蜻蛉之夢
佐藤子冬
蜻蛉之夢
私達二人は話し合っていた。
「部外活動はどうですか?」
「いえ、最近の子は大人しいですね。大人しすぎて逆に不安です」
「そうですか……」
私は周りを見渡す。子らは笑いながら楽しく劇を鑑賞している。
子は幸せなものであって欲しい。子が一度笑う陰で私達は幾千もの涙を流して子らを支えるのだから。
蜻蛉君という子がいた。
「蜻蛉君、元気が良いね」
しかし、蜻蛉君は元気が良すぎる。空に飛び立とうとしていた。
私は慌てて蜻蛉君を引き留めようとする。
すると蜻蛉君の身体が二つに離れた。
私は慌てて胴と胴の結び目を繋ごうとする。
上司に視られたくないという想いと蜻蛉君に身に何かあったらという想いが二つ交錯しあう。どちらが正なのか判らない。
結び目を直した時、蜻蛉君は私の周りを飛び回った。
私はそれを視て怖くなった。
ああ、だからこそ介護職とは辛いのだ。
医師先生も看護師先生も介護士先生も皆共通すること。命を看取らなくてはならないこと。介護をして判ることがある。命は不平等でもあると。生きるべき者が死ぬことは珍しくない。
私は蜻蛉君のことが何一つ判らなかった。
そうして、夜中に眼が醒めた。悪夢だったのかと思い、又眠りに入ろうとする。寝れば忘れるのが人の定めだと知っているから。
けれども、夢は続いた。
ある先人がいた。私はこの方に質問をしてみた。
「何故、蜻蛉君は私を憎んだのでしょうか?」
それは蜻蛉君の身体を切り離した罪悪感からだと判って語ったのだ。
されど、先人は語る。
「真に悪意があるならあなたの周りを飛び交うこともなかった」
「それでは何故?」
蜻蛉君は私の周りを飛び交ったのか?
答えられる前に目覚ましの音が鳴り響いて目覚めてしまった。
仕事に行く最中、ほんの少し仮眠する。けれど、夢に続きはなかった。
蜻蛉君は元気にしているのかしらん?
‐了‐
蜻蛉之夢 佐藤子冬 @satou-sitou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます