骨の髄まで…愛してる
蠱毒 暦
無題 冷たさだけでは人を愛せない
好き。
「ちょっと!危うく遅刻しかけたじゃない。」
「あ、ごめん。今日は寝坊して…」
「どうせ、夜中までゲームしてたんでしょ!?」
「うっ…なら毎日、俺と一緒に登校しなきゃいいんじゃ……」
「そ、それは…間に合ったんだから、今回だけは許してあげるわよ!!」
「!それは良かった。
「…っ!?バカ、バカ!!!」
「痛い痛い…え、俺なんか悪い事言ったか!?」
好き。好き。
「…えっ、これって……」
「…家で作りすぎたから分けてあげる。どうせ購買ばっかで、栄養バランスとか考えないんでしょ?」
「ギクッ…う、じゃあ…有り難く…あむっ。」
「ど…どう?」
「美味い……お前。ちゃんと料理出来るのか。俺は下手くそだから、ちょっと見直したよ。」
「え…私を何だと思ってるの!?」
「だから…羨ましいな。」
「…?」
「こんな料理を毎日食べられるお婿さんがさ。加代は、将来…いいお嫁さんになるよ。」
「…………鈍感。」
「…ん?何か言ったか??」
「はぁ!?なっ、何でもないわよ!!!けど…そんなに美味しかったなら…また作ってあげる。」
「ほ…本当か!?」
「ふ、ふん…気が向いたらね。」
好き。好き。好き。
放課後になり、その帰り道。仲睦まじく手を繋ぎ…他愛ない会話を楽しむ。
———電柱で、屋上で、ここの路地裏の一角で…その様子を、今日も私はただ観察する。
私は…佐藤先輩が好きだ。
身長、体重、背格好、容姿、仕草、性格…などなど骨の髄まで、私の理想の男子像に当てはまっている。
だから先輩の事を考えると、幸せな気持ちになれて…明日も生きようと思える糧になる。
一生、先輩の隣にいたい。けど…私如きが釣り合える筈もない。だからこうして……
「黙って見守り続けるのか。正に、片想いの典型だな君は。」
その声に驚いて振り返ると、そこには占い師の様な格好をした人物が立っていて、私は腰を抜かしてしまった。
「えっと…あなたは。」
「通りすがりだよ。それよりも…佐藤
(その通り。先輩は優しいから、誰であろうと…親しく接してくれる。でもどうしてそれを……)
「訳あって私の素性を明かす事は出来ない。万が一にも『人狼』に嗅ぎつけられても困るからね。だが名前はないと何かと不便か…なら私の事は『悪魔』とでも呼んでくれ。」
「…悪魔。」
「うん。私は君の悪魔だ。君…本当は佐藤 賢治と結ばれたいんだろう?」
(肯定したい。私の先輩に対するこの想いだけは、誰にも負けないって……けど。)
「躊躇する理由が理解出来ないな。自分の事以上に大事なモノはなく、想いなど、一時的なモノに過ぎないのだから。」
「それは…違う。私は先輩の幸せ以上に大事なものなんて……」
「偽善だな。なら質問を変えようか…一度でもいい。佐藤 賢治に群がる女共に対して、嫉妬の心が芽生えた事は?」
「嫉妬…」
「例えば…佐藤 賢治と話が出来て羨ましい。笑顔を間近に見れて羨ましい…手を繋げるのが、羨まし……」
——うるさい。
気づけば、私は耳障りな言葉を喋る口を塞ぐ為に、立ち上がり、その人物の細い首を力一杯、絞め上げていた。
「…ふ……ふ、ふっ…それが、君…の、本心。所詮…人間は、心という、人体には…ない器官を信奉する。醜い…獣なん…だよ。」
「……ぁ。」
激情で我を失っていた私は、その言葉を聞いて我に返り、首を絞めていた手を離した。
「こほっ。んんっ…分かったかい?」
「……分からない。分かりたく…ない。」
人に暴力を振るってしまった。それは駄目な事なのに。
「まぁだ、踏ん切りがつかないのか…なら特別に教えてあげよう。」
「……もういいです。」
もう空が暗くなって来ている。先輩も家に帰ってるだろう。明日の先輩の登校時間に合わせる為にはすぐにでも家に帰らないと。
暗くなった路地裏から踵を返して…家に、
「君が殺したいと願う女共が佐藤 賢治に近づく理由だ。その理由は、君が好きそうな恋愛観といった部類ではない。もっと現実的な…」
———性欲解消や財産目当てだよ。
……
…その日。私は家に帰らなかった。私は、一人暮らしだから、誰も心配しない。
制服のまま…工具店や薬屋で買い物をする。
夜が明けて、先輩が起きる前に…全部終わらせてあげますからね❤︎
……
夜が明けて、私は学校に向かいながら指で数を数える。
「…1匹」
顔が良いだけの虫は、家をノックして呑気に出てきて、無警戒で部屋の中に入れてくれた所で、ガソリンをぶち撒けて…ライターで全身を焼いてやった。
「…2匹」
賢いだけの虫は、塾の帰り道…人気のない夜道で、背後から金槌で頭を砕き、1匹目の家から拝借して来たコップに、グズグズの脳漿を入れて飲ませてあげた。
「……3匹」
大人しく、性格がいいだけの…私と似ている虫は、ノックして顔を出した瞬間、悲鳴を上げる暇も与えずに、一撃で首を鉈で斬り落としてあげた。
「…4匹」
ルックスがいいだけの虫には、電話をかけて公園に呼び出して睡眠薬を盛った菓子を渡し、爆睡したのを確認してから、重しを足につけて近くの貯水池に落として溺死させた。
「…5匹、6匹……ふふっ。」
私の一つ下の無知で仲が良い双子の虫共は、お互いが先輩の事が好きであるという事を教えてあげた上で、巧みに扇動し…先輩を手に入れる為に互い殺し合わせてから、生き残った虫が我に返って絶望する姿を堪能した後、首を締め上げて殺した。
「7匹…ふふ…」
大豪邸に住む1番厄介な金持ちの虫は、時間が掛かりはしたが、黒服の目を掻い潜り…何とか屋敷に侵入。屋敷の部屋割りも、この時間が虫の入浴時間である事も分かっていたから、2匹目の虫から手に入れたノートパソコンを、黒服の隙を突き、入浴を楽しんでいるタイミングで浴槽に投げてやった。
感電してるあの無様な悲鳴は、私のスマホの着信音にしたかったなぁ。
「ま。どうでもいっか。」
これで、先輩にたかる虫は…後2匹。
幼馴染の虫…1番、先輩に近づいていた…あの女。それと……
「ひっ…な、何…あの子……血塗れなんだけど…救急車を呼んだ方が………」
「加代…様子が変だ。下がった方が……」
「あ。もう教室に着いてましたか。随分と早い登校ですね。」
(いつもなら、もっと遅く来るのに……ふふっ。先輩は、優しいんですから。)
2人しかいない教室の中に入った私は、6匹目の家から拝借した拳銃で…先輩に狙いを合わせて、発砲する。
「……っ、バカ…!?」
「うわっ!?」
私の予想通り、先輩を庇い…その弾丸は彼女の心臓を射抜いた。
……
…
「か…加代…加代!!!」
「…………う……うるさいわよ。」
「生きてる!!!誰か、早く応急処置……くそっ…親父に教えて貰えば…」
私の為に泣き崩れてくれるのが嬉しい。
「はは……これ…多分助からない奴だわ。」
「なっ…何言ってるんだよ!?!?いつもみたいに、強気でいてくれよ……お、俺は…むぐ!?」
「…………ふふっ。泣き虫…でも私、アンタの事が好きよ。」
突然のキスで、呆然とするのも可愛らしくて好き。
「…は?こんな状況で、何を…」
「はぁ〜…もう幸せだわ。好きな人に抱きかかえれて…ゲホッ……告白して…キスまでしちゃったんだから。ま、アンタから言って欲しかった…けど。」
満足した。体から力が抜ける事に、心のモヤモヤが晴れていくのが分かる。
「…賢治。」
「……待て、やめろ…やめてくれ……」
「…ぁ。」
ダメだ。「でもこの先、数年は私の事を想って…立ち直らないで欲しい。」なんて…あんな悲しそうな顔を見たらもう言えそうにないや。
「ううん……わたしの、かち…よ。魔理……」
再度、聞こえた発砲音と共に…私の意識は溶けて消えた。
……
入学式初日の上級生とのオリエンテーション。
内気な私に唯一、声をかけてくれたのは幼馴染の…彼女だった。
『ねえ、賢治の事…好きなんでしょ?』
『ええっ!?そ、そんな事は…』
『ずっと隅っこに座って、その視線は賢治に向かってるんだもの…それで、違ったらこっちがびっくりだわ。』
『……でも、佐藤先輩は…いつも加代先輩と一緒にいるから…その…彼女なんですよね?』
『っ!?違っ…くもないないかもだけど…アンタ。名前は?私、
『えっ…
『ふぅん…ねえ、魔理。私とアンタ…どっちが、賢治をオトせるか…競争しない?』
もし…私が彼女だったら……あんな風に行動。出来ただろうか。恐怖に負けて、自分可愛さに、保身に走ってしまったのではないだろうか。
今回こそ、今度こそはと思っていたのに。最初から最後まで…負けっぱなし。『悪魔』の甘言に乗せられてしまった時点で…否。どの道、競争が始まる前から私は既に大敗していた。
「…加代先輩は意地悪なんですから。」
自身の死を覚悟しながらも、恐怖で体が震えている先輩が、彼女の亡骸を強く抱えているのを見ながら、私はナイフを取り出して…自分に向けた。
……最後の1匹。
骨の髄まで先輩が好きだという想いだけが取り柄だったが、嫉妬に狂って好き放題、先輩の好きなモノを壊して、先輩の人生を滅茶苦茶にした、救いようもない害虫。それが……
「佐藤先輩……どうか、お幸せに。」
——私だ。
………
……
…
この出来事は【女子高生連続殺人事件】として、ニュースや新聞で取り上げられ、物議を醸したが次第に時が流れ、風化し…人々はこの出来事を忘れていく。
「『詐欺師』みたいな事を言うのはアレだが、思春期の子供は騙しやすくていいな。見知らぬ他人の…ましてや、真っ赤な嘘を鵜呑みにするとはね。人はやはり、醜い獣でしかない。」
喫茶店で頼んだコーヒーを一口飲んで、入口近くの席から、平穏な街の景色を眺める。
「心に深い傷を残して、生き残った
めでたしめでたし
カランカラン……
「……おっと、これは流石の私も驚いた。とっくに死んだと思ったから、ついナレーションを入れてしまったじゃないか…ふむ。2度も発破をかけてやって正解だったね。」
「四半世紀に渡り、他人の…加代や魔理…
拳銃を突きつけられて、私は微笑んだ。
「うん。もう逃げも隠れもしないよ。さっさと君の役目を果たしな。私は命乞いはしない主義でね。でもさ、こうなっちゃったのは、全部…君の職務怠慢の所為だと思うんだよなぁ。」
「そうだ……俺の所為で皆、死んだ。だから俺はここで…お前を。」
「おやおや手が震えてるよ。人を殺すのは初めてかい?魔理ちゃんの方が初めての癖して、上手く扱えていたよ??」
「……ぅ。」
「『自由人』に選ばれてからずっと、役目を放棄していた臆病な『人狼』…この局面に来ても尚、未だに臆してしまう心優しい性格を持つ、君だからこそ。」
——こうしてまた、史上最悪の『預言者』の私によって足元、掬われるんだよ?
「っ…しまっ!?」
「さてラウンド3だ。そろそろ、直接対決をしようじゃあないか?」
懐に忍ばせていたスイッチを押した瞬間…喫茶店のあちこちに仕掛けられていた複数の爆弾が一斉に起爆した。
『エピローグ』 了
骨の髄まで…愛してる 蠱毒 暦 @yamayama18
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