魔女学校の落ちこぼれマギーは骨をゲットできない

竹神チエ

吾輩はボーン男爵であーるっ!

 魔女学校の見習い魔女マギーは十三歳の女の子。

 魔力がないから落ちこぼれだけど、なんやかんやで相棒になったおしゃべり箒のボーボーのおかげで、それなりに楽しい生活を送っていたんだけど……。


 ◇


 ホーホーとフクロウの鳴き声がする深夜。

 真っ暗闇の中、墓場の入り口で立ちすくむマギー。


「主君、今日はどうして夜遊びしてるんだ? 悪い子マギーなのか?」


 ぴょんぴょこ跳びはねながら、マギーの周囲を回るボーボー。心配そうに柄をよじっている。


「わたしだって早く帰って寝たいよぅ」


 肩を落とすマギー。手にはカボチャ型のランタン、そしてスコップを持っている。


 マギーが深夜の墓場にいる理由は、墓を掘り返して骨をゲットするためだ。だからちゃんとスコップも持ってきている。なぜ墓泥棒をしでかそうとしているかというと宿題のせいだ。


「墓場から人骨を掘り起こし提出すること!」


 呪術学の先生の言葉に、魔女見習いたちはびっくり仰天したけれど、骨は一部でいいですからね、と先生はニッコリ。


 立派な魔女になるためには、材料入手スキルも必要だ。墓荒らしなんて違法だと思うのだが、そこは魔女学校。埋まった骨を少々拝借するくらいは許されるというルールである——が、この一覧から選びましょう、と墓地名簿が作ってあったので、墓守と学校との間でしっかり取引があったようなないような……ともかく。


 人骨を掘り起こして明日提出しないといけないのである。


 気取りやダイアナとその取り巻きたちはチームを組んでみんなで墓荒らしに出かけるとか。他の子たちもペアを組んだりグループを作ったり。ひとりで墓場に繰り出しているのはマギーだけである。


 それでもまあ、本当に一人ぼっちではない。


「主君っ、しゅくーんっ」


 人間でいうところの側転やらバク転やらのアクロバットを決めてはしゃいでいる箒のボーボー。夜の外出に気分が高揚しているらしい。


 しゃべる不思議箒であるボーボー。他にも杖になったり靴になったり、さらには美少女に化けたりした箒である。深夜と墓地の組み合わせに、魔性が湧きたつのかもしれない。


 一方、マギーの気持ちはテンションダダ下がりだ。


「夜の墓場も嫌だし、墓を掘り起こすのも嫌だし、骨を取り出して持って帰るのも嫌。イヤイヤイヤ。やっぱり魔女になるなんて無理なんだよ」


 そもそも魔力もからっきしだ。魔女学校なんてさっさとやめて、普通の女の子に戻りたい。でも魔女学校の校長がマギーのおば、マチルダおばさんだから、話はややこしくなっている。「あなたなら出来るわ!」の熱烈なエールを送られ続けているせいで、逃げる逃げに出せない状況なのだ。


 そんなわけで、ものっすごくやる気のないまま、トボトボと墓地へと入っていくマギー。ボーボーが「楽しっ楽しっ、夜の冒険‼」と元気いっぱいなため、恐怖は薄れてはいるものの……。


「誰のお墓を掘り返せばいいの? 選べないよぅ」


 泣き出したい気分。それでもランタンの灯りを頼りに、墓を物色して歩く。ここらあたりの墓地は土葬だ。棺が埋まっているはずで、その中に遺体がある。ということは真新しい墓はダメだ。掘り起こしたらとんでもない目に遭う。欲しいのは骨、ゾンビじゃない。


 マギーは「ううっ、早く帰りたいのに」とメソメソしつつ物色して歩き、結局ぐるりと一周墓地を周って入口まで戻ってきてしまった。


「古いのもあったけど……、掘り返すなんて無理だよー!」


 スコップを投げ出し、頭を抱えてしゃがむマギー。ランタンの灯りも弱々しくなってきている。早くしないと消えてしまう。真っ暗の中、墓地に一人なんて……。


「主君っ、我に任せろ。墓を掘ればいいんだな!」


 胸を張るようにピンッと立つボーボー。

 さっそく近くの墓に飛び掛かるように挑みに行くが。


「ダメダメっ、そのお墓は新しいでしょっ。ほら墓石もピッカピカ。もっと古びてて墓参りに誰も来てないような壊れかけたお墓にしないと」


 でも掘り起こすなんて……罰当たりな。


 魔女マインドにとぼしいマギーは、張り切るボーボーを止めると、再び頭を抱え、盛大なため息をつく。


 今回の宿題は諦めよう。それかフライドチキンの骨を持って行って、先生に怒られよう。うん、そうしよう。


 マギーが気持ちを切り替え、立ち上がろうとすると、肩をちょんっと叩かれる。ボーボーだと思い、「大丈夫、心配しないで。でも今日はもう帰ろう」と顔をあげ——マギーは「ぎゃあああああああ」と絶叫した。


「主君っ、どうしたのだ‼」 

「が、ががが、ガイコツ‼」 

「ボンソワール、お嬢さん。吾輩、ボーン男爵であーる」


 肋骨に手を当て、恭しく頭を下げるガイコツ。ボーボーは「貴様、主君の敵か⁉」と毛先をボワンと膨らませ、威嚇するように左右に動かした。


「ホッホッホッ、元気な箒ですな。お嬢さんは魔女のお嬢さんでしたか」


 皮膚がないので表情らしいものはないはずだが、なんだか嬉しそうにしているガイコツ。動揺するマギーだが、足を踏ん張って立ち上がると、「わ、わたしは魔女見習いです」とぺこりとあいさつする。


「あのー、ガイコツさん」

「吾輩、ボーン男爵であーる」

「あ、ボーン男爵様。そのー、あのー」


 バケモノですか?とは聞きにくい。いつの間にか寝てしまったのだろうか。いやいや箒のボーボーの件もある。動くガイコツだっているんだろう。


 ボーボーが、「敵かっ、敵なのかっ」と威嚇ばかりなので、マギーは柄をさすってなだめながら、ボーン男爵に「つかぬことをお聞きしますが」と質問してみた。


 快く答えてくれる男爵。百年以上前に死んだ人間だが今はモンスターとして第二の人生を歩んでいると誇らしく説明してくれた。


 そうして話は「魔女見習いのお嬢さんはこんな時間になぜ墓場に?」となり、マギーが宿題について話すと、「それなら吾輩が解決してしんぜよう」と頼もしく請け合う男爵。くるっと背を向け、何やらカチャカチャやっている。


 再び向き合うと、その手に小指くらいの長さの骨を乗せていた。


「吾輩の骨をあげよう。また必要になったら来なさい」

「エッ。そ、そんな悪いです……」

「若いもんが遠慮しなさんな」


 強引に小骨を握らせてくるボーン男爵。マギーは「じゃ、じゃあ、今回だけ」とぎこちなくお礼を言う。


 骨の持ち主は「ホッホッホッ、その程度の小骨で良ければ50本はあげられるわい。もっと必要なら吾輩の友人たちを紹介しよう」とまで言ってくれている。


 ありがたい申し出だ。墓泥棒するより何倍も良い。だって本人がくれるって言ってるんだし。


 それにしても骨が直に手に乗っているのは魔女マインドにとぼしいマギーにとって様々な感情が駆け巡る。だから丁寧にハンカチに包むとポケットに入れた。


「主君っ、骨がいるのかっ、なら我も骨になろうかっ‼」


 ボーン男爵と張り合おうようにボーボーが騒ぐ。マギーは「ううん、いらない」と断り、その柄にまたがった。


「ありがとうございました、ボーン男爵」

「良い良い。またおしゃべりしよう、魔女見習いのお嬢さん」


 穏やかな表情、はないが雰囲気的にそんな感じで見送ってくれるボーン男爵。手を振り返したマギーはトンッと地面を軽く蹴る。スイッと急上昇。あっという間に周囲はきらきらの星空だ。


「主君っ、我は本当に骨にならなくていいのか⁉」

「いいんだって。だって提出したらあんた呪術の材料になっちゃうよ?」


 とはいえ、燃えても復活したボーボーだ。すり鉢で砕かれても、ひょっこり戻って来る……? ま、今回はその必要なし!


 マギーはポケットを押さえてニンマリする。 

 びっくりしたけど、良い知り合いができた。


「睡眠時間がなくなっちゃう。ボーボー、超特急で帰るよ」

「任せろっ、主君!」


 ピューンッと飛んでいくボーボー。月を背に魔女と箒のシルエットが横切ったのを、墓場のボーン男爵は微笑まし気に眺めた。

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