徹夜明けにはラブコメを
第22話 徹夜明けにはラブコメを
夏休みが明け、2学期が始まった。教室は同級生との久々に再開で、楽しげな雰囲気に包まれている。
そんな中、俺は自身の机に体を預けて倒れていた。
「だ、大丈夫、空野くん?」
「大丈夫だ。ただ、ちょっと眠いだけで」
「『ちょっと』って言う割には、眼の下にすごいクマができてるよ」
「夏休み中、ずっと夜更かししてたからな」
「もぉ。体調崩しちゃうから、夜更かしはダメだよ」
古賀の優しい注意に思わずニヤける。
すると、先程まで騒がしかったはずの教室が静まり返った。それだけで、誰が来たのかは見ずにでも分かった。間もなくして、足音が近づいてくる。
「空野」
顔を上げると、派手な金髪が視界に入った。予想通り、
「おはよう、天宮」
「天宮さん、おはよう」
「おはよう、古賀さん」
「おい。俺に『おはよう』は無しか?」
俺のツッコミは天宮に鼻で笑われた。
「古賀さん。プールの時はありがとう。楽しかったわ」
「こちらこそありがとね。また一緒に遊べたら嬉しいな」
「なら、また誘うわね」
「また? 誘ってくれたのって、空野くんじゃないの?」
「いや、あれは……」
「ええ、そうよ。だから、空野。頼んだわよ」
そう言って、天宮は不適に笑った。
天宮にスマホを渡す時は気をつけなければと肝に銘じておく。
「それで、天宮は何か用か?」
「ええ。お昼休み、部室に来なさい。話があるの」
「了解」
「それじゃあね」
そうして、天宮はさっさと自身の席に戻っていった。
この場で詳細を話さないということは、小説についての話だろう。
「古賀も少しは天宮と仲良くなれたのか?」
「うん。プールで遊んだ時に色々話してね。でも、天宮さんって面白い人だよね」
「どこが?」
「だって、話し方が面接官みたいなんだもん」
「あいつ、古賀にも質問攻めしてたのか」
彼女の小説執筆再開の準備は着実に進んでいるようだった。
お昼休み。
俺は言われた通りに部室にやってきた。
中には当然、夢咲がゲーミングチェアに座って待っていた。彼女も俺と同じように眼の下にクマができていた。肩の辺りで切り揃えた黒髪のショートヘアも相まって、トイレの花子さんのようなホラー味を感じる。
「よっ。夢咲」
「セイちゃんお疲れ〜〜」
「PVの調子はどうだ?」
「それがにぇ、再生数、ぐんぐん伸びてるよ」
夢咲がパソコンの画面を指さす。
映っているのはPVの再生数が表示された画面だ。現時点で約6000回再生されている。
「初速で6000回再生されてるのは良いにぇ。この調子で行けば、明日には余裕で1万回超えだよぉ」
「お前の編集と宣伝のお陰だ。ありがとな」
「ふふん。ウチの実力に跪くといいさ」
「あんまり調子に乗るな」
チョップをして軽く懲らしめておく。
「もぉ、やめてよにぇ。……でも、これだけ再生されてるのは、ウチの実力だけじゃない気がするよぉ」
「どういう意味だ?」
「ほら、これ」
夢咲は動画のコメント欄を指差した。
コメントは数十件ほどあって、そのほとんどが『戦国ヒタチから来ました』というものだ。だが、そんな中で、俺の目に留まるものがいくつかあった。
『バイクかっけぇ!』
『アニメーションえぐ!』
『これ作った奴天才だろ』
たった数件の賞賛のコメント。
でも、それらが、俺にとっては深く心に響いた。過去の黒歴史を全て否定してくれているかのようだ。生まれて初めて、3DCGをやって良かったと思うことができた。
「良かったにぇ。セイちゃん」
「そうだな。感想を貰うって、こんなに嬉しいんだな」
いつかの天宮の気持ちが分かった気がする。
すると、天宮が部室に入ってきた。
「アマネキお疲れ〜〜」
「千晴もお疲れ」
「それで、話ってなんだ?」
「まずは、これを見てくれるかしら?」
部室に来て早々、天宮は自身のスマホの画面を見せた。
映っているのは、小説のPV数が示された折れ線グラフだ。昨日を境に、右肩下がりだったグラフが急激に上昇している。
「これって!」
「ええ。PV数が昨日から急激に増えたの。夏休み前のPV数の3倍は読まれてるわ! 2人のPVのおかげよ」
「良かったな! これで、投稿頻度が落ちても、人気は維持できるのか?」
「いいえ。まだ、人気は不安定だから、維持できるとは言えないわ」
「そうなのか……」
やはり、簡単に人気にはなれないらしい。
「でも、小説は書き続けることに決めたわ」
「本当か!」
「それでこそ、アマネキだよぉ!」
「ええ。この夏休みで気づいたの。たとえ人気が出ようと出まいと、私には小説しかないのよ」
そう言って、彼女は嬉しそうに笑った。
俺の計画通りとまではいかなかったが、天宮を助けることはできたわけだ。
「それで、今日の夜までに、2人に約束していた、あの短編を投稿するわ」
「おっ。ようやく読めるわけか」
「2ヶ月ぶりの新作ってことだにぇ!」
「そうよ。楽しみにしてなさい」
相変わらずの上から目線で、彼女は上機嫌に微笑むのだった。
その日の放課後。
俺は教室で古賀や
「空野くん。あなた、目の下に凄いクマ出来てるわよ。大丈夫?」
「それ、古賀にも朝言われた」
「美羽ちゃんもそう思うよね! 空野くんはもっとちゃんと寝たほうがいいよ」
「ああ。今日帰ったらすぐ寝るつもりだ」
それから部室に向かおうと荷物を背負うと
「空野」
と、背後から天宮に声を掛けられた。
「ん? どうした?」
「そ、その、話したい事があって」
「話したい事? じゃあ、また部室で夢咲と一緒に……」
「そうじゃないの。その……あんたと2人きりで話したいのよ」
「2人きりで? まぁ、良いけど」
この場で言えないということは、また小説関連の話だろうか。
「じゃあ、2人とも、また明日な」
「う、うん。またね、空野くん、天宮さん」
「さようなら……先越されたわね」
「美羽ちゃん、そういう事言わないでよ〜〜」
中野の意味不明発言を無視して、天宮と一緒に教室を出る。
「今日もバイトか?」
「ええ。だから、歩きながら話すわ」
「分かった。でも、駅に着くまでには話し終われよ?」
靴を履き替えて、校門まで歩いていく。
放課後ではあるものの、大半の生徒は部活動で学校に残っている。そのため、下校している生徒は ほとんどいない。
これなら、小説の話をしても周りに聞かれることはないだろう。
「で、話ってなんだ?」
「その……私とあんたの関係性についてよ」
天宮がいつにもまして真面目な口調で話しだした。
「関係性? お前、まだあのこと気にしてるのか? 前にも言ったが、普通に友達で良いだろ?」
「それはそうかもしれないけど。でも、私はあんたに返しきれないだけの恩があるわ」
「『恩』って言ったって、アニメ化は元々、俺が勝手にやりたいって言い出したんだ。お前が変に気を使う必要はない」
「気を使うわよ。私が今こうして小説が書けるのは、あんたが私を助けてくれたからよ。『プラネット・ライダー』の人気が出たのも、あんたのアニメ化おかげ。それに『プラネット・ライダー』は元々、あんたの好みを参考にして書いたものよ。全部、あんたのおかげなのよ」
そう言って、天宮が俺の腕を掴んで立ち止まった。それから俺を引き寄せて体を近づけた。
その勢いのままに振り向くと、天宮の筆で書いたような切れ長の目が、俺の目をまっすぐに見ていた。その下には、柔らかそうな唇が触れてしまいそうなほどすぐ近くにある。
そんな状況に、緊張しないわけがなかった。
「私はあんたと今後も仲良くしていたいわ。そのために、恩返しがしたいのよ」
「恩返し?」
「ええ。あんたが私にやって欲しいことはなに?」
「や、やって欲しいこと?」
「と、特別に1つだけ、何でもあんたの言うことを聞いてあげるわ」
「えっ!?」
人生で1度は言われたいセリフを、天宮に言われることになるとは。「何でも」と言われると、男たるもの、心が躍ってしまう。まして、スタイルの良い天宮が相手だ。色々とイヤらしい想像が膨らんでしまう。
ただ、いきなりと言われると、何をしてもらおうか迷ってしまう。それに、徹夜続けの体にこの状況だ。頭が普段以上に回らない。
天宮も、自分で言っておきながら、恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めている。流石に可哀想で、見てられなくなってきた。
「ひ、ひとまず、落ち着いて考えたいから、ちょっと離れようぜ」
「そ、そうね」
天宮は腕から手を離して、そっと離れて距離をとった。それから、チラチラと俺の様子を伺っている。
こうして離れると、多少は頭が回る。
冷静に考えてみれば、天宮にイヤらしいことをすれば、その後に、彼女と普通の友達になれるわけがないじゃないか。それに、俺には古賀という、心に決めた人がいるではないか。危うく、一時の感情に流されて、変態に成り下がる所だった。
冷静に考えるんだ。天宮と友達で居続けられる範囲で、俺が彼女にやって欲しいことを。
「あっ!」
良いことを思いついた。
「天宮。それじゃあ、一緒に写真を撮ってくれないか?」
「しゃ、写真? そんなことでいいの?」
「ああ。それが良いんだよ」
天宮は拍子抜けといった表情で俺を見た。それから、少し不満げに唇をとがらせながらも、俺に近づいた。
自身のスマホのカメラ機能を起動する。内カメラに設定して、自分たちに向ける。
「画角に入らないから、もうちょっと近付いてくれ」
「え、ええ」
天宮が俺の真横にギッチリと隙間を埋めるように近づいてくれた。これで、俺のやりたい事は上手くできそうだ。
「それじゃあ撮るぞ。はい、チー……」
言いながら、天宮の方に手を伸ばす。そして、思い切り彼女の胸に触れ、それと同時にシャッターを切った。
「ズ!」
「っ! なっ、なに触ってんのよっ!」
「ぐふっ」
俺の顔面に、天宮の強烈なパンチが打ち込まれた。あまりの衝撃によって、その勢いのまま地面に倒れ込む。
天宮が鋭い目つきで俺を睨んでいる。それに、目に涙を浮かべて、悔しそうに歯を食いしばっている。
「……ってぇ」
「な、なんでも言うことを聞くとはいったけど、まさか、そんなことをしてくるとわね。見損なったわ」
「わ、悪かったって」
「せっかく、あんたのために色々悩んだのに。私が馬鹿みたいじゃないっ!」
天宮が再び拳を俺に向けて振りかぶっている。もう一発殴られるまで、もう数秒の猶予もなさそうだ。
「本当に悪かったって。ほ、ほら、お前のスマホ見てみろ」
「……スマホ?」
彼女が不思議そうにスマホを確認する。
「なによ、これ?」
「さっき撮った写真だ」
「コレを見て、私は更に殴るパワーを上げればいいってことかしら? とんだ変態ね」
「そ、そういう意味じゃねぇよ! とりあえず、拳を下ろせ」
「なら、さっさとこの写真の意味を説明しなさいよ」
「これで、お前は、また俺の弱みを握れるだろ?」
「弱み?」
天宮がようやく拳を下ろしてくれた。
手や尻についた砂を払いながら立ち上がる。
「そうだ。弱みだ。写真を撮ってくれたから、恩は返してもらった。そして、その写真があれば、これからも、お前は気兼ねなく俺に質問攻めができる。これでいいだろ?」
俺の提案に、天宮は目を丸くした。それから、嬉しそうに僅かに口角を上げて笑い出した。
「ふふっ。そうね。あんたはそういう奴だったわね」
「そこまで笑わなくてもいいだろ」
「だって、自分から弱みを渡すなんて、可笑しいわよ」
「うるせえ。……お前が上から目線じゃないのは、こっちも調子が狂うんだよ」
「あんた、ドMだったのね」
「ドMとか言うなっ!」
「ふふっ」
天宮は涙を流しながら大笑いしている。ここまで笑っている彼女を見るのは初めてかもしれない。
ただ、これで以前のような彼女に戻れたのなら、何よりだ。
「これで満足か? なら、俺はすぐ部室に戻るぞ」
「ええ。……あっ。ちょっと待って」
部室に向かおうとする俺の背中に、天宮が声をかけた。
「なんだ?」
「この写真だけじゃ、釣り合いが取れないわ」
言いながら、天宮がゆっくりと近づいてきた。そうして、俺の目の前で立ち止まって微笑んだ。
「釣り合い? それって、どういう……」
俺が言いかけている途中で、天宮が瞳を閉じて顔を近づけた。彼女の甘い吐息が俺の耳元をかすめる。それから、柔らかくあたたかな感触が俺の頬に触れた。
「え……?」
「それじゃあね」
そう言って、天宮はいたずらっぽい笑顔を見せて去っていった。
その場に残された俺は、思わず自分の頬に触った。
「さっきの感触って、まさか、天宮のくちび……いやいや、まさかな。そんな事はないよな。……ないよな?」
相変わらず、俺は天宮に振り回されてしまった。
徹夜明けにはラブコメを! 〜ビッチ女ヤンキーはただの小説オタクでした〜 ロム @HIRO3141592
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。徹夜明けにはラブコメを! 〜ビッチ女ヤンキーはただの小説オタクでした〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます