最終話 澄みきった海空

私は空にいる。


何もない地面の上を、

厚く重たい雲の下を、

何も感じず、何も思わず、

飛んでいるだけだった。


曇り空の下へ向かうと

こちらを睨む玉木が見える。

その目は充血していた。


私は慌てて

戦闘機をはじに追いやった。

すぐに、彼のもとへ向かうと

拳で殴られていた。


「貴様、

 何様のつもりだ。

 無線の指令を

 無視しよって

 この一瞬、一秒に

 この国の未来がかかってるんだぞ。」


私の顔をみたのか、

老兵が口を慎んだのかは分からないが

玉木は少しおびえた表情で咳をした。


「中将、特攻作戦とは一体

 どのようなものなのでしょうか?」


少し間があき、玉木の唇が震えている。


「いいな、

 落ち着いて聞けよ、

 我が帝国はありがたいことに

 敵機艦隊に己の体、魂、命を捧げろとお命じになった。

 国を守る弾丸として死ねるのだ、

 これ以上の幸福はない。」


「誰が、誰がなるんですか、

 その弾丸に。」


恐怖にひとみが揺らされている中、

玉木中将は口をさらに大きく開けた。


「青年だ。

 蒼く逞しい青年が

 帝国の鉛となって

火花を散らすのだ。」


私は、反論したかった。

しかし、玉木中将の顔色を伺うと

何も言うことができなかった。


玉木中将は話を進める。


「そこで、飛竜として名が通っているお前に頼みがある、

 これから特攻隊として

 戦地に向かう青年たちに

 激を飛ばしてほしいんだ。」


私は嘘であることを自覚しながら

「了解」とだけ答えた。


こうして、

今、私は青年たちの真横にいる。


これから、死にに行く青年たちに何か

声をかけなければならない。


思いの丈をありったけぶつけるしかないと思ったその時、

玉木中将が声を上げた。


「これから、我が海軍少将にお話を賜る。

 心して聞くように。」


私は階段を登り

教壇の上に立った。


青年たちの血眼がこちらに向いたことを確認し、

私は大きく息を吸った。


「諸君はここまで本当によく頑張った。

 努力を惜しまず、

 修練に耐え抜き、

 この航空隊に入ってきたことは

 賞賛に値する。

 

 ただ、それも今日までだ。


 今日諸君らは命を捧げねばならん、

 もしかしたら、これまでのすべてが無駄となる、

 そう考えるのもいるだろう、

 

 でも、それは違う。

 諸君の血潮は必ず後世に伝えられる。

 諸君の命は私が責任をもってつないでみせる。


だから、

諸君も命尽きるその時まで暴れてこい。

これが、私の最終命令だ。」


私がそう言い終えると

青年たちは駆け出し、

戦闘機に乗り、

飛び出した。


戦闘機が海鳥を蹴散らし

海空うみぞらの向こうへ消えていく姿を

私は、ただ見ることしかできなかった。

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澄みきった海空(うみぞら)と戦争の狭間で 三七田蛇一 @minata3

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