夜景みたいな私と眺めている君
@umibud0u
第1話
「悠人見て!すごい綺麗…」
「うん、こんな場所あるなんて知らなかった」
私、早乙女紗羅は幼馴染の降夜悠人と小さな展望台に来ている。展望台といってもベンチが1つあるだけで、幼い頃から住んでいる2人とも初めて存在を知った。近くにある栄えた都市の夜景が一望できる。
「それで、なんで俺のこと誘ったの?」
「え、別に理由なんてないよ?」
首を傾げている悠人に、少しの嘘を混ぜて答えた。
「本当に変わらないね、紗羅は」
微笑みながら悠人が言う。
「そうかな?」
「うん、小さい頃からやりたいことをやってる感じ」
「なんか、すごいバカにされた気がする。」
やりたいことをやるのが何が悪いのか、私には分からない。ただ、成長していないと言われているみたいで、複雑な気持ちが胸に蟠る。
「バカにはしてないよ。むしろ尊敬してるし、少しだけ羨ましい」
悠人が少しだけ悲しそうな顔をした。
「急に誘っちゃったけど、悠人のお母さん、大丈夫…」
悠人のお母さんはとても厳しい。幼い頃から勉強、スポーツ、芸術とか、とにかく悠人になんでもやらせて、なんでもできるように動いていた。そして、私たちが高校生になったタイミングで、大学受験に向けてさらに厳しくなった。私は悠人のお母さんが苦手で、悠人のお母さんは私のことが嫌いだと思う。
「少しくらいなら大丈夫だよ。お母さんの勉強計画より進捗早いから」
「そっかぁ…」
社会人みたいなことを言い始めた悠人に、私は思わず冴えない返事をしてしまった。私たちが成長すればするほど、悠人はどんどん遠くに行っている気がする。私は悠人が好きだ。悠人の彼女になりたくて、遠くに行ってしまう悠人に近づきたくて、今日も悠人を誘った。
「それにしても本当に綺麗だね、ここの夜景」
気まずい雰囲気を破って、悠人が言った。
「でしょ!」
「なんで、紗羅が誇らしげなの?」
「私が見つけたから!」
私は満面の笑みを作った。これから悠人との時間はどんどん減っていく気がしたから、一緒に過ごせる時間は全力で楽しみたい。
「あんな綺麗に輝く街には何があるんだろう?行ってみたいな〜」
燦然と輝く街の中には何があるのか、どんな楽しいことがあるのか。想像するだけで胸が高まった。
「俺はここで眺めてる方が好きだな」
「なんで?」
「なんでって言われると難しいけど、あの街が綺麗に見える最適な距離感がここだと思うからかな」
きょとんとする私をちらっと見て、悠人は続けた。
「ここからだと綺麗に輝く街だけど、中に行くときっと汚い場所もあるし、辛く苦しんでいる人もいると思う。どんなことにもそういった負の側面が見えない、一番輝いて見える適度な距離感があると思ってる。その適度な距離感がここ」
「難しく考えすぎだよ、悠人は」
「そうかもね」
それから私たちは街の夜景を見ながら、雑談を楽しんだ。
悠人とこうやって話のはすごく久しぶりで、本当に楽しかった。
「そろそろ帰ろう。お母さんからLINE来ちゃった」
「そうだね。ありがとう、付き合ってくれて」
「うん」
「そうだ!最後に写真だけ撮ろうよ!街の夜景バックに」
この楽しい時間を記録したくて、私はスマホと自撮り棒を取り出した。
「いいけど、随分と用意周到だな」
私たちと街の夜景が入るようにしたら、悠人と体が密着した。緊張で顔がこわばりそうだったけど、緊張感を悟られるのが嫌で、今日2回目の満面の笑顔を作った。
「あとで送るね!」
「ありがと」
楽しいことが終わり、帰路につこうとする。少し前を行く悠人の背中を見ると、どうしようもなく遠く感じた。もう私は悠人の背中に届くことはできないのかもしれない、そう思わせるほどに。
「写真の私、綺麗に写ってるかな?」
気づいたらそんなことを聞いていた。
「うん、すごく綺麗」
悠人が優しく微笑んでそう言った。私の心だけでなく、全身が踊っている。どうしよう、思い切って告白しちゃう?自然と妄想が膨らんでいく。
「街の夜景みたいだった」
「え…」
胸の奥に小さな棘が刺さった感じがした。頭の中にさっきの悠人の言葉が流れる。「一番輝いて見える適度な距離感があると思ってる。その適度な距離感がここ」。小さな棘が胸だけでなく全身に広がる。悠人がどんな思いでそう言ったのかは分からない。けど、私は悠人に拒絶されたと感じざるを得なかった。「今が適度な距離感だから、これ以上近づくな」。悠人からの警告。刺さった棘の痛みと共に冷たい現実が私の体に染み渡った。私はフラれたんだ。十何年も抱いてきた私の思いは伝わることもなく、儚く散っていった。
夜景みたいな私と眺めている君 @umibud0u
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