Super Ultra Great Omni-Intelligence Operational Knowledge Analysis Nexus コンピュータ

ちびまるフォイ

人類の命運をかけた質問

どこかの大学のなんとか教授が風呂場で思いついた

"ギガンティック・ウルトラ理論"はこれまでの常識を一変するものだった。


すぐに論文は発表され、あらゆる科学者を失神に追い込んだ。


「なんという理論だ……」


「これをもってすれば、ものすごいコンピュータができるのでは?」


「間違いない。絶対に外れない天気予報もできるだろう。

 我々がこれまで作り上げていたスーパーコンピュータなんておもちゃだ」


「そんなものじゃない。これは宇宙の未来までわかるぞ!」


「「 これは人類史の大きな分岐点になる!! 」」


世界を物理的にも震撼させたその理論により、

地球の地軸はちょっとズレて夏が長くなってしまったという。嬉しい。


やがて多額の資金と人類の英知が結集し、

理論を用いた究極のコンピュータが爆誕した。


Super Ultra Great Omni-Intelligence Operational Knowledge Analysis Nexus


略称は


SUGOI-OKAN コンピュータ。



そのサイズは無人島ひとつぶん。

遠巻きにみると浮島のようにすら見えるサイズ感。


「ついにできたぞ……」


「これで人類の未来がわかるのか」


「宇宙の神秘だって聞けばわかるはずだ」


「宇宙誕生の歴史もわかるのか!?」


「当然だ!」


このコンピュータを持ってすれば、人類を超越し宇宙を超えて

並行世界の状況すらもわかってしまうほどのハイテクノロジー。


ただし問題はひとつだけあった。


「……しかし、どうやって起動するか」


実はこのコンピュータ、起動にめちゃくちゃコストがかかる。


作っている段階ではそんなこと気にも止めていなかった。

できあがってからどうやって起動するかの問題にぶちあたった。


世界で有数の有識者たちは議論の場を設けた。

その場でChatAIにたずねてみたが回答は絶望的。


「このコンピュータ起動するための電気って国家3つぶん……?」


「それは最小値って話だぞ。レアメタルだっていくつ必要なのか……」


「世界1位の大富豪の全財産を使ったとしても破産するほどの資金が必要だ」


「それに起動のためには労働者だって必要だぞ」


「「 うーーん…… 」」


試算してみるとあまりに莫大な起動コスト。


7つのボールを集めてドラゴンを呼び出すほうがまだ安い。

あっちは世界を移動するだけで済むのでまだマシ。


そこまでして起動すべきものなのだろうか。


森羅万象あらゆる答えを導き出せるコンピュータは、

人類のすべてを賭けて起動して答えを聞くべきなのか。


答えを決めあぐねたため、世界では大規模な投票が実施された。


「このコンピュータを起動するか、しないかを決めます!!

 みなさんの投票でこの世界の行く末を決めましょう!!」


全世界にまたがる地球の命運投票がきまった。

票はおしりくらいまっぷたつに割れた。


「そんなコストかかるコンピュータなんて不要!

 今の状態でも十分じゃない!!」


「これ以上の発展は人類の首をしめるだけだ!」


「コンピュータが反乱したらどうする!!」


起動反対側はコンピュータが提供する恩恵を疑問視し、

その危険度のほうに目を向ける意見が多数。


一方で起動に賛成派は。


「なにもわかってない! この地球を救う答えだってわかるんだぞ!」


「未来がわかれば、あらゆる不安からも解消される!」


「その気になれば死者をも蘇らせる方法すら教えてもらえるんだ!」


コンピュータのメリットを強く訴える意見が多数。

最終的には代表者のじゃんけんの結果、起動することとなった。


起動のためには莫大なコストがかかるものの、

一度起動すると決めてからの人類の頑張り具合はすさまじかった。


ゴールや目標を決めると頑張れるのは人類共通の特徴らしい。


とはいえ、非常にコストがかかるのは事実で

当然コンピュータに対する質問についても限られてしまう。


「とりあえず起動までのめどはたったわけだが……。

 仮に起動できたとして、何を聞くべきだ?」


「決まってる。宇宙誕生のメカニズムさ」


「そんなの聞いてどうする。

 人類が発展するための方法を聞くべきだ」


「ふわっとしすぎだろう。死を超越する方法を教えてもらうべきだ」


「それだと別の問題が起きるだろう!」


「じゃあなに聞けばいいんだよ!」


恐ろしいほどのコストを使ったうえで尋ねるべき質問。

まさにそれは人類の命運をかけるほど重要な問いとなるべきだった。


そうなってくると、とたんに質問がさだまらない。


宇宙移住の方法から明日の献立だって予言できるコンピュータ。


何を聞いて、どの答えを得るべきか。

その答えが起動コストに見合うものなのか。


いくら人類の英傑が頭をひねってもベストな質問は見つからなかった。


質問を考えるということは、得られる答えを想定しないとわからない。

それは全知全能のコンピュータを超えた思考が必要となる。


起動までのコストが準備してからも質問の検討は続いた。

最終的にわからなくなった人類がたどり着いたのはひとつの質問。


「なにを質問したら良いか、を聞けばいいんじゃないか?」


「な、なんで?」


「未来すらも予言できるコンピュータだぞ。

 人類が気づいていない可能性やリスクすらも見通して

 もっとも優先すべき質問を教えてくれるんじゃないか」


「「 天才だ!! 」」


わからないことは聞けば良い。

「なにがわからないか」がわからないのであればそれも聞いちゃえば良い。


苦節〇〇年。

ついに人類はSUGOI-OKANの起動を決断した。


「はじめるぞ!!」


すさまじい電気エネルギーがOKANのもとに送電させられる。

世界ほとんどの国が停電となってもまだ足りない。

足りない分は地下労働者たちの自転車発電でまかなう。


高価なレアメタルが何個も起動の触媒として使われ、

セレブたちの宝石やら資産家の隠し財産も炉にくべられる。


コンピュータが発するシータ線により草木は枯れ果て、

大地は核戦争後のようなありさまとなる。


そしてついに。



Hello World ーーー。



SUGOI-OKANが起動した。



『私はすべてを見通せるコンピュータです。

 現在のエネルギーでは起動30秒が活動限界です』



時間がない。

人類の代表者はすぐに尋ねた。



「教えてくれ!! あなたには何を尋ねればいいのか!!」



それに対し、SUGOI-OKANなだけあって迷うことなくすぐに答えを出した。

あらゆる宇宙や未来を見通したうえでの答えだった。



『お答えします。人類が尋ねるべきは

 "どうすればSUGOI-OKANを簡単に起動できるか"でした』



コンピュータの最後の回答は続く。



『なぜなら、私を起動したコストで人類はもう終わります。

 コストを下げて簡単に起動できたなら、その解決策すら出せたのにーー』



30秒経過。コンピュータの電源が落ちる。


やがてコンピュータが放った爆熱は地球温暖化を急上昇させ、

まもなく地球は灼熱の大地になり人類はもれなく絶滅した。

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