やりなおし

金谷さとる

わたしのお嬢さま

 


 白と黒の鳥が庭を舞っている。

 五華に沿う色を持っていたようにも見えたけれど、薄い布団に横たわるわたしに映る風景の中では白と黒にしか見えない。

 同数併せて十羽の鳥は庭先で縄張り争いなのか障子に影絵を刻みつけている。


『さて、セツ』

「おとぅ」

 影絵の男がわたしを見下ろしながら呼んでくる。懐かしい父の声。

 忘れていた亡き父の声。

『やりなおしたいのかい?』

 やりなおしは人生で十回。

 一回一回代償がある。

 たとえばやりなおしであることを忘れて同じことを繰り返すことだって。

 忘れていても違う行動をとることもあって違う結果になったりもする。

 五華のお嬢さま方が関わってくるタイミングだって違う。

「やりなおしたい」

 お嬢さまを助けたい。

『では、どこまで戻るんだい?』

 どこまで?

 どこが変化の起点?

 お嬢さまが笑ってくださる今をつくるの。

「お嬢さまに出会った日に」

 父の笑う気配を感じた。

『セツがお嬢さまのために頑張っていて嬉しく思うよ。さぁ、さいごのやりなおしだよ』

 あ。

 十回目のやりなおし。

 失敗したらお嬢さまに笑っていただけない。



「ゼツ。それがゼツの娘か?」

 知らない男の人の声。

 視界はぼんやりしているのに意識ははっきりしている。

 ああ、やりなおしがはじまる。

「ええ。セツとつけました。オレより濁りが少なければいい」

 おとぅ?

「まだ連れ出していいような時期じゃないだろう」

 知らない男の人の声は呆れるように、でも優しく父を嗜めていた。

 こんな時間知らない。

 動けない。

 なにも見えない。

 ぺちりとなにかあたたかいモノに触れた。

 なにかいる?

「こら。セツ。セツがお仕えするお嬢さまだぞ。お会いできて嬉しいな」

 父の嬉しそうな声にかぶせるように苦笑が聞こえる。

「ゼツ、決めつけてはいけない。ゼツの娘はきっと自分で生きる道を決めるさ。ゼツが決めていいことじゃないさ」

「いいえ。セツはお嬢さまにお仕えするんですよ。父からの命令にしますとも」

 どこか得意げな父の声が嬉しげで、やりなおしだから、父の声を認識できる嬉しさを知れる。

「仕える仕えないはどちらでもいい。セツはセツで好きにいきなさい」

「まだセツにはわかりませんよ」

 知らない男の人の声。

 知らない男の人の声なんです。

 わたしが知っている旦那様の声ではないのです。

 父はわたしをどこに送ったんでしょうか?

 お嬢さまはおられますがお嬢さまがいません。

 父の『お嬢さま』とわたしの『お嬢さま』は違うのです。

 そんなこと知りたいとは思いませんでした。

 わたしは赤児です。

 赤児からやりなおすのですか!?

 成長した心を持ったまま!?

 嘆くわたしを小さな手がぺてぺてと慰めてくださった。

 わたしのお嬢さまは、お嬢さまじゃないんですよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やりなおし 金谷さとる @Tomcat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説