骨の尺八

めいき~

朽木の竹

我が命捧げ、微笑みて。武士(もののふ)は光と競う。暁に響くは、ラッパにあらず。友と肩並べ、チャルメラ聞いたあの日々に。サラバと思ふ、散る桜。


 飲まず食わずの日も三日、月光見上げ樹に持たれこれまでと。



 天に轟く火柱に、転がる骸に逃げ遅れた友を見る。凱歌を謡て泣き崩れ、御霊は何処と壕にてしがみつく。



 揺れる視界は、船か疲労か。底は抜けども、鋼鉄の荒鷲は未だ孤軍奮闘す。血潮で撃鉄未だ起こせず。わだちすら、越えられぬ味方を振り返らず。心もとない残弾と故郷を想い。あの娘くれたお守りを握る。


 前に何もなく、後ろに何もなく。ただ、進軍だと小鹿の様な足で歩く。



 「断じて、勝つぞではなく。断じて、生きよ」と後ろで誰かの声聞こえ。味方なのかと振り返るも頭は見えず。誰かの声をききて、心だけが奮い立つ。今だ、しぶきで前は見えず。黒と赤の雫が大地に溢れ、草木は斑に染まる。



 

今ぞ、空へ往く。今ぞ、今ぞとまだ我は地にあり。




 新たに来た若人が昨日吐く。無理も無いと、背中をさすり。それ以上の事は何も出来ず。全てが足りず、日々の飯ただ小さく小さくなり候。うちに味噌も底をつき、梅干しすらもなく。最初は拳程あり、最後はビー玉となりけり。押し込むように、一日一食のそれを腹に入れ。よくぞ、それでうめき声が出るものだと恨み節。




 茜雲が遠くで闇を灯すも、伝令は来ず。



 

 勇ましく、血気にはやる我が隊を。まだ行くなと押しとどめ、我がヘタレと殴られる。部下に殴られるも、死ぬならココだと地図を指す。「無駄死にはごめんだ、我らは役に立ち、守って死ぬためにここに居る」


 そうは言えども、我は我以外死なすつもりなし。「お供しますじゃねぇよ、バカ野郎」それまで、弾でもつめて剣でも研いどけと我も怒鳴る。



 故郷懐かしやと、草で吹く音色はふるさと。俺を殴った部下が泣いていた。帰る場所があるのなら、骨でなく生きて帰れ。



 自らの飯を部下に分け、理由を聞かれた我は「水に当たったんだ」と言い訳し。指官用の弁当を分け与え。すきっ腹を抱えて、アホかとうずくまる。



 それが、今生の別れになると思わず。振り返り黒煙の中、散らばる遺品を抱えて雷轟響く中を必死に西へ。無能がと踏まれる覚悟を決め、合流地で見たものはただ赤く染め上げる炎群。



 国思わずとも、遠き日に肩車され土手を歩いたあの日々を思い。

 


 無駄な事だと思いつつ、途中で親が倒れて泣く子供の背に白い布をお守りだと言ってつけてやる。針も糸もなく、首にしっかりいれてやるだけ。



 今の自分に何も出来はしないと、無力を噛みしめ。何が守るだあほらしい。

 何も守れやしねぇじゃねぇかと己を蔑む。部下も子供も、あの日に散った友さえ守れやしなかったと苛まれ。



 ……いけねぇ、寝ちまってたか。「イヤな夢だな」結局死神にはばっちり嫌われて、戦争なんてありませんでしたって顔で世の中がド派手になっていく。


 仕事は山の様にあり、かつての部下だった奴らにそっくりの笑顔が眩しい二人の若人を見て時々あの頃の思い出を想いだす。



 どうせ、死神には嫌われて。仲間には仲間外れでまだくんなと天から蹴り落とされる様な有様だ。こいつらに、全て渡してからでもおそかねぇ。



 一ミリがもう見えねぇ。だから、手で触って。油のなくなった手を頼る。何、弾が無くなって、飯が無くなって、水がなくなって、友すらいなくなってもまだ生きてんだ。気温や手の温度で寸法入らなくなって。そんな材料攻めだしたなら、男の見せ所だろ。そういったら、若い二人が呆れた顔で俺を見た。



 遠いあの日に、友に背中を叩かれた。あの日の友と、若い二人がダブって見えた。なんでぇ、俺だけ歳くったみてぇに眩しく映りやがんだ。


 金も物も食うモノも無かった。結局、俺より先にみんな死んだけど。

白い布つけてやった子供が、随分ババアになって菓子折り持ってきた時に「生きてたんかよ」って言ったら。「おかげさまで」だと綺麗に笑ってよ。俺は何も出来なかったじゃねぇか。



 人生最後の日にさ、若い二人に俺はこう言ったんだよ。俺の人生は、尺八見てぇな墨染だって。そしたら、あいつらなんて言ってくれたと思う?。




「「流星、骨を残して咲く」」ってよ。なら、残すも捨てるも好きにしなって言って俺は眼を閉じたんだよ。




 随分、長く遠回りしたな。不器用か。あゝ、土じゃ無いだけありがてぇ。

朽木 繁尾(くちきしげお)は、息を引き取ってなお笑って逝った。





(おしまい)

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