第37話 終戦

 ロンドたち3人は、チュウカマン戦隊のコスチュームでガルタの軍団を迎えた。

 この場で戦う意思がないことを示す白い旗を振っている。

 その姿を確認して先頭の騎馬兵が近づき話しかける。


「何だお前たちは?」


「バルチ帝国の国王に代わり責任者と話しに来た。」


「国王の代理だと……」


「ああ。これが国王の代行権限証明だ。」


 厳密にいえば皇子によって書かれたものだが、そこ書状には確かに国王の署名がある。

 騎馬兵はその紙を受け取って本体に引き返し、すぐに2頭引きのチャリオットに乗った金ぴかの鎧を纏った男を連れて戻ってくる。


「ガルタ王国第3王子のシャールル=ガルーダだ。降伏でもしにきたか?」


「バルチ帝国特別参謀のマヨラーという。この先は帝国の領地である。即刻立ち去るよう勧告に来た。」


「笑わせるな。おおかた5万の軍勢を見てビビってるのだろう。おとなしく町を明け渡せば殺しはしない。まあ、奴隷にはなってもらうがな。」


「ここからは見えんが、山を下りきったところに濠を掘って擁壁を構築してある。お前らに勝機はない。今、引き返すのならば何もしないが、国境を超えれば侵略だ。その場合、帝国としては賠償として金貨20万枚を請求する。」


「ふん、十分な下見は済ませてある。急ごしらえの塀なぞこの軍勢で呑み込んでやるぞ。悪いことは言わん。降伏しろ。俺は寛大だから、この程度の侮辱は忘れてやる。」


「仕方ないな。まあ、濠の手前で足を止めるだろうから、その時にもう一度来てやる。その時は降伏の勧告になるがな。」


「バカか。チンケな濠ごときで足を止めると思うなよ。抵抗するのであれば容赦はせんぞ。」


「まあいい。じゃあ、明後日の夕刻、野営地にお邪魔するとしよう。」


 ロンドたちは転移でその場から消えた。

 5万の軍勢ともなれば、移動速度は時速3km以下になる。

 そして、2日後の夕方、両軍は川を挟んで対峙する形となった。


「どうだ、退却する気になったか?」


「何故、突然現れたり消えたりできる……魔法なのか……」


「手の内を明かすつもりはない。まあ、ここで引き返せば、賠償金は金貨5万枚にまけてやるぞ。どうだ?」


「ふざけるな!この程度の距離ならば弓で届く!」


「それはお互い様だよ。こっちは身を隠しながら攻撃できるが、お前らはむき出しの生身だぞ。」


「ふん、こちらには十分な盾がある。」


「そうか。言っておくが両側の山へ迂回するのはやめておいた方がいいぞ。」


「なにぃ!」


「罠を張ってあるから、悲惨な事になる。俺たちもそこまでやりたくないからな。」


「そんな脅しに騙されるか!」


「まあいい。じゃあ、開戦だな。」


 ガルタは城壁攻略のために、破城槌や攻城塔を用意してあったが、それらは川に阻まれて使い物にならない。

 かといって、鎧を装備した兵士に川越は無謀すぎる作戦だ。

 そのため、1万の軍勢を左右の山に向かわせ、正面からは暗闇に紛れて鎧を脱いだ兵士を泳いで渡らせる作戦を構築していた。

 そしてロンドが消えた5分後、ガルタからの弓の掃射で戦が始まった。


 放物線を描いて飛ぶ矢の半分以上は擁壁に撥ね返されたが、それでも擁壁を超えて矢が飛来する。

 だが、ガルタ側からは死角になっているが、擁壁の上には木製の屋根が敷設されており、殆どの矢は屋根に突き刺さる。

 そして、擁壁内の兵士は、擁壁の際に集まっており、屋根を飛び越えた矢は地面に突き刺さっていく。


 バルチ側はスリングショットを使って8mmの鉄球を撃ち出していく。

 カンカンカンと鉄の盾に弾かれた弾を見て、初めてその攻撃を知ったのだが、直撃を受けた兵士はバタバタと倒れていく。


「くそっ!一旦後退しろ!射程外まで下がるんだ!」


 弓の掃射を中断して全員が後退していくが、兵士の数が多すぎて思うように後退できない。

 そして、フルアーマーの者は殆ど無傷だったが、弓兵など軽装の者はバタバタと倒れていく。

 石弓や投石器はその場に置き去りにされ、火魔法により次々と燃え上がっていく。


 ロンドの用意した狩猟用スリングショットは、100m程度ならば余裕で到達する。

 人間の皮膚程度は簡単に貫通するが、100mを超えると川の服で防げてしまう。

 それでも、盾や鎧にあたる音が途切れるまで後退せざるを得ない。

 人間の恐怖心とはそういうものだ。


 結局ガルタ軍は、150m以上の距離をとって体制を整えていく。

 最初の攻防での死傷者は3000を超え、バルチ軍側は流れ矢を受けた3人のケガ人で終わっていた。

 そして、両翼に移動中だった兵士にも被害がおよび、1万うち1500人が倒れてしまっていた。


 やがて陽が落ちて、周囲が暗くなると、ガルタ側は天幕を張ってかがり火を焚いて休息し、簡単な食事を摂っていく。

 一方のバルチ側では、発電機を起動して投光器をつけ、自陣内はLED照明の中でロンドの提供する牛丼の特盛を食べている。


「くそぉ、こんなに明るくされたら、川を渡る事もできんではないか!何か攻略の糸口はないか!」


「王子、この状況では両翼の兵力を増やすしかありませんぞ。」


「そうだな、5000づつ追加して、夜のうちに擁壁まで行かせて……だが、その先の攻め手はあるのか?」


「カギ縄を使って壁を登るしかありません。」


「そんなことをしたら、上から狙い撃ちされるだけじゃないのか?」


「弓兵を多く配置して、けん制させれば……、ともかく突破口を開きませんと。」


「そ、そうだな……」


 その時、天幕の周囲が急に明るくなり、叫びがあがる。


「どうした!」


「た、多分、油が降ってきたみたいで……」


「なにぃ!」


「王子、お逃げください!火の回りが早いようです!」


「くっ……」


 幹部が天幕の外に出てみると、既に周辺はドーナツ状に燃え上がっており、逃げ道など残っていなかった。

 そこへチュウカマン姿のロンドが現れる。


「き、きさま!」


「これ以上被害を増やしたくなければ投降しろ。今は2mほどの範囲で油を撒いたが、全軍を焼き殺す事もできたんだぞ。」


「お、おのれ!」


 逆上した将校がロンドに斬りかかるが、振り上げた剣を落としてその場に倒れてしまう。


「な、何をした!」


「眠らせただけだ。早く決断しないと、どんどん死んでいくぞ。」


「……わかった。投降する……」


「王子……」


 将校の一人が悔しそうに呟いた。



 ロンドは王子を連れてガルタの王都に買ってあった拠点に転移した。

 王子には目隠しをしてある。

 拠点から城まで空を飛び、国王の居室まで案内させる。

 多少の時差はあるが、夜の8時頃だ。

 国王は、要職者と会議中だったが中断させて、賠償の交渉に入る。


「まだ、兵士が4万は残っているハズだ。この王子と4万の人質をそのまま開放するから、賠償金として金貨30万枚を要求する。」


「ば、バカな……」


「大丈夫だ。今、この城の地下金庫に金貨が25万枚あるな。それを全部もらっていく。足りない分は来年でいいな。」


「そ、それを取られたら国はどうなる……」


「セイタが侵略されていたら、お前たちは全部略奪したんだろう。当然の事じゃない。」


「王子!どうなっているのだ!」


 ロンドは王子を返却して勝手に金庫へ行き、そこの金貨を全て島の倉庫に送った。

 そのまま帝国へ転移して、皇帝に顛末を報告して賠償金のうち金貨10万枚を引き渡した。

 残りの金貨は、兵士の食事や設備を交換した対価にする。


 即日行動したのは、人質の処置などをしたくなかったからだ。

 これにより、ガルタの敗残兵はそのまま帰国をはじめ、ロンドは川に頑丈な橋を作って擁壁にも出入口を設けた。


 こうして、ガルタとバルチの戦争は幕を閉じたのである。



【あとがき】

 第三章終了です。

 少しお休みさせていただきます。

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