人造人間シュプレヒコール

日野球磨

唄え! 唱え! 謳え!


 人造人間シュプレヒコールを知らないとは言わせない!


 人の手によって作られた彼は、正義のヒーロー『スプラッシュカイザー』を倒すために、悪の結社『ワルイゾー』の指示の下、怪人として日夜活動しているのである!


「見つけたぞ人造人間シュプレヒコール! 今日こそは、貴様の悪事を止めてやる!」


 日曜朝七時半。とある公園に人造人間シュプレヒコールの出現を感知したスプラッシュカイザーの登場だ。


 正義のヒーロースプラッシュカイザー。両腕についたスプラッシュカウンターから放たれる光線は、悪の怪人を一撃で殲滅するほどの威力を持っている。


 しかしそれは最後の手段。正義のヒーローは、どんな悪人にも慈悲の心を持っている。だからこそ、今日も今日とてスプラッシュカイザーは、ワルイゾーの手先の前に現れ、彼らの改心のために話しかけるのだ。


 けれど相手は人造人間シュプレヒコール。スプラッシュカイザーの宿敵にして、最悪の怪人である。果たして彼との対話は上手くいくのか――


「げーひゃっひゃっひゃっひゃ、来たなスプラッシュカイザー! お前が来るのを待っていたぞ!」


 下卑た笑い声から飛び出てくる性格の悪そうな受け答え。やはりシュプレヒコールを改心させるのは難しいか、どうするスプラッシュカイザー!


「ああ、ちょっとまてスプラッシュカイザー」


 さて、ここで戦いが始まるかと思いきや、シュプレヒコールが待ったをかけた。


「どうしたシュプレヒコール!」


「お前を待ってる間に拾っていたごみをごみ箱に捨ててくる必要がある。最近は公園のごみ箱が減ってしまったからな」


 よくよく見てみれば、シュプレヒコールの手にはゴミ袋が握られていた。


「おい、シュプレヒコール! 分別をしない貴様を僕が許さない!」


 けれど、薄く透けて見えるごみ袋の中身を見てみれば空き缶や燃えるごみ、ペットボトルなどなどが雑多に入っている。それを見咎めたスプラッシュカイザーは、ごみ袋をひったくると同時に袋を逆さにして、全てのゴミを地面に放り出した。


 それから彼は、一つ一つ丁寧にごみを分別していく――


「何をするスプラッシュカイザー! なぜ俺が拾ったごみを散らかすのだ!」


「いいか、たとえごみ拾いだと言っても分別をしなければ意味がない! まさか貴様、燃えるごみと燃えないごみを一緒にして許されると思っているのか!? それになんだこのごみ袋は! ごみ袋の規格は自治体ごとに指定されたものを使うんだぞ!」


 流石は正義のヒーロースプラッシュカイザー。ごみの分別にも余念がない。


「これを見ているみんなも、ごみの分別には気を付けるんだよ!」


 それから、怪人との激しい戦いを見る子供たちへのアピールもばっちりである。


 ちなみに。


「でも、知らなかったとはいえボランティアでごみ拾いをしてるシュプレヒコールの活動は僕、立派だと思うんだよね。それなのに褒めもしないでごみ袋をひっくり返すなんてひどいよ」


「善意の結果で迷惑が掛かっちゃうのは悲しいけど、それはその人の善意を否定する理由にはならないよね。そういう意味じゃあ人の努力を否定してばかりのスプラッシュカイザーにも直すべきところがあると思うんだ」


「叱るという行為は往々にして悪くとらわれがちだけど、間違いを正すという意味では間違いなく善意の伴った善行なんだよね。そういう意味じゃあ、もはや世界に悪なんて存在しないのかもしれないね」


 ――以上が、公園で砂遊びをしていた子供たちの言葉である。


 そうしてこうして十分後。分別が終わったことで三つに増えたゴミ袋を抱えたシュプレヒコールは言う。


「くそうスプラッシュカイザー、俺の荷物を増やしやがって覚えてろよー!!」


「ふんっ、次はこうはいかないぞシュプレヒコール!」


 これにて人造人間シュプレヒコールとスプラッシュカイザーの戦いは幕を閉じた。


 今日も世界は平和である。


 平和なだけかもしれないけれど。

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