になってしまったのだから。

でも、こんなわたしでも、部長をやらせてもらってるんだ。だから、部活から逃げるのだけは、言語道断。

「よし。」

なるようになる。流れに身を任せる。

そうしてわたしは、部室の扉を開けた。


「あー部長~いらっしゃーい。」

中に入ると、部員の子がのんびりしながらお出迎え。

冬本先生は、いない。

「うん、来たよ。」

少しホッとしたら、わたしは定位置に着いた。そしてスマホを取り出す。

作品を書いていれば、少しは落ち着くでしょう。

わたしは執筆を開始した。

……。

……。

(全っ然集中出来ない……っ!)

いつもなら、溢れてくる言葉が沢山。でも何故だか今日に限って言葉たちは出て来てくれない。

(……。)

でも、書けない時に無理矢理書いても良い作品は生まれない。

だから……。

「隣、いいかな?」

わたしは、いつも日向ぼっこしてる部員と一緒に日向ぼっこをすることにした。

「お、部長も日向ぼっこ~?

いいよいいよ、一緒にだらだらしよ~?」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

わたしは初めて、部活中に頑張ることをやめた。

日向の匂い、温かさが心地良い。

ああ、回復する……。

「ぶちょー。」

「ん?」

「部長って凄いよね、いつも長い時間小説書いてて。」

「凄い、かな……家の時の方がもっと書いてるよ。」

「えぇ~凄いねぇ。

私は本が好きってだけの理由で文芸部に入ったからさ~読むのが好きなんだ~。」

読むのが、好き。

……先生と一緒だ。

「でも、読む専の私でも分かるよ~部長が凄いって。先生にもさ、褒められてたじゃん。」

「み、見てたの……?」

「うん~いつも起きてはいるんだよ~?」

そ、そうだったの……。

「だから~もっと頑張ってれば、きっといい事あるよ~。部長からは、そんなオーラがするの~。」

「……。」

「だから~『色々』、頑張ってご覧~。」

「……っ!」

もしかして、この子、気付いて……?

「あ、あのっ……」

ガラッ。

わたしが、気付いているか尋ねようとしたタイミングで、冬本先生が部室に入ってきた。

「お疲れ様。」

「おつで~す。」

「おっ、お疲れ様です……!」

先生は、相変わらずの無表情。でも……

「今日は日向ぼっこの日か。

まるで猫みたいだな。」

そうとだけ言って、先生は本を手に取り、読書を始めた。

先生の横顔、素敵だなぁ……。

……そうだ、愛生が言ってくれた通り、わたしのペースでいいんだ。わたしはこの、先生の横顔を見てるだけの、このペースで――……。




数カ月経ち、時は文化祭のシーズンに。

わたしたち文芸部も、てんやわんやする時になった。

正直、部活を創立した時はこんなに忙しくなるなんて思ってなかったってくらい忙しかった。

あの後、日向ぼっこの一週間後くらいから、文化祭の話を冬本先生から聞いた。

部活設立の時、色んな先生方から、いくつか条件が出されていた。


毎週活動すること。

部員は少しづつでも集めること。

毎月一つ作品を作ること。

文化祭で冊子を作ること。


――。

そうして、文化祭の時期が近付いてきた辺りからてんやわんやだった。

でも、嬉しいこともあって。

文芸部に、新しく部員が入部してくれたのだ。

二人。二年生の女の子と、一年生の男の子。

二年生の女の子の方は、前から小説を書いてみたかった。でも、一人じゃ不安だったけど、部活なら……!と思ったと言っていた。そしてわたしに「頑張るのでよろしく」と言った。

一年生の男の子の方は、小説を書くのが好きだったけど、勇気が出なかった。けれど限られた青春、好きなことをしたい、と勇気を振り絞って入部してくれた。

二人共、とても、とても大切な部員となってくれた。

そうして、わたしたちは本格的に、文化祭の準備に取り掛かる事が出来たのだ。

先ずは、執筆環境。

部内で会議を重ね、パソコン……ワードでの作品集とすることにした。

けれど、パソコンが無い、という子もいたので、次にそこをどうするか悩んでいたら、冬本先生が話を回して下さり、パソコン室を使えるようにしてくれた。

本当にありがたかったし、とても嬉しかった。

これで、執筆環境のセッティングは整った。

次に、書く題材。

これは、各々自分で好きなものを書く、という結論に至り、何の問題も無く始められた。

最後に、どういう形式で作品の発表をするか。

結論としては、一冊の本にまとめることにはなったが……どうやって?

ワードで書く以上、データ形式だ。けれど、予算が限られていて、印刷所に頼むなんて出来っこない。どだい無理な話。

そこで、書いた作品を本のような形にして、分厚い紙でも留められるホッチキスで纏めるという案が出た。

……これが一番理想的で簡単且つ確実かもしれない。

ホッチキスや印刷用の紙等は予算で購入。

うん、これだ。

わたしたちはこの案で文化祭を回す事に決めた。

決まったら次は……そこに至るまでのやることをやるだけだ。

先ずは皆創作を開始する。

わたしはもう題材やプロットが出来ていたので、形にしながらパソコン作業。わたしの場合は家でも出来たけれど……皆でわいわい作業をするのが楽しすぎたから、学校と家、両方で作業をすることにした。たまに、作品を見せあって意見交換をしながら作業したり、他愛の無い話を楽しみながら活動をした。

段々、わたし以外の子たちもパソコン打ち込み作業に入ってきた。

パソコン作業に入ると入ったで、また別の話題が出て、その時間を楽しんだ。

「出来たぁ……!」

一番初めに声を挙げたのはわたし。小さく伸びをする。

まぁ、学校と家、両方でやっていたからスピードが違ったのだけど。

その時に……

「お疲れ様。」

声を掛けてくれたのは、冬本先生だった。

冬本先生は、活動中、毎回わたしたちの様子をちょこちょこ見に来てくれていた。だから、わたしが何気なく放ったその一言に反応してくれたのだ。

伸びをしていたわたしは……

「あ……。」

突然の出来事に固まってしまったが、それでも。

「あ、ありがとうございまひゅ……。」

御礼を言えた。……噛んでは、しまったが。


それから少し経って。

次々。次々と、作品を完成させる事が出来た子が増えた。

皆の作品をお互いに読んで、また感想を言い合ったり、誤字脱字のチェックも。

「よし。じゃあ、印刷しよう!」

次に、紙やホッチキスを買ってきて、いざ印刷と纏め作業に移った。

印刷も、また冬本先生が話を回してくれて、職員室のコピー機を使わせて貰えるようにしてくれていた。

わたしたち全員、冬本先生に感謝して、有難く職員室を使わせて貰った。

……冬本先生は本当に頼りになる。だからわたしたちも甘えていた。

クールで、顔には出ないけど、本当に優しい、生徒想いの先生なんだな、なんて再実感しながら。


印刷も無事終わり、後は製本を残すだけ。勿論、手作業。

これが結構大変。そんな話を愛生にポロッとしてしまったら……。

次の部活の時。

「やっほー春!手伝いに来ました!」

「迷惑じゃないなら是非やらせて欲しい。」

愛生が、夏目くんも連れて手伝いに来てくれたの!

「愛生……!夏目くん……!

迷惑なんてとんでもないわ!手伝って、くれるの……?」

「勿論!運動部は今活動休止だし、春の力になれるならなりたくて来ちゃった!」

「……ありがとう、本当にありがとう……!」

「な~に、親友が困ってるのは見過ごせないわ!」

「……じゃあ、お言葉に甘えるね。」

文化祭が近付いてきて。冬本先生も忙しくてわたしたちに構ってる時間なんて無くて。人手が少なかった今、こうしてお手伝いをしてくれるのは、本当に、本当に有難かった。

わたしたちは文化祭まで残り僅かな時間を、楽しみながら作業することが出来たのでした。




そうして、文化祭当日――。

「「「終わったぁー!」」」

皆で、感嘆の声を挙げた。

結局、製本は当日の朝まで掛かってしまった。

かなりの数刷ったのと、慣れない製本作業に皆で四苦八苦。

ギリギリにはなってしまったけれど、こうして部誌は出来た。

「愛生、夏目くん、皆。

本当にありがとうございました……!

皆のおかげで、本当に素敵な冊子が出来てわたし嬉しい。

この後,文化祭本番。皆で頑張ろうね!」

そう言って、わたしは愛生と夏目くんに振り向いた。

「愛生と夏目くんがいなかったら間に合ってなかった。本当に、本当にありがとう。

この後はわたしたちで頑張るから、二人は文化祭、楽しんで欲しいな。

たまに遊びに来てくれたらもっと嬉しい、な……!」

わたしは二人に、出来上がったばかりの部誌を手渡した。

「くれるの?」

「うん、元々無料配布の本だし、手伝ってくれた二人に一番に渡したくて。」

「ありがとう。大切に読むね。」

「あたしも大切に読む!春の助けになれたなら良かった!」

「……ありがとう。」

と、その時。

ガチャリと部室のドアが開いた。

「あ、まだいた良かった。」

そこに立っていたのは冬本先生だった。

「部誌が出来たって聞いて来た。

取り敢えずお疲れ様。

最後の方何も出来なくて悪かった。」

「いっ、いえ、先生も文化祭の準備で忙しかったと知っているので……!」

「これ、皆に。」

そう言って先生は皆に飲み物を配った。

「わっ……ありがとうございます……!」

「文化祭中も多分一緒にはいられないから。」

文化祭……そういえば、先生と生徒だから諦めてた。……冬本先生と、文化祭、回りたかったな……。

(って、何を考えてるのわたしっ!)

わたしは頭をブンブン振って雑念を追い払った。

「さて、そろそろ一旦教室に戻る時間だ。

ホームルームが終わり次第、各々文化祭、頑張ろう。」

「「「「はい!」」」」




(一体どうしてこんな事に……!)

遡ること二時間前……


文化祭を開催出来たわたし達は、無事、二日間を乗り切る事が出来た。

「ありがとうございました!」

その声を最後に、配布していた冊子も配り終えた。

これといったトラブルも無く、わたし達は二日目の後夜祭に。

……本来なら。本来ならっ!

愛生と、夏目くんとわたし、三人で校庭のフォークダンスや先生方の出店を見て回る予定だった。だけど……

『ふあ~あ、疲れた~!』

それじゃあ行こっか!となったタイミングで、冬本先生が部室に入って来た。

『え、先生どしたんすか。』

夏目くんが問う。

『生徒やら来客対応で疲れた。ここで少し休ませてもらう。』

と言っておもむろに本棚に近付いていった。

……そこで、愛生と夏目くん、悪いカオ。

愛生がわたしの傍にビュンっと来ると、

「二人きりにしてあげる♪頑張れ♡」

なんて言って二人でスタコラ部室を出て行ってしまった。


そうして、今に至る。

文芸部の部室。

わたしと、冬本先生の二人。

……心地悪い。でもそれ以上に、心地いい。

わたしも、何か本を読もうと、本棚……冬本先生の腰掛けるソファの近くに行ってしまった。

「なぁ。」

「ひゃいっ!」

話し掛けられた。心臓が、音を立ててわたしの中で響く。

「二日間。」

「え?」

「二日間、楽しめたか?」

冬本先生は、そう言って笑った。まるで、わたしの答えなんて分かっているかのような顔で。

「……はい。とても。とても楽しかったです。」

「だろうな。顔を見れば分かる。

お前、凄くいいカオしてる。」

……!

冬本先生、笑うとこんな顔するんだ……。

今まで何回も見てきた笑顔。けれどわたしは、不思議とそんな感想を抱いた。

「俺はまぁ……疲れたけど、お前がそんないいカオしてるなら、頑張ったかいがあったな。」

「な……っ!」

な、何を言い出すの……?

もしかして、全部分かってる……?分かってて、そんなこと言うの……?

「……ズルいです。」

「え?」

……。

……!?!?!?

こっ、

(声に、出ちゃったぁぁああ……!)

やっちゃったやっちゃたどうしよう……!聞き逃したりなんてしてくれないよね……!?あああああ……!

「何が。」

「え……?」

「何が、ズルいんだ。」

冬本先生はそう言って、わたしの目をまっすぐに捉えた。

……。

「……先生はそうやって、何でもない風にわたしの心に入り込んでくる……。」

「……。」

「たまに見せる表情が、笑顔が……っ笑った声も……っ!」

わたしは――

「わたしはっ先生が好きなんです……っ!」




次いで、わたしの頬は濡れた。

今まで隠してきた想い。それがどんどん溢れてくる。

あなたへの好きが止まらない。言葉が、口が、あなたへと想いを伝えてしまう。

わたしは泣きじゃくった。泣きじゃくりながらも、言葉を、すべて。


伝えきった。


「……。」

「……。」

「……そうか。」

「……っ!」

先生は、静かに、それだけ言った。そして……


「……ごめん。」


わたしは、目の前が真っ暗になった。

分かってた。この答えは、分かってたことなの。

分かってた。分かってた、分かってた!

だけど……涙が、また溢れた。

「俺は、今は誰とも付き合う気はない。

……正直、お前の気持ち、知ってたよ。

だから……早く、終わりにしてあげたかったんだ。」

「終わり……って……。」

どうしてそんな、ヒドいことが言えるの……?

だけど。

「俺とお前は教師と生徒。

お前の気持ちには応えることが出来ないんだ。

だから――

俺への想いなんか早く終わりにして、新しい、素敵な恋を見つけなさい。」

先生はクシャっと笑って、わたしの頭を撫でた。

……そんな顔、初めて見たよ。もっと好きにさせないでよ。

わたしはその手を掴んで、握りしめて。

その場に崩れ落ちて、ただひたすら泣いた――。




先生と生徒。

歳の差は十三。


さよならわたしの恋心

さよならわたしの好きなひと


今でもわたしの――好きなひと。




                                    おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしの好きなひと。 幽幻 桜 @mikoluna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ