骨と希望

鹿嶋 雲丹

第1話 骨と死後の希望

 骨。

 それは火葬されると、灰と共に残るもの。

 数年前、大好きだった伯父が亡くなりました。癌で闘病の末の事でした。

 私は姪として式に参列し、にこやかに微笑んでいる大好きだった優しい伯父の遺影を見ながら、焼香しました。


(伯父さん、今までありがとう! あの世でも笑っていてね! ありがとう、ありがとう、ありがとう!!)


 短い時間の中で、私はありったけの思いを込めて叫んでいました──心の中で。


 さて、伯父の葬儀と火葬について、私が衝撃を受けたのはこの後です。まさに、寂しさなんて一瞬で吹き飛んだのでした。


【葬儀編】


 伯父は永ちゃんこと矢沢永吉さんのファンだったらしく、永ちゃんの曲が流れる中、皆で棺に花を入れました。

 伯父の顔はとても安らかで、ああ、魂はよい所に行くな、間違いないなと思いました。


「では皆様、最後のお別れです」


 うっ……おじさん……さよな……


「いぇえぇーい!!」

「「「「「!!!!????」」」」」


 はい、ここで問題です。

 いえーい! という、およそこの場に相応しくない声をあげたのは一体誰でしょう?

 

 はい、答えは永ちゃんです。

 棺の蓋を閉め終わった、まさにその瞬間のことでした。

 明るく優しかったおじさんが


『さあ皆、笑え! 笑うんだー!!』


 と、言っているように感じました。

 そうに違いありません。そうでなきゃいけません。ですがその場には、なんともいえない微妙な空気が流れていました。

 まあ、そりゃそうですよね。笑いたくても笑えなかったですよ。さすがの私でも。


【火葬編】


 伯父が亡くなる数年前に祖母を。さらにその前には祖父が亡くなっていましたが、お骨を骨壷に入れる、というのは経験していませんでした。

 そう、この伯父の時が初めてだったのです。

 いや、ご存知の方が多いと思いますが。アレ、かなり衝撃的じゃないですか?


 お骨をごりばき折ってすり潰すの。


 い、いや、そうしないと骨壷に入り切らないから、仕方ないのでしょうけど。


 担当の綺麗なお姉さんがごりばきしてくださったんですが、私の脳内では、ほうれん草の胡麻和えを作るために胡麻をすってるシーンが浮かんでいました。

 なんてこった、伯父さんとのお別れが三分間クッキングになるなんて。

 私はひたすら伯父に謝りました。

 こんなオカシナ頭の姪でごめんなさい、と。


※※※※※


 さて、骨を埋める場所についてですが。私はお墓に入りたくない派代表を務めてもいいくらい、お墓に入るのが嫌なんです。

 じゃあどうすんの、海に散骨かい?

 いやいや、私の骨はダイヤモンドにして頂いて、近所の川にでもポイして欲しいのです。

 この世に自分の欠片を残していきたくないんです。生きている今に感謝して、楽しむことができればそれだけでいいんですよ。


 子供たちには、それぞれの幸せの道をそれぞれの足で歩んで行ってもらえたら。

 私は彼らと出会えたことが、なにより幸せでした。

 もし今が戦時中で、大切な大切な息子たちを戦場に送りださなければならない時代だったなら、私は間違いなく狂っていたでしょう。

 とはいえ、育児中は苦しいこと、投げ出したいことが何度もありました。純真無垢な長男の心を傷つけて泣かせてしまったことは、今でも後悔しています。ほんとにごめんね。こんなにガサツな母で。

 

 さて、私の遺骨をダイヤモンドにするにはお金がかかりますからね!

 今日も元気に、お仕事頑張りますよ!!

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骨と希望 鹿嶋 雲丹 @uni888

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