考えさせられるテーマと、非常によく練られたシナリオ性のある作品です。
「こんな時、あなただったらどうする? 何ができる?」
全編を通し、そんな問いが投げかけられるような趣きがあります。
ある日、作品の主人公たちはビルの屋上に立つ「一人の女性」の姿を目にする。
飛び降りようとしているのか? だったらすぐに止めに行かなくてはいけない!
ここから「日常」が「非日常」に変化していきそうな雰囲気があります。
……だが、あくまでも「雰囲気」でしかありません。
警察を呼ぼうか。でも、本当に事件なのかわからないので踏み切れない。
そうして葛藤する内に、彼らには「普段の日常」が襲い掛かってくる。
職場の人間関係についての話とか、仕事としてやっておかねばならないこと、または予定していたイベントとか。
「今にも飛び降りそうな女性」を目の前にしつつも、至極日常的な会話を始めてしまう彼ら。
でもこれは、多くの人の身にも起こっていることかもしれません。
テレビのニュースであまりにも凄惨な事件や事故の報道を見て、「可哀想」とか口にした後、数秒後には美味しい食べ物の話なんかで盛り上がっているかもしれません。多くの家庭でごく普通に起こっていることでしょう。
「日常」と「非日常」の境目は曖昧なものだし、人は非日常と遭遇しても「主人公」のようにはテキパキと行動できない。「物語」に参加しようにも、普段の日常からうまく脱却することもできない。
これは、そんな物語になりそうでならない、「リアル」というものを描きき切った作品です。
社会性や風刺性も高く、「物語」と「現実」の違いを活写した、非常によく練り込まれた作品です。