ヒロシの骨無し

岩田へいきち

ヒロシの骨無し



「ねえ、ヒロシ、膝の下が痛い。骨が出てる感じする」



 ここは、ぼくと樹菜、梨美菜姉妹が住んでいるアパートの部屋。正確には、もう、姉の樹菜は、実業団チームに入って、そちらの寮に住んでいるから今は、この妹の梨美菜と2人で住んでいる。つい先日まで、姉の樹菜が故障したと一旦このアパートに帰って、足を治して寮へ戻ったばかりだが、今度は、梨美菜が痛めてしまったのか。



「オスグッドかもしれないね? 梨美菜、身長伸びて来たし、成長痛だよ。足の前の筋肉と裏の筋肉のバランスが悪くて前の大腿四頭筋が引っ張り過ぎて膝に炎症が起こるんだ。ストレッチをしっかりやって、痛い時は炎症起こしてるんだから休んで、氷で冷やしてやるといい」



「ふ〜ん、なんでヒロシ、そんなの知ってるの?」



「昔、サッカーの監督やってたからね。前は、オスグッドになる奴多かったんだよ。前は、練習やり過ぎは、ダメだなんて考え方なかったからね」



「そうなんだ。そう言えば、少し覚えてる。お姉ちゃんも私もヒロシのこと監督と呼んでた。分かった。ストレッチちゃんとやる。いい加減にやってた。」



「ああ、足首掴んでさ、膝を曲げたり伸ばしたり、ジャックナイフストレッチとかやればいい」



「分かった。ああ、いい感じする。ヒロシ凄い。」



「だろ? 梨美菜もお姉ちゃんみたいな一流目指すんだったら身体のケアもちゃんとしなきゃ」



「うん、分かった。でもさ、ヒロシって、足引きずってるじゃん。どうして? ちゃんと身体のケアしてなかったの? だから私や樹菜に厳しいの?」



「ああ、これね。これは、ねぇ、骨や靭帯をケアしなかった訳ではなくて、脳が少し壊れてるんだ」



「ええっ、ヒロシの脳壊れてるの? ヒロシってバカなの?」



「違う、ちがう。誰かさんにクレイジジィにはされたけど、一部が血液の出血で壊れてるだけなんだ。世の中には、脳の一部が壊れてる人たくさんいるけど、みんなバカじゃない。ただ、血液で壊れた脳の部分は、もう治らないんだよ。ぼくの場合は、運動を司る右側の脳が少し壊れてる。だから、脳からの命令が上手く伝わらないんだよ。頭の上から足の先まで、顔の表面とかも左側丁度半分からの感覚がおかしいんだ」



「右が壊れてるのに?」



「そうなんだよ。不思議だよね。脳出血で倒れて入院して、しばらくは左手も左足も左腹筋も左の唇もほとんど動かなかった。ベッドにじっと座っておくことも出来なかったんだよ」



「へぇ、大変だったんだね」


「梨美菜、実は、ぼくは、骨無しなんだ」



「え〜、ヒロシちゃんとしてるよ。ご飯もちゃんと欠かさず作ってくれるし、洗濯もしてくれるし、部屋も綺麗にしてくれてる。そんなん骨無しなんて、柔じゃ出来ないと思うよ」



「いや、いや、本当に骨が無いんだ。入院している時、車椅子で移動しているぼくの頭には、『骨無し』と書いて貼ってあった」



「ええっ、ひど〜い。患者差別? 虐待?」



「いやいや、ほんとに骨がないんだからしょうがないんだよ。脳出血した時、脳が腫れるじゃん。特にぼくみたいに脳味噌がたくさん詰まってる人は、頭蓋骨に圧迫されて死んじゃうだって。だからね。先生がさ、先ず、ドリルで頭蓋骨に孔を開けて、そこから一辺が5・6センチの三角形に骨を切り出したらしいんだ。凄いだろう? それを外す事によって脳の腫れによる圧迫を緩和したんだって」



「え〜、え〜っ、ほんとに骨ないの? しかも頭蓋骨」



「骨を切ったり取り出したりした時は、頭の皮も剥がしてたんだろうね。頭の皮縫われてた」



「ヒロシどうなってんの? 改造人間? フランケンシュタイン? 骨ついてないの?」



「その切り取った三角形の骨をね、一旦、マイナス80℃の冷凍庫に保存しておいてね。1ヶ月くらい経って、腫れが止まって落ち着いてからまた頭に戻してもらったんだ」



「え〜っ、また頭の皮剥がれたの?」



「そうだね。剥がないと骨戻せないね。ぼくは、それよりも骨を戻す時、幅がギリギリで、脳の方に食い込んだまま、ギシッと噛んだらどうするんだろうと凄く不安になった」



「骨に厚みあるからそんなこともあるかもね? そうなったら死んじゃうかな? でもヒロシは、私たちのためにここにいる。ヒロシありがとう。生きててくれて」



「ありがとう梨美菜。お陰で生きてる実感もらってるよ。1ヶ月後の骨入れ手術の前にさ、凄く可愛いくて、天使みたいな看護師さんが現れて説明してくれたんだけど、ぼくは、もうこのトンネルみたいな手術室へ運ばれたらもう帰ってこれないんじゃないかと思ったよ」



「天使? もう、ヒロシ死ぬところだった?」



「実際には、全身麻酔されて、三つ数えたら病室へ戻ってたけどね。でもあの天使みたいな看護師さんにはもう二度と会えなかった」



「もう、ヒロシったら、その頃から可愛い子好きだったのね」



「梨美菜、ちょっとここ触ってみて」



ぼくは、頭の右側に人差し指を当てて、場所を示した。



「えっ、触っていいの?」



「もちろん、君たちに触られたら嬉しいだけだ。ここ、ほら、窪んでるでしょ? これ、ドリルで孔を開けた箇所。ここの骨は、塞がってない。そしてここから繋がる溝みたいな窪みが三角に切った跡だよ」



「へぇ〜、面白い。ヒロシの頭ヘンテコ〜」



「頭も骨足りないけど、実は、左の大腿骨も無いんだ。高校生になったサッカーの教え子に練習中ぶつかられて吹っ飛んだ。人工骨に代わったよ。チタン合金だらけのまるで人造人間だよ」



「あははは、良く生きてるね。 生きていてくれてありがとう。これからも美味しいご飯お願いします。



「はいはい、もう少し骨折ります。




終わり


(このシリーズ好きという人まで現れて、こりゃ次も、ありそうだなぁ?)


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ヒロシの骨無し 岩田へいきち @iwatahei

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