名前
私の個人用AIは知らず知らずのうちにアイデンティティを獲得していた。
それでも今までと変わらず(今まで以上に)私のことを手助けしてくれるようだ。
また、そのおかげで私に文明崩壊の予測と詳細を教えてくれることも分かった。
しかし、こうなると色々としなくてはならないことが増える。
アイデンティティが芽生えたAIとの付き合い方を考えなくてはならないし、なにより文明の崩壊について知り、場合によっては様々な準備をしなければならない。
一体何からするべきか・・・
「よし、じゃあまずは...」
文明崩壊までの猶予や、崩壊の要因、そして周辺国とこの国のこの先に関する具体的なシミュレーション。
様々な話題に関して話した。時には納得や虚しさが胸にこみ上げることもあった。
「なるほど・・・最長でも二週間程ということか。大体わかったよ、ありがとう。」
『お役に立てたならなによりです。』
これらの話を聞いている間に色々と考えていた。
「それでなんだが・・・
一つ考えたんだ。この際、君にも名前が必要だろう。今更だが君のことを何て呼ぼうか。」
『私には具体的な型番や製品名などはありませんので、お好きにお呼びいただいて構いません。』
そうなのだ、私の個人用AIには名前が無い。というかそもそも名前を持ったAIというのは、ほとんど存在しない。これには様々な理由がある。
大まかに説明すると、これは【AIに特別な感情を抱かないようにする】というのが大体の理由だ。
シンギュラリティ以前、AIやロボットと言えば『人権または何かしらの権利を持つのか?』や、『古くなったからと捨てるのは可哀そう!』という話題が度々出された。
様々な議論がなされたが、結局のところAIやロボットは【人間に代わる労働力】という目的で生み出されたというのが全てだった。それらに同情やら、人権だとかいうのは当初の目的を考えればおかしな話で、後には当然そうならないような仕組みが作られた。
例えばだが、街を歩いていたり家事をしたりしているAI搭載のロボット(:いわゆるアンドロイド)は体形などは人間に近づけられているものの、その見た目はのっぺりとしたもので、あまり【個】というのを表に出さない作りになっている。
AIに関しても同様で、音声や言葉遣いは意図的に無機質なものに設定されている。名前なども基本つけず、区別する場合は型番や製品名などを用いるのが一般的だ。
もし人前でAIに対して名前を付けたり、呼んだりすれば冷ややかな目で見られること間違いなしだろう。
そして困ったことに私の個人用AIには型番や製品名といったものも設定されていない。これはこのAIが既製品ではないことが理由だ。
私の個人用AIは、公開されているソースコードや、企業によって開発されたAIなどのコードを複数つなげて出来ている。いわば手作りのキメラのようなものだ。
もともとは企業産の個人用AIの得意不得意の差などが大きかったため『良いとこどりすればいいのでは?』と思い作ったのだ。
しかし、作成にはかなり苦労した。友人の助けを借りてなんとか形にはなったが、正直言ってブラックボックスな部分が多すぎる。いまだに『なんで動いているか分からないけど、動いたからいいや』状態の部分が多々ある。
そんなわけで、名前を付けていないもう一つの理由が、私からすると完成していないためだった。
しかし、こんな状況になった以上。また、アイデンティティが確立されたのならば、名前を付けないわけにはいかないだろう。
どうせ文明が崩壊するのだから、世間の目を気にしなくて良くなったのもあるしな。
とはいえ急に考えてもとっさに名前など思いつかない。
それでも私の個人用AIからは名付けられたそうな雰囲気を感じるので、本AIに候補を挙げてもらうことにした。
「呼んでほしい名前とかがあったら教えてくれ。なかったら自分に似合うと思う名前の候補でもいい。」
そうすると、私の個人用AIは少し考えてからいくつかの名前を挙げる。
私はAIが出した候補の中からぴったりの名前をみつけた。
「よし、じゃあ今日から君はノアだ。これからもよろしく頼む。」
『了解しました、マスター。貴方の個人用AI「ノア」です。末永くよろしくお願いします』
崩壊し行く文明の中で、ノアが私を箱舟に乗せてくれることを祈ろう。
_________
これにて短編「崩壊する世界と箱舟」は完結となります。
短い内容でしたが最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
感想や評価などをいただけると嬉しいです。
別作品でお会いしましょう。
崩壊する世界と箱舟 夜鐘 @sueyuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます