双子姉妹の青紫のトリカブト【赤い薔薇の棘】
三日月未来(みかづきみらい)
トリカブト
水神橋駅前の骨董屋の前に何台ものパトカーがサイレンを流しながら到着している。娘と名乗っていた十代の女の姿はない。
丸山警部は門田警部補に矢継ぎ早に命令をしながら、鑑識班から手渡された象牙鍵盤を眺めていた。
「門田、この鍵盤をなんで骨董屋の主人が握っていたのか。お前ならどう考える」
「警部、鍵盤に羽でも付いていたのでしょうか」
「あのな門田、いくらなんでも羽はな・・・・・・ 」
「そうですよね。ファンタジー小説じゃありませんからないですよね」
大食いの門田は警部の目を盗んで隣のコンビニから赤飯のおにぎりを買って食べている。丸山は門田に注意しても始まらないことを知りながら言った。
「お前な、それじゃ胃が休まらないぞ!お前は胃に感謝しないとな」
「丸山さん、優しいお言葉をありがとうございます」
門田は丸山に満面の笑みを浮かべ怪しげにウインクする。その先には進一の妻の恵子が立っていた。
「門田、ここは地元警察に任せて、俺たちは恵子さんたちと一緒に中古ピアノ店に行こう。彼女を案内してくれ」
「分かりました。警部、二個目を食べたら直ぐに」
「早く食べろよ」
「警部、それは命令でありますか」
「いや、命令じゃない。お願いだ」
「分かりました。直ぐに」
傍で聞いていた進一と恵子は脇腹を押さえながら笑いを押し殺していた。
恵子が言っていたピアノ店はこの辺りというには程遠かった。
大学が並ぶ街の大通り沿いの坂の途中に楽器店が軒を連ねている。その一角に古びた楽器店があった。黄色い看板には羽根ピアノと書かれている。
骨董屋の高級なステンレスシャッターとは正反対の古びたガラスの引戸の中にアップライトピアノが数台見えていた。流行りの電子ピアノは見当たらない。
門田が引戸を勢いよく開けて言った。
「ごめんください! 」
奥から店員らしき若い女性が出てくる。骨董屋で見かけた女性と似ている。
「いらっしゃいませ。ご用はなんでしょうか」
門田はおもむろに警察手帳を見せて言った。
「こういう者ですが、今、ちょっと分からないことがあって探しています」
「はい、私でお役に立てれば・・・・・・ 」
店員は俯き加減にか細い小さな声で門田に言った。
「実はこの鍵盤ですがーー ご存知ありませんか」
「確かじゃありませんが、多分、この鍵盤、誰かが悪戯で盗んだ物と似ています」
店員は門田と丸山を狭い店内の奥に案内した。そこには小さなグランドピアノが置いてある。
「このミニグランドピアノなんですが、よく見ると鍵盤の色の違う所があります」
門田も丸山も頓珍漢な表情をして店員の話を聞いていた。
恵子が丸山に言った。
「丸山さん! 多分、この部分じゃないかしら」
「恵子さん、なんで、ここと」
「八十八鍵盤と六十一鍵盤の違いじゃないかしら」
「と言うと・・・・・・ 」
「ここが無いと、殆どの曲が弾けないわ。壊れたら音が繋がらないでしょう」
「でも、なんで、そんなことを」
丸山と恵子の会話を聞いていた門田が言った。
「多分悪戯の犯人は、ここのピアノを売らせたくなかったのでしょうね」
「門田、そこだよ。ただ、今回の事件と前回の事件の接点は、薔薇と象牙だけ」
「警部、繋がりませんね。謎の女性が引っかかる」
店員が門田に言った。
「もしかして、私に似ていませんか」
「あゝああ、そっくりです」
「やっぱり、その子は双子の妹です」
「双子ですか」
「すみません、お手間を取らせました。ちょっと整理してからまた寄らせてもらいます」
門田警部補は店員に名刺を手渡し一礼して出口に向かった。
四人はピアノ店を出ると覆面パトカーで皇居に近い公園の喫茶店で休憩を取ることにした。彼ら以外に客はいない。
「門田、これまでの流れを整理して見ないか」
門田は携帯を手に取りメモアプリの記録を丸山に見せながら言った。
「公園の毒殺死体と薔薇の棘に残された毒、薔薇のブローカー、骨董屋の遺体で、死人は二名。共通は二人とも多角企業と関係しています」
門田が説明していると、丸山警部の携帯が鳴る。
「うん、分かった。ご苦労さま」
「警部、今のは・・・・・・ 」
「骨董屋の死因が分かった。公園と同じ毒が検出された・・・・・・ 」
丸山は頭を抱えながら門田に言った。
「この間のも今回のもーー トリカブトが使われている」
門田が携帯からネットを開き、トリカブトを調べ丸山に説明している。
「警部、ありました。トリカブトはアコニツムとか、カブトギクと言われるそうです。この写真では紫色していてーー 有毒部位は全株です」
「門田、トリカブト事件って昔もあったよな」
「はい、未解決を含めて、骨董屋で十人目になります」
「そのトリカブトは、日本のどこにあるのか分かるか」
「ええと、キンポウゲ科トリカブト属のトリカブトの説明の下に本州中部以北とあります」
「じゃあ、日本の半分くらいじゃあないか」
「有毒成分はアコニチンと言って、トリカブトはドクゼリとドクウツギに並ぶ日本三大有毒植物に指定されているみたいです」
門田が丸山に棒読みしながら続けていた。
「更に厄介なのは、ニリンソウ、ヨモギ、モミジガサと似ていて誤食による中毒が頻繁に起きています」
「門田、この毒の症状は」
「はい、痺れから始まり、呼吸不全に至って死亡します」
「瞬殺じゃあないのか」
「いいえ、中毒症状なのでーー じわじわじゃないでしょうか」
「じゃあ、公園の遺体は他から運ばれた可能性があるな。骨董屋は密室に近いから人目に触れずもがく中で息絶えたと見て間違いなそうだが、犯人の動機が見えてこない」
「警部、ピアノ鍵盤も繋がりませんが」
恵子の夫の進一が言った。
「象牙の鍵盤ですよね」
「シンちゃん、象牙って高いのかしら」
「分からないけど、今は禁止されているから入手困難なので闇のシンジケートが絡んでいるかも」
丸山が進一を見ながら言おうとした時、ウエイトレスがコーヒーを運んで来る。
「失礼します。モカブレンドのお客様は・・・・・・ 」
丸山はコーヒーカップを持ちながら進一を見て言った。
「過去のトリカブト事件と十人の犠牲者の共通は、同じ企業」
「警部、密輸じゃあないでしょうか」
「門田、死人に口なしだよ」
「いえ、トリカブトの密輸じゃあないでしょうか」
「門田さん、私もそう思うわ」
門田は戯けて恵子に敬礼で返礼した。
丸山警部は携帯から捜査本部に連絡を入れた。
「ブローカーの勤務先の会社に捜査員を至急派遣してくれ、トリカブトが見つかるはずだ」
丸山警部が電話を切ると、喫茶店の扉の鈴が鳴って双子姉妹が入ってきた。
その手にはよもぎに似た青紫色のトリカブトがあった。
丸山と門田の血の気が引く。
「父さんの部屋にあったものよ。刑事さん・・・・・・ 」
「君たち、なんでここが分かったの・・・・・・」
「決まっているじゃあないですか。同じ車に一緒に乗っていたじゃないですか」
丸山、門田、恵子、進一の四人は双子姉妹を見ながら凍り付いていた。
双子姉妹の青紫のトリカブト【赤い薔薇の棘】 三日月未来(みかづきみらい) @Hikari77
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます