心を開けば見えてくる。世界の美しさ、人々の紡いだ文化や言葉の豊かさ

 全編を通し、とても繊細で美しいもので満たされていました。

 主人公は「アラサー」を前にして焦りを覚えているOLの百合子。
 彼女は仕事の面では順調にステップアップすることが出来ていたが、恋愛の面ではどうしてもうまくいかず、人生のステージを駆けあがって行く友人たちに劣等感を覚えていた。

 本作はそんな百合子の心理的葛藤が丁寧に描かれていて、「仕事でうまくやること」と「人生でうまくやること」の違いとは一体なんなんだろう、と考えさせられました。

 そんな彼女が「ある一冊の詩集」と出会ったことで、少しずつ人生を変えていく。

 「落花流水」とか、意味はよくわからないけれど美しい感じのする言葉などに触れる。それらの意味を知ることで、物事の見え方が変わって行く。

 詩集を開く度に変化する、ちょっと不思議な「ひとつまみのファンタジー」な現象。
 俯いていた状態から顔を上げ、少しずつ「世界」を見ることができるようになった百合子。
 綺麗なピンクの花びらが舞う景色。活気のある郡上おどり。

 世の中には美しいものがたくさんある。人々が作り出してきた言葉や、人々が継承してきた文化。心を満たしてくれるもの。楽しい気分を与えてくれるもの。

 理屈ではなく心によって、「幸せになる方法」が掴めてくる百合子。
 そんな彼女の姿を見守る中で、読者も前向きな気持ちになれていく、そんなとても素敵な小説でした。

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