時そばよろしく~パチンカス式借金返済方法~

ムタムッタ

パチンカス式借金返済方法


 パチンコ台の上にある大当たり回数を表示するカウンターには、これ見よがしに『0』と光っている。


「あーぁ、今日も当たんねぇでやんの」

「毎度のことながらよくそんなに負けて凹みませんね」


 今日も今日とて、賭博場──じゃなくて、遊技施設は盛況。キャベツの価格高騰が記憶に新しい中、パチンコ玉の値段は据え置きだから優しいもんだ(何も優しくないが)。


「大体なんで1/319の台で1000回回して当たんねぇんだよ。遠隔だろこれ」

「何万回話すんですかそのネタ……」


 友人の白銀しろがねは呆れながらコーヒーを啜った。

 これは確率の話ではない。気持ちの問題なのだ。毎回1/319の大当たり確率の抽選をしているから1000回抽選したところで当たらないことだってある。そんなことは分かっている。そういう問題ではない。


「これはきっとパチンコ屋の陰謀なんだよな」

「そんなことはどうでもいいんですが……貸している1万円、早く返してもらえませんか?」

「え、そんな金借りてたっけ?」

「2週間前に『あと1万円で当たる』って言って貸したでしょう?」


 ん~、1万なんて30分もかからず消えるから記憶から飛んでたなぁ。でも白銀が言うんならそうなんだろう。そのあと当たった記憶がないから…………まぁそういうことだ。


「これ当たって確変入ったら返してやるよ」

「貸してから5回目の台詞ですが? あ、当たった」


 うーむ、なんて酷いやつなんだ過去の俺。碌な奴じゃねぇな。ぜひとも顔を見てみたいもんだ。って、液晶に映ってるな、死んだ魚の目した男が。


「返せと言われてもなぁ…………」

「――おいおーい、早く1万返せよなー」

「わかったって! ったくぅ、1枚ずつ渡すからなー」


 ふと、背後のパチンコ客たちも似たような会話をしているではないか。連れ打ちだろうか? 1人は俺と同じくドはまり、もう1人はこちらの連れと同じく大当たり中だ。


「万札で渡せよ」

「1000円札しかないんだよ、行くぞー。ほら1枚、2枚」

「もう、しゃーねーな…………」

「3枚、4枚、5枚…………6枚」

「お、当たった」

「何連目?」

「7連目、早く返せよ」

「おぅ……8枚、9枚…………10枚! これで全部な」

「毎度」


 …………ん? 今おかしくなかったか? おい金貸した方のあんちゃん、もう1回金数えなおせ! 


「おぉ~2回目。今日は焼肉ですね」

「気ぃ早くない……?」

「ツッコミはいいからさっさと返してください……あ、保留連また当たった


 ううむ…………困ったぞぅ。財布の残りは少ない。まだ戦える分はあるが、白銀に返す分などない。これは貴重な軍資金なのである。


「あ」

 

 そうだ……そういや金を返しながら時刻を聞いて誤魔化すなんて方法あったな…………後ろの客たちはそれをやったわけだな。俺もやってみるとするか……


「わかったよ、返しゃいいんだろ」

「なぜ借りていた側が偉そうなのですか…………?」


 渋々遊技パチンコを止め、財布を取り出す。中にはまだ野口と北里が無数にいる。諭吉と栄一はすでに散っているのだ。


「じゃあ1枚ずつ渡すぞ、10枚な」

「なぜそんな面倒なやり方……」

「いいから、行くぞ! はい1!」


 ゆけっ、野口! 

 

「んで、2枚、3枚! 4枚! 5枚…………6枚!」


 えーと確か後ろの奴らは7枚目だったか、じゃあ俺はちょっと前にしようか。


「白銀ぇ、今何連目?」

「は? 4連目ですが」

「じゃあ続きな、5枚……6枚……7枚!」


 8,9,10枚! これで1万円だ。完璧。


「確かに回収しました。どうも」

「これで借りはゼロだかんな!」

「ですね、ゼロではないかと。昼は蕎麦にでもしますか? 奢りますけど?」

「気前いいねぇ~、勝ってるからって調子乗りすぎるなよぉ?」

「大丈夫ですよ。2人前くらいは余裕出来ましたから」


 結構なことだ。ぜひ奢ってもらおう。


 

 

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