魔女学校の落ちこぼれマギーは10年後が見えない

竹神チエ

10年後のマギーちゃん

 マギーは13歳の女の子。


 ぼっさぼさの赤毛ボブにぎょろっと大きな目は緑色。青白い顔には茶色のそばかすがいっぱい。けっして美人ではないけれど、マギーが勉強している場所は魔女学校。魔力いっぱいだったなら、学校中の人気者になれたかも。


 でもこのマギーったら、魔力がちっともないのに、校長先生のマチルダおばさんが強引に魔女学校に入学させてしまったものだから落ちこぼれまっしぐら。クラスメイトからは特別入学のずるっ子マギーと呼ばれ、友だちは一人もいない。


 そんなマギーなのだが、この日は寮のお部屋で特訓中。


 水晶玉に手をかざし、「未来よ未来よ、映りたまえ!」と命じている。だけどピカピカ水晶玉が映し出しているのは、未来じゃなくて鼻にシワを寄せて念じ続けるマギーの険しい顔だ。


「……プハッ、全然だめっ。視える気がしない!」


 お手上げでゴロンと寝そべるマギー。魔女学校では今、進級試験が行われている。その実技試験の一つに「水晶玉での透視」があるのだ。だからマギーは「十年後の自分」を視ようと水晶玉に手をかざし「うんうん」やっていたのである。


 マギーは魔女になりたくて魔女学校にいるわけではない。それに友だちもいないし、気取り屋ダイアナからは何かにつけ「マギーったら、なんにもできないのに、どうして魔女学校にいるの?」とイジワルばかり言われている。


 だから進級試験なんか全部落第して、家族が待つ家に帰ってしまっても何も問題ないのだけど、校長のおばさんがそれを許さない。赤点ばかりでも、来年がんばりましょう、って何度の何度も留年し続けるだけかもしれないのだ。


「あーあ、やんなっちゃった」


 マギーが目を閉じて、ふて寝しようとしていると……。


「主君主君っ、帰ったぞ!」


 元気な声と窓をコツコツ叩く音に、薄目を開けて見てみると、箒の柄が窓をコツコツと叩いていた。


「主君、ガイコツ男爵から骨をもらって来たぞ。我、良い子!」


 さっきから喋っているのは箒を持った人間……ではない。箒そのものだ。名前はボーボー。でもこの声が聞こえるのはマギーだけ。とっても不思議な箒なのである。


 マギーはのっそり起き上がると、「おかえり」と窓を開け、ボーボーを迎え入れる。外では雪が降っており、ボーボーは犬のようにプルプルッとやって、穂先についていた雪を払う。


 魔女学校の進級試験だ。『呪物を作る』と言う恐ろしい実技試験もある。


 その材料に骨が必要なので、マギーはボーボーに頼んで知り合いのボーン男爵のところまで、雪が降る中、ひとっ飛びしてもらったのだ。


 このボーン男爵は墓地で暮らすガイコツモンスター。「魔女見習いのお嬢さんのためなら」と、骨をどんどん分けてくれる親切なジェントル骨男である。この日も、ボーボーがもらってきた骨は10回失敗しても余るほどの量だ。


 この気前の良さだと、今度会ったら骨格が歯抜けになっているのでは、と心配してしまうマギー。なるべく失敗せず長持ちさせよう、と大切に骨を缶にしまう。


 というわけで、呪物を作る試験は大丈夫そうだ。一番重要な骨が手に入ったのだから評価は低くても不合格は避けられそう。でもなあ。


 マギーは大きなため息をつく。するとボーボーが「どうしたのだ、主君っ!」と心配する。


 マギーは水晶玉を指先で弾き、「コイツがちっとも未来を映さないんだよねー」と水晶玉に文句。それから、「でも魔力がないのが原因なんだ」とがっくりし、「あーあ、留年かなー」と肩を落とす。


「それなら大丈夫だぞ、主君っ。ほれっ!」


 ボーボーがピョンッと跳びあがったかと思うと、どてんっ、床の上に大きな水晶玉が落下する。ボーボーが変身したのである。この箒、しゃべるだけでなく変身もできちゃうのだ。


「主君っ、我を使うのだ。何でも映し出してやるぞ!」


 右に左に揺れながら、そう主張するボーボー。マギーはよっこいせ、と水晶玉を持ち上げると、机にドスンと置く。


「よーし、じゃあ命令するよ! 水晶玉よ、マギーの薔薇色の未来を映したまえっ‼」


 威勢よく命じると、ボーボー水晶玉の透き通っていた中に、モヤモヤと霧が立ち込めていく。


「主君の薔薇色の10年後はこうなっているのだ!」

「ふーむ、どれどれ……」


 マギーは目を細くして顔を近づけた。

 霧が晴れて行き、そこに映し出されたのは……バレリーナ?


 白鳥のようなコスチュームを着たバレリーナが、スポットライトを浴びた舞台の中央で踊っている。つま先立ちで、くるくる。見事なターンを決めると、ビシッと片足立ちでバランスをとる。それから羽が生えたように軽く跳びあがると、ふわりと着地した。


 拍手喝采。ってことはマギーの薔薇色の未来は……?


「待って。このバレリーナ、わたしじゃなくて別人だよ」


 舞台用の濃ゆいお化粧をしているからわかりにくいが、それでも、このバレリーナが自分じゃないのはわかる。マギーは目を凝らし水晶玉にさらに顔を近づけた。


「あ、もしかしてバレエシューズ? んもー、これってボーボーの未来じゃん!」

「んあっ、そうなのか?」


 水晶玉が戸惑うようにブルブルと振動する。


「絶対そう! わたしはバレリーナにはなりませんっ。ほら、もう一度。マギーの薔薇色の未来を映したまえっ」


「承知だ、主君っ」


 モヤモヤっと霧が立ち込め、水晶玉が映し出したのは……?


「ん、羽?」


 水晶玉いっぱいに黒い羽が映し出されている。マギーはこつんと水晶玉を軽く叩いた。


「ボーボー、もうちょっと下がって。全体を見せてよ」

「承知だ、主君っ」


 徐々にカメラが下がるようにして、全体が見えてきて……?


『我こそは偉大な魔女王なりっ! アーハッハッハッ‼』


 そこには、ちょっとした崖の上に立ち、高笑いしている赤毛の女が映っている。なんと背中には黒い羽が生えており、真っ黒な服も相まってカラスのコスプレみたいだ。そして傍らには赤毛の女と同じように高笑いしている箒がいる。


『主君っ、我も偉大な箒なるぞ! ヒヤーハッハッハッ‼』


 マギーは口をあんぐり開けていたが、乗り出していた身をさっと引くと、顔を両手で覆う。


「……嘘でしょ。あの、いかれたカラス女ってわたし?」

「そうだぞ、主君っ。主君は偉大な魔女王になるし、我も偉大な箒王になるのだ‼」


 水晶玉ボーボーは、ぼふんっと白い煙を出して弾けると、シュルシュルと姿を変える。そこには先ほど映っていた、未来のマギーが!


「皆のもの、注目! 10年後、この世界は、とっても優秀な魔女王マギー様のものになるのだ‼」


 ヒヤーハッハッハッ、と高笑いするボーボー(自称未来のマギー)。それをへたり込んで見上げるマギーは、こんな未来、絶対イヤ、と思うのだった。

 

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魔女学校の落ちこぼれマギーは10年後が見えない 竹神チエ @chokorabonbon

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