理想の一日
Yohukashi
理想の一日
私はベッドに横たわっている。
今までの息苦しさや、体の各所から私に襲いかかる苦痛も引いている。
ベッドの周りには、私の家族がいる。
動物として生まれた以上、子孫を残すのは生物の使命。そう思い込んでいる私は、自らの子供たちや孫たちの顔を見て、自らの使命を達成できた喜びを噛み締める。
見上げる天井には、子供たちの成長を撮影したビデオ映像が映写され、私の好きな音楽が流れている。
実に穏やかだ。
学生時代は教師や同級生にいじめられ、就職先でもイビられるは、突然倒産するは、転職先の給与は安いは、労働時間は長いは、散々だった。子供が生まれると、自分の時間なんか全くなくなった。自分の個人の持ち物なんて、服とスマホだけだ。趣味の品も、家宝になるような骨董品もない。だが、たとえ高価な宝石や超一流の画家の描いた絵画などがあったとしても、この理想の一日という、ごく短い限られた時間に、わざわざ見ようとは思わない。伴侶、子供たち、孫たちに勝るものなんかない。
ああ、何という理想の一日だ。
今までの辛酸は、この一日を手に入れるために必要だったのだろう。辛酸をなめる時間は長く、そして短かった。理想を手に入れた充足感を満喫できる時間は、更に短い。でも、良い。誰かが言っていた。終わり良いければすべて良し。どんなに地獄の辛酸であったとしても、それらは全て過去のこと。
苦痛を感じさせない医療技術の進歩には、感謝しかない。
戦地で子供を失うなんて世の中にせず、平和を維持してくれた政府には、感謝しかない。
美味しい食べ物が常に手に入る世の中にしてくれた現代社会には感謝しかない。
たとえ、虐待で心身のトラウマを抱えても、全く救ってくれない社会であってとしても。
娘が小学校の時、娘よりもずいぶんと頭が悪かった金持ち性悪少年が、家庭教師をつけまくって医学部に進み、大病院の跡継ぎになって高級車を乗り回している一方で、私の娘は、郊外の小さな一軒家を35年ローンで細々と返しながら、貧しい生活を余儀なくされる世の中であったとしても。
ああ、理想の一日だ…
理想の一日 Yohukashi @hamza_woodin
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