優しい甘さ
春河りっか
第1話
疲れて家に帰ってくると、今日は同棲中の彼の方が早く帰宅していたようで、玄関を開けると、香ばしい香りがした。
ただいまと言いながら、靴を脱ぎ、手洗いとうがいをする。
そして、キッチンの方に向かうと、彼がフライパンの中身を確認しているところだった。私の足音に気が付いて、私の方を向く。
「おかえり」
ただいま、今日のご飯は何?と尋ねながら、良い匂いがする方へ近づく。
「今日はハンバーグだよ」
フライパンの中を覗くと、ハンバーグが仲良く横に二つ並んでいた。
美味しそうと伝えると、彼はニコッと笑った。
「もうすぐ出来るから、もうちょっとだけ待っててね」
子供をあやすような優しい声で話す。
はーい、そう返事して、私はテーブルの上に乗っているものを片付けて、布巾でテーブルを拭いた。
テーブルを片付け終わると、浴室の方へ行き、湯沸かしボタンを押してから、テレビを付けてぼんやりと眺める。
「お待たせ」
そう言いながら、彼は両手にハンバーグやサラダ、ご飯が見栄えよく乗ったワンプレートの皿を持ってきてくれた。
私が箸を持ってこようと立ち上がろうとすると、僕が持ってくるからと言って、持ってきてくれた。
彼も座ると、いただきますと2人で言い、ハンバーグを口に運ぶ。
うまい!思わず口から出ていた。
「よかった」
彼は安心したように、そう呟いた。
ハンバーグがとても美味しいのと空腹だったため、無言で食べ続け、あっという間に完食した。
ご馳走様でした。一人だけ早食いでもしているのかという早さで食べきってしまった。
「美味しそうに食べてくれて嬉しいよ」
彼は優しく私を眺めて、そう言った。
一人だけ食べ終わり、なんとなく彼が食べている姿を見ていると、彼と目が合ってしまう。
彼は箸で一口大にハンバーグを切って、私の口に入れようとしていた。
「はい、あーん?」
私はそれに甘えるように口を開けて、ハンバーグを食べる。
やはり、美味しい。彼の作るハンバーグはどちらかと言えば、家庭的である。
優しい味がして、食べやすい。何個でも食べられそうなぐらい私好みの味である。
彼も食べ終わり、食器を片付け、タイミング良く、お風呂が沸きましたと鳴った。
「あきちゃんが先にお風呂に入って」
彼も仕事から帰ってきて疲れているはずなのに、私に譲ってくれるなんて、優しすぎる。
「ええ?いいの?」
「もちろん!僕は後でも全然大丈夫だから、先にお風呂に入って温まってきて」
彼の優しさに甘えて、先にお風呂に入らせて貰うことにした。
お風呂に入ると、今日のことをぼんやりと振り返ってしまう。
ちょっとミスしたなとか、もう少し上手くやれば効率がよかったかもとか、私の場合は反省してしまう。
明日頑張れば、土日休みになるから、頑張ろうと思い、お風呂から出る。
「ごめん、少し長めにお風呂入っちゃった」
彼はテーブルの上でノートパソコンを開いて、作業をしているようだった。
「ううん、全然大丈夫だよ」
「あれ?仕事残ってた?」
「あきちゃんがお風呂に入ってる間に明日までに確認して欲しい資料があって、それを見ていただけだよ」
「そっか、それはお疲れ様」
「それじゃあ、僕もお風呂入ってくるね」
私は冷蔵庫から、チューハイ缶をプシューと軽快に開けて、おっけー!と言って、ソファーに腰をかけて、レモンチューハイを飲む。
チューハイをちびちび飲みながら、スマホを弄っていると、ふと眠くなってきた。
スマホを缶目の前においてある丸テーブルの上に置く。
そして、そっと目を閉じる。
いつの間にか意識は遠のいていた。
「……あきちゃん……起きて」
誰かが私を起こしている。目を開けると、目の前に彼がいた。
「あ、ごめん、ソファーで寝てた」
「眠いなら、ベッドで寝た方がいいよ」
「分かってるけど、あなたを待っていたかったし、チューハイ飲んでたから、ベッドに行けなかった」
言い訳をする子供のように言ってしまった。
「ありがとう。でも、もう寝ようか」
そう言うと、彼は軽々と、私をお姫様抱っこした。
「え?」
「さあ、ベッドに行こうか」
なるがままに、ベッドに運んで貰ってしまった。
そして、優しくベッドに横にならせてくれて、私の頬にキスを落とした。
「あきちゃん、おやすみ」
彼は私よりも大きく温かい手で、私の頭を撫でて、優しい声でそう言った。
いつの間にか、私は眠りについていた。
自然と目が覚めて、いつもより寝起きが良いなと思いながら、ベッドの近くに置いてあるデジタル時計を見ると、5時30分。
普段は6時に起きるので、それよりも30分早く起きていた。せっかく早起きしたから、朝ごはんでも作ろうと決めた。
彼はまだ寝ているので、起こさないように、ゆっくりベッドから出て、足音を立てないように、洗面所で洗顔と歯磨きをする。
朝食を作ると言っても、お湯をポットで沸かし、パンをトースターにセットし、フライパンに割った卵を入れて、目玉焼きを作り、焼きあがったパンの上に目玉焼き乗せ、お皿に盛る。
ポットが沸き、インスタントのコーヒーの粉をカップに入れて、お湯を注ぐ。
テーブルにお皿とカップを彼の分も運び、彼を起こしに行く。
寝室に行き、まずカーテンを開けて、朝日を浴びる。
そして、彼を起こす。
彼は朝が弱いため、なかなか起きない。
起きて!と言いながら身体を揺らすが、なかなか起きない。
諦めて部屋を出ていこうとすると、彼は私の手を握り、「行かないで」 と言って、離してくれない。
それが可愛いと思いつつ、早く食べないと冷めてしまうし、支度の時間も無くなるので、ごめんねと謝りながら、手を解く。
朝ごはんを急いで食べ終わし、歯磨きをし、着替えを済ませて、化粧し始めていると、彼がやっと起きた。
私と彼とでは、出勤時間が30分程違う。
彼が勤める会社は最寄り駅から2駅先にある会社で、私が勤める会社は最寄り駅から5駅あり、彼よりも早く出ないと間に合わないのだ。
慣れた手つきで化粧を終わらせ、忘れ物が無いか確認し、玄関に向かう。
仕事用のパンプスを履くと、行ってきますと言い、ドアを開けようとドアノブに手をかける。
いつものように、彼が行ってらっしゃいと玄関まで見送ってくれる。
たまに行ってきますのキスを求められる時はあるが、今日は無いのかなと密かに期待する。
行ってきます!と元気よく言う。
「いってらっしゃい」
そう彼はいつものように言う。
今日は無いようだと思い、彼に背中を向けて、ドアノブに手を握る。
「あ、忘れ物してるよ」
その声に反応して振り向くと、振り向いた3秒後にキスをされた。
いきなりのキスで動揺しつつも、凄く嬉しかった。私は気持ち悪いニヤニヤを隠すのを必死な中、彼は爽やかな笑顔を向けてくれる。
「それじゃあ、いってらっしゃい」
行ってきます!
ドアノブに手をかけて、玄関を開ける。
扉を閉めたの確認し、今日も会社へ向かう。
優しい甘さ 春河りっか @HarukawaRikka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます