3話

 それから俺は、レイナとパーティを組んで、彼女の指導に当たった。

 レイナの方も、俺の雑事や家事を手伝ってくれる。

 レイナの仲間たち二人の復帰にも力を尽くした。


 まずは女騎士のエリーゼ。剣と盾の前衛職。

 金髪碧眼の背が高いキリッとした目つきの美人で、気が強い性格だった。

 俺を信じるレイナに反して、エリーゼは俺を疑ってくる。


 やがて彼女から話がしたいと言われて、俺とエリーゼは町の公園に行き、二人っきりで肩を並べてベンチに座る。


「カズイさん、あなた……私たちをたぶらかして、ハーレムをつくろうとしてるでしょ!!?」


 エリーゼに頬を染めた顔ではっきり言われて、俺は激しく動揺してしまった。

 だがそんな内心はおくびにも出さず、どう言い逃れるか必死に考える。

 そこですぐある考えに至った俺は、機転を変えた。


 こういう女性は、男たちの誰をも疑っているだけだ。

 だから心の内は、とても脆くて純粋なのだと。


「……そうだ。俺はハーレムをつくりたい!」

「なっ……!?」

 だから、想いをストレートにぶつける。

「そしてお目当ての女性たちの中で、君が一番素敵だと思っている!!」

「がっ…………!!」


 エリーゼは、顔をもっと赤くして硬直した。

 それ以来何も言わず俺の指導に従って、短期間の内に冒険者として復帰する。


 俺とレイナのパーティに戻ったのは言うまでもない……フッ。チョロいな。


 もう一人の仲間、童顔な青髪の魔術師キャシーには時間をかける。

 気が弱い彼女には、それだけの長い時間が必要だった。


 まずは彼女の部屋の中で、身の上の話を聞くことから始めた。


「ちっちゃい頃に、家の物置の中から古い本を見つけたの……」

「君が今の道に踏み出すきっかけになったんだね。それで――」


 キャシーの才能は、このまま腐らせるには勿体ないぐらい本物だった。

 やがては、レイナたちと一緒に町に連れ出す。


「キャシー。ほら、これおいしいよ」

「えっ……もぐもぐ……もぐもぐ……おいしい!」

「なに!? レイナ、私も、私も!」


 数カ月後、キャシーは冒険者としての活動を再開した。

 まずは町中でのお使いや町周辺の魔物退治からだ。


「《火炎呪文メラメラー》!!」

「やったぞ! スライム四体目撃破だ!」


 そしてレイナ、エリーゼ、キャシーの三人で、再びダンジョンに挑ませる。

 もちろん、俺も一緒だ。


「今よ。下がって、エリーゼ!」

「わかった!」

「よし。今だ、キャシー!!」

「任せて、《火炎爆発呪文メラメラドーン》!!」


 俺の強化を受けたキャシーは、数倍に強化された攻撃魔法で、地下墓地を占拠していたリッチ一体とスケルトン十体をまとめて討伐した。


「やったね、キャシー!」

「キャシー、これでわかっただろ。君ならできるって」

「カズイさん……ありがと」


 レイナ、エリーゼ、キャシーの三人は、本当の意味で自信を取り戻す。

 特にレイナの体術は見違えるまでになった。


「みんな、本当によく成長したな。今までのがんばりの成果だ」

「いえ……私たちがここまでなれたのは、カズイさんのおかげです」

「そうか。そう言ってくれると俺も嬉しい……」


 レイナたちは、俺に感謝してくれていた。


「ところでレイナ。武闘大会で優勝したいっていう君の夢。今も変わりないか?」

「はい、変わりません。私、大会で優勝したいです。今は、あなたと一緒に……」

「……そこでだ。今度の武闘大会、君たち三人で、俺と一緒に出てみないか?」


 君たちの凄さを見せてやりたいんだ。特にあいつに。



『さあ、今年もやってまいりました、第十三回冒険者武闘大会!』


 実況の声が響き渡る中、町の闘技場が集まった大勢の人たちで賑わう。


『今年栄えある優勝の栄冠を勝ち取るのは、果たして誰なのか!? 注目したいところですねー!!』


 種目は数多くあるが、俺たちが参加するのは、四対四のパーティ戦。


 何十ものパーティがしのぎを削るトーナメント方式。

 一試合ごとに、四人パーティと四人パーティがぶつかって、どちらかが全員倒れるか降参するまで戦う。


 俺が昨年、優勝した種目だ。

 何の因果か、俺たちの一回戦の相手は、よりにもよってあいつだった。


『それにしても何ということでしょう。昨年、共に優勝した二人の華々しい戦いは、今でも私たちの記憶に刻まれています! だというのに記念すべき第一回戦第一試合で、今や袂を分かったこの二人が、早くもぶつかることになろうとは!?』


 本当に実況の言うとおりだ。


『第一回戦第一試合。西門、マルコ・パーティ!!』


 闘技場にいる観客たちの歓声が響き渡る中、東門に立つ俺たちの前に立ちはだかったのは、俺の元相棒のマルコだった。


 他の三人は、全員女性。

 昨年、俺とマルコと組んで優勝したメンバーのシオンとイズミ。

 あと昔からあいつの大ファンだった、魔女のシャオリー。


 四人全員が、S級冒険者だ。

 マルコを中心に立ち回れば、十分すぎるほどに大会二連覇を狙えるだろう。


『東門、カズイ・パーティ!』


 それと比べて、レイナたち三人は、ランク外の新米冒険者。


 闘技場にいる誰もが、マルコの勝利を確信していた。


 俺の考えは、全くの逆だがな。


 試合前の挨拶のため、俺とマルコは、闘技場の中心で向かい合う。


「よう、カズイ」

 マルコが、本当に幸せそうな笑顔で気安く話しかけてくる。

「オレと別れた後どうしているかと思っていたら……お前もかよ」

 ニヤつくこいつのイヤラシイ視線が、俺の後ろにいるレイナ、エリーゼ、キャシーの三人に向けられた。

「お前も隅に置けないな、コノヤロウ♪」

「フン。何のことだ」

 俺はあえて、しらを切る。


「まあ、新米のあの子たちにはケガさせないが、凄腕の支援職であるお前には容赦できねえぜ。恨むなよ……女の子たちの前で、無様な姿を晒したくないからな!」

「構わん。俺も容赦する気はない。元相棒のお前が恥かくことになろうともな!」


 互いに本気で、正々堂々と、恨みっこなし、と俺たちは誓い合った。

 その上で、お前にコンビ解消させたいと言われて、嫌な気分にされた時の借りを返させてもらおうか。


 それにだ――。


 俺が戻ると、レイナが心配になって話しかけてくる。


「あの、カズイさん……私たち、本当に勝てますよね? マルコさんには、あなたのすごさをわからせてあげたいですけど……」


 自分はまだ未熟者だと思っているのだ。

 エリーゼとキャシーも不安な目を向けてくる。

 そんなレイナたちに俺は言った。


「大丈夫だ。俺がついてる。君たちなら勝てる!」


 ――レイナたちに、優勝というプレゼントを贈りたいからな!


『両パーティーとも構え!』


 試合開始直前、審判の声が響く。

 

 向こうで、マルコが剣を抜いて、余裕の笑みを浮かべる。

 俺は皆の後ろに立って、先頭のレイナに叫んだ。


「いいな。作戦通りに」

「はい!」


 闘技場全体が、緊張に包まれる。


『それでは第一回戦第一試合…………はじめ!!』


 試合開始の合図と共に、レイナは真っ直ぐ突進した。

 同時に俺は、レイナに速度強化の魔法をかける。


 レイナの速度は、数百倍に達した。


「……ほえ?」


 いきなり目の前にレイナが来て、マルコが惚ける。

 そんなマルコにレイナが拳を振りかざし、俺は攻撃強化の魔法をかけた。


「ぐばっ!?」

 数百倍に強化されたレイナの拳が、マルコの腹奥深くにクリーンヒット。

「ぶへえーっ!?」

 続けて、数百倍と化したレイナの左アッパーが、マルコの顎にクリティカル!


 S級冒険者にして天才剣士、前回優勝者のマルコは、新人の女の子にぶっ飛ばされて、空高く飛んで行く――。


 俺がちょっと本気を出せば、このとおり。

 マルコの敗因は、俺の真の実力をわかっていなかったことと、自分が女の子にやられるなんて少しも思ってもいなかったこと。

 そんな油断を俺は、遠慮なく突かせてもらった。


 悪いな、マルコ。

 お前が大恥かくことになろうとも、レイナをこの手で優勝させてあげたいんだ。



 ――空からマルコが、ボテっと落ちてきた。


 勝つはずだった天才剣士の無様な姿に、闘技場にいる観客たちは静まり返る。

 あいつの仲間たちは、呆然となって立ち尽くした。


「まだ、やるか!?」

 俺は叫んで、マルコの仲間たちを怯ませる。

「どうする!? シオン! イズミ! シャオリー!」

「……降参します。降参しまーす!!」

 頼みのマルコが倒れたことで、戦意を喪失した彼女たちが両手を上げる。


『勝者! カズイ・パーティー!!』


 観客たちの大歓声が響き渡る中、エリーゼとキャシーは大はしゃぎ。


「……勝てました。勝ちましたよ、カズイさーん!!」


 レイナは大喜びして、俺に抱きついてきた。

 そのおかげで、彼女の豊かな胸元の膨らみがまた俺に――。


「これも全部……カズイさんのおかげです」

「いや……レイナたちのおかげだよ」


 俺の心の中は本当に、レイナたちへの感謝の念で一杯だった。


 その後、俺たちは決勝戦まで勝ち進み、見事優勝の栄冠を勝ち取る。

 俺は二連覇、レイナたちは初優勝だ。


 優勝者インタビューで、レイナ、エリーゼ、キャシーの口から俺が今までしてきたこと、「私たちの実力ではありません。優勝できたのはぜんぶ、カズイさんのおかげです」と語られて、俺の名声は一気に広まった。


 未熟な少女冒険者たちを保護し、育成する、俺の教師としての名声が。

 

 冒険者界隈における俺の地位は確立されて、俺の元にはたくさんの美少女冒険者たちが集まった。


 俺は時に厳しく、時に優しく指導し、彼女たちを一人前の冒険者に育てていく。

 たくさんの少女が俺に感謝しなから自立していったが、多くの者たちが俺を慕ってそばに残ってくれた。

 自立した子たちも、しょっちゅう訪ねてきてくれる。

 

 中には、俺に想いを寄せてくれる少女も……。


「カズイさん、ダンジョンに行く準備ができましたよ」

「ああ……」

 特に、レイナがそうだった。いつまでも俺の指導を受けていて欲しい。


 そんな時にだ。


「よう、カズイ……」

「マルコ」


 元相棒のマルコが、冒険者ギルドの会館にいた俺を訪ねてくる。


「久しぶりだな……」

「どうした、突然?」

「いや、実を言うとだな。オレ、最近上手く行っていなくてよ……」

「そうみたいだな」


 マルコのきれいだった服は汚れていた。

 確か今のマルコは、誰とも組めずたった一人だ。

 元パーティのシオン、イズミ、シャオリーの三人は、紆余曲折あって今は俺を手伝ってくれている。


「お前はつくれたんだな、ハーレム……うらやましいぜ」

「マルコ……。俺に助けて欲しいのか?」

「……そうだ。助けて欲しい。オレが頼れるのはもうお前しかいないんだ」


 マルコは本当に困っているみたいだった。


「率直に言うよ。またオレとお前でコンビを……」

「断る」


 俺は即答して、マルコを唖然とさせた。


「……いや、虫のいい話だってのはわかってる。まずは謝らさせてくれ。お前がどう思うかも考えずにコンビ解消なんて言い出して……」

「わかってる、お前が後悔しているってことは。あの子たちに手を出す気はないってことも。俺も別に恨んじゃいない。今のお前に同情したぐらいだ」


 借りも返せたしな。


「けど俺の答えは変わらない。お前が何を言ってもだ」

「……どうしてだ?」


「逆の立場になって考えてみてくれ。俺たちがつくりたかったハーレムという場所は、男一人がたくさんの女に囲まれていて初めて成立する。そんなところに同じ野郎一人を置きたいと思うか?」

「うっ……」


「今、俺はモテまくっている。ハーレムの中にいる! こんな幸せの絶頂を誰かに分けてやる気になんてなれない。むしろみんなに見せびらかせてやる! わかってくれるよな、お前も俺と同じ男なら。なあ、元相棒!?」

「ぐううっ……」


「だからお前にしてやれることは何もない。言うことは一つだけだ……帰れ」


 いけないことに、俺はつい笑ってしまった。


「チクショー!!」

 俺に笑われて、悔しいマルコはわめきちらす。

「今に見てろよ。スケベ野郎なお前なんて、すぐに追い抜いてやるからなあー!! コンビ解消言い出したのは本当に悪かったー。調子に乗ってたんだよ。マジでバカだった~~。ごめんよおおお~~~」


 そんな負け惜しみと謝罪を言い残して、去って行く。


「……がんばれよ」


 悪いな、マルコ。

 彼女たちと一緒にいられて、俺は本当に幸せなんだ。


「カズイさーん。なにしてるんですか? はやくー」

「ああ、今行く」


 俺は微笑んで、彼女たちのいる心地の良い場所へ戻っていった。

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ハーレムつくりたいと相棒にコンビ解消された支援職、未熟な美少女冒険者たちの教師というハーレムつくって幸せになる 〜また相棒に? もう遅いって。ハーレムに同じ男を置いておけるわけないだろ!〜 イーサーク @iisaakuu

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