骨になってわかること

リュウ

第1話 骨になってわかること

 こんな街に居たくないと、根拠のない夢を持って都会に出た。

 誰にも知らせずに。

 ただ、自分でも気づいていない自分を知りたかったのか。

 この街で、過ごすことで作られた自分という名のキャラを捨てたかったのか。

 自分を知らない人たちの中で、最初からやり直したいと、あらゆるしがらみから解放されたかったのか。

 たぶん、そんな理由で、この街を出たと思う。


 でも、この街に帰ってきてしまった。

 ここでの友だちに、連絡もとっていない。

 クラス会の誘いも断り続け、もう連絡も来ない。

 両親も他界していたので、歳を取った私の姿をわかる者もいないだろう。

 

 私は、ただここに戻って来ただけだった。

 都会に色々なモノを置き去りにして。


 不思議だけど、時々、思うことがある。

 私は、都会に居て、満員電車に何時間も揺られて会社に行き、作り笑いの仕事をして、また、満員電車に揺られ帰ってくる。

 コンビニで、缶ビールを買って、クーラーの効いた部屋でテレビやネットを観て、寝る。

 そんな生活を続けている自分が居ると思っている自分が居た。


 私は、この街に帰ってきて、この仕事に就いた。


 火葬。


 それが、私の仕事。

 遺体を台車に乗せ、火葬炉へ入れる。


 皮膚や筋肉や脂肪が燃える

 熱は、液体や気体を膨張させ、生きているかの様に動く。

 高温に強いモノカルシウムが残る。

 つまり、骨が残る。

 約206個の骨が残る。  

 

 遺体が台車に乗せられ運ばれて来た。

 偶然、遺体の顔を見てしまった。


 その遺体は、私だった。



「なんだ、私は死んでいたんだ」


 私は、2メートル程の空中に居て、自分を見つめる。

 火葬が終了し、”骨上げ”が始まった。

 人が集まっている。


「ああっ」私は言葉が詰まった。

 集まった人は、年取ってしまったクラスメートだった。

 付き合っていた彼女まで来ていた。

「みんな、ゴメン。会いに行けば良かった……」

 私は泣いていた。

 今まで、こんなに泣いてことはあっただろうかと言うほど泣いていた。




「お兄ちゃん、泣いてる」


 子どもの声で、目を開けた。

 向かいの席に座っている子どもの声だった。

 母親が、静かにと子どもの顔を見つめていた。


 私は、電車の中だった。

 都会から生まれた街に戻る電車の中だった。


 私は、じっと電車の窓に目を移した。


 窓の外に見慣れた街並みが流れ始める。

 建物が看板が道が、眼の中に飛び込んでくる。


「帰って来たんだ」私は呟いていた。

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骨になってわかること リュウ @ryu_labo

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