2話
翌日、俺とレイナは町を出る。
レイナの仲間たちには内緒で行った。
彼女たちのフォローは、レイナの自信を取り戻させてからだ。
いざ洞窟の入口の前にたどり着くと、レイナは足がすくんでしまった。
「本当に……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
そう言って、俺はレイナに防御強化の支援魔術をかける。
「なに、これ、あったかい……。身体中からカズイさんの温もりを感じます」
「わかるか。俺も指先で君の温もりを感じている」
俺の独特の支援魔術に、レイナは心地良いと言ってくれた。
マルコの野郎は、度々軽い口調で「気持ち悪い」とからかってきたもんだ。
「どうだ。君には俺がついているとわかっただろ?」
「はい……」
「だから君は、勇気を出して洞窟を一歩一歩と進め。勇気を取り戻すために」
「……わかりました」
レイナが前に、俺が後ろになって、洞窟の中へと足を踏み入れる。
洞窟の中で、レイナが怖がる度、俺は言葉をかける。
それに背中を押されて、彼女は一歩一歩と少しずつ進んだ。
彼女の歩調に合わせて、俺はついていく。
その間にも、レイナに防御強化の支援魔術をかけ続けた。
そうやって、洞窟を40m《メトル》ほど進んだところで、ゴブリンを発見する。
数は、六体。
20mほど先にあるT字路と複数の穴蔵に隠れて待ち伏せていた。
さらに奥には十体以上いるようだ。
「……カズイさん」
レイナが立ち止まり、俺に小声で呼びかける。
彼女の声は、怖くて震えていた。
「気づいたか?」
「……はい」
レイナが気づけたのは、俺が防御強化に加えて、感覚強化をかけたからだ。
「どうしますか?」
「このまま進んで、俺の合図で突っ込め。その後は手当り次第各個撃破だ」
「だけど……」
恐れるレイナを、俺は励ました。
「大丈夫だ、君なら勝てる。俺の支援もかかっている」
さらに闘志が湧き出る術と恐怖を和らげる術をかけてやった。
「どうだ、いけるか?」
「……いけます」
決意したレイナを先頭に、俺たちはゴブリンたちのいる方へ向かう。
そして、10m進んだところで、
「突っ込め!」
俺の合図と共に、レイナが勇気を振り絞り、ゴブリンに向かって突撃した。
同時に俺は、速度強化の支援魔術をレイナにかけた。
そうすることで、レイナの突入速度は何倍もの超高速と化す。
『ギャ?』
ゴブリンが気づく暇もなく、レイナは接近。
突入の勢いを乗せて、ゴブリンの顔面に拳を放った。
同時に俺は速度強化を消して、攻撃強化の支援をかける。
これが、俺の支援職として持つ唯一無二の
仲間にかけた支援魔術を一瞬一瞬の状況に応じて、最適な強化に瞬時に切り替え、限りなく一つの強化に集中させることで、効果を爆発的に向上させるのだ。
それによってレイナの拳の威力は通常の数十倍と化し、たった一撃でゴブリンを打ち倒し、その肉体を洞窟の壁の奥深くまで吹っ飛ばした。
レイナはさらに拳と蹴りを放って、そばにいたゴブリン六体を瞬く間に撃破。
あわてて出てきたゴブリン十体をも、たちまちのうちに片づける。
その間、俺は、レイナが移動と攻撃を切り替える度に、彼女にかける速度強化と攻撃強化を、完璧なタイミングで切り替えた。
こういうことができる支援職は、俺を除いたとて世界に二人といないだろう。
事が終わり、倒れたゴブリンたちを前にして、レイナは自分のやったことが信じられないかのように両手を広げながら呆然と立ち尽くす。
俺がそばに近づくと、レイナが口を開いた。
「カズイさん。わたし……」
「よくやった」
俺は、レイナを褒める。
「この調子で、オーガとゴブリンを倒すぞ!」
「……はい!」
レイナの瞳に、希望が戻ってきた。
『ギャギャ!』
『ギャギャ!!』
俺たちが進む度、ゴブリンたちがどんどん出てくる。
俺が支援していることにも気づいて、先に倒そうとしてきた。
しかし超高速と化したレイナが決して見逃さず、拳と蹴りで打ち払う。
ゴブリンたちは一匹たりとて、俺に近づくことすらできない。
そうして何十体と倒していった俺たちは、とうとう最奥の広間までたどり着く。
『グオオオオオオオオオオオオー!!』
そこには、標準を遥かに超えた巨体を誇るオーガが、ゴブリン二十体を率いて待ち構えていた。
余りの大きさと存在感に、レイナは愕然となるが、
「恐れるな!」
「……!!」
俺に激励されて、すぐに勇気を取り戻す。
時間をかけるつもりはない。
「一気に突っ込め!」
「了解です!」
レイナはそう返事をして、オーガめがけて突撃する。
彼女の動きに、もはや恐れはなかった。
俺は、レイナの強化をさらに高める。
レイナがオーガに一瞬で近づくと、腹部に拳を思いっきりお見舞いして、悶絶させる。
続けて真上にジャンプして、オーガの顔面にハイキック!
たった二撃で倒されて、オーガが地響きを立てながら崩れ落ちた。
いきなりの事態に、洞窟の中がほんのひと時だけ静まり返る。
次の瞬間には、ゴブリンたちが我先にと逃げ惑った。
しかしどこにも逃げ場はない。
レイナは追撃し、残りのゴブリンを全て打ち倒した。
「はあ……はあ……」
広間の中で、レイナが立ち止まっている。
実はまだ敵は残っているのだが、俺が感覚を強化していても彼女は気づけない。
勝利に気分が昂ぶって、周りが見れていないのだ。
「レイナ」
俺が呼ぶと、レイナは振り返る。
「カズイさん……私、やりました。私、やれましたー! カズイさんの……」
その時、レイナはようやく気づく。
俺の背後にある広間の入口の奥に、もう一体のオーガが隠れ潜んでいることに。
しかも、先程のオーガよりさらに大きい。
時既に遅く、そのオーガが、物凄い勢いで俺の背後から襲いかかってきた。
「カズイさん、危――!!」
『ガアアアアアオ――!!』
レイナの見ている前で、俺は攻撃強化を自分自身にかけて、振り向きざまに拳を繰り出す。
何十倍もの威力に高めた一撃を、もう一体のオーガの顔面に打ち込んだ。
目の前でオーガをうつ伏せに倒して、レイナを驚愕させる。
「フウ……」
「カズイさん!」
俺が一息つくと、俺を失うかも知れないという恐れから今日この日最も怖がっていたレイナが、思わず俺の腕に抱きついてきた。
彼女の豊かな胸元が、俺の腕に押しつけられる。
俺は嬉しい気分を表に一切出さずにいると、レイナが涙目になって顔を上げた。
「カズイさん……あの大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。このぐらいなんともない」
「すいません、私……」
襲撃寸前までオーガに気づかなかった自分の失敗と、思わず抱きついてしまったことを恥じて、レイナが瞳を潤ませながら俺の腕から手を離す。
俺は、彼女に言った。
「油断大敵。勝利を喜ぶのはいいが、町に生還するまで気を引き締めろ。冒険者としての心得の一つだ。覚えておけ」
「はい。ごめんなさい……」
俺に叱られて、レイナは落ち込んだ。
「だがそれ以外はよくやったぞ」
俺はすかさず言葉を重ねて、レイナを明るくさせた。
「俺の支援もあったが、オーガとゴブリンたちを倒したのは、間違いなく君の手柄だ。がんばったな、レイナ」
「カズイさん……ありがとうございます!」
今度は褒められて、レイナは喜んだ。
叱るべきところは叱る。褒めるべきところは褒める。
教師として、当然のことだ。
「それにしてもカズイさん、体術使えたんですね。力も技も、私なんかよりずっとすごかったです」
「ああ。支援職を先に狙ってくる敵から身を守るために習得したんだが、俺自身に強化魔法をかければ、この通りだ」
「はい、本当にすごかったです……。あの、カズイさん、私にもっと教えてくれませんか!」
いきなりレイナがそのようなことを言ってくる。
この言葉こそ、俺が待ち望んでいたものだった。
「私に体術も、冒険者としての心得も……この依頼が終わった後も、もっともっと教えてください。お願いします!」
「ああ、構わない。君がよければ。俺も君にもっとたくさんのことを教えてあげたいからな」
「あ、ありがとうございます!」
レイナは大喜びしてくれる。
俺もうれしかった。
「さて、帰ろうか」
「はい……。未熟な弟子ではありますが、これからどうかよろしくお願いします」
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