帰宅部なんで帰ります。

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第外章

特別編

特別編【2.14】:環楓「幼馴染とチョコレゐト」

 二月十四日。

 まあ、ある一点を除いては普通に平日である。そのある一点というのが、つまるところのバレンタインデーだ。

 女子が男子にチョコレートをあげるという、なんともよくわからないイベントだ。一説にはチョコレート会社の売上を上げるための策だとかなんだとか。

 バレンタインの由来はどうやら、兵士の婚姻を禁止としていたローマ帝国の政策に反対して多くの兵士たちを結婚させた結果、処刑されてしまったキリスト教司祭のバレンティヌスのようだ。彼の行動を称え二月十四日を聖バレンタインの日と呼び、祈りをするようになったらしい。

 しかしながら千年以上経った十四世紀には、恋人同士が贈り物を交換するイベントとして定着したそう。

 まあ、そうなった理由に関しては諸説あるから気になったなら調べてほしい。

 別に説明するのが面倒になったわけではない。いや、本当に。

 それに。

「環くん。」

「ん、何?」

 俺はそんなことを言っている場合ではなかったのだ。

 俺は何故か、間――間四麻、一年三組の少女である――に声をかけられた。何だ、俺に何か用か?

「蓮って、今どこかな?」

「教室じゃねえの? 一応課業時間なわけだし。」

「カ行時間…?」

「何だそれ、カ行が含まれる時間か? 五時とか九時とか。」

 いやいや、違うだろ。カ行じゃなくて課業だ。

「ああ、なるほど。」

「間って語彙力あんまないのな……」

 まあ、わからなくても不思議ではない。異能を持っていたとて普通の中学一年生なわけだし。

 それに、誰しも知らない言葉はあるだろう。俺だって最近、放課後の「放課」という部分が授業と授業の間にある休憩時間のことだということを知ったのだから。

 じゃあ放課後って意味通ってなくないか? なんていう疑問を持った、というところより先まで話すと止まらなくなりそうなのでここで止めておく。

「それで、なんでそんなことを――」

 そこまで言ったところで、あることに気づく。

「あれ、それって」

「…!!」

 すごいスピードで手に持っていたものを隠す彼女。まあ、別に隠されてももう見ているから意味はない。

 可愛く包装された小箱。おそらくあれは……。

「チョコレートか。」

「……そうだけど。」

「成程なぁ…」

 そのチョコレート、夜坂に渡す気なのか。

「それで俺に居場所を聞いたと。」

「う、うるさいなぁ……」

 顔を赤らめる少女が好意を向ける相手に、ちょっとした嫉妬心を持ちつつも。俺は間のことを手助けしてやることにした。

 決して好感度アップのためではない。断じて、断じてだ。

「じゃ、二人きりになれるように俺がなんとかしてやるぜ」




 二人きりにさせるにあたって。

 まずは夜坂を一人にさせる必要があった。加えてこれはサプライズであることから、バレンタインを悟らせてはいけないという条件も追加されるわけだ。

 となると、やれることは限られてくる。というよりも、方法が限られると言ったほうが正しい。

「うむ、どうしたら良いものか。」

「いや、私に聞かれても。」

 なんとなくこういったイベントに強そうな鬼血を助っ人として呼んでみた。

「まあ、定石はこうでしょ。」

 まず仕掛け人とターゲットの一対一で他愛もない話をして。

 そこで相手に待たせる用事を作る。たとえば……荷物運ぶの手伝って、とかみたいな?

 そして相手が待ってる間に突撃!!

「なんというか、全体的にぼやっとしてるな。」

「まあね、状況に合わせて臨機応変に対応するのが普通だし。」

「うーん……というか、それ以前に教室にいるやつを出さないといけないしな。」

 どうやって教室から引っ張り出すのか、をまず最初に考えなければ行けないのを忘れていた。

「まあ、一番確実なのは全員に協力してもらうことだけど――」

「それはちょっとやり過ぎ感があるよなぁ…」

 それに、間の心境的にも全員に知られてるのはどうなのかと思う。恥ずいだろ普通に。

「放課後なら皆部活に行ってるはずだし、教室には誰もいないよね。」

「放課後は今まで出てきた案の中で一番定石だしな……というか、それ前提の話だと思ってたな。」

「案外、放課時間に渡す可能性もあるかもよ?」

 お、放課の意味知ってるんだ。

「じゃあ夜坂が教室に残る理由を作らなきゃいけないわけだ。」

 残る理由、か。

「思いつかんな。」

「そうだね。教室にドラゴンでも現れて契約を迫らない限りは……」

「いつの夜坂だよ」

 あいつもう中二病辞めたぞ。

「……」

 ネタ切れである。

 しばらく沈黙が続くなか、口を開いたのはまさかの俺だった。

「残る理由は作れないけど、戻る理由なら作れるわ。」




 戻る理由。

 つまり、部活に行った後、何かしらに気づいて教室に戻って来させるのだ。

「どうやって?」

「こいつを鞄に入れておくんだ。」

 俺が手に持っていたのは「環楓」と書かれたノートであった。

「おお、わっかりやす」

「これは流石に戻って来るだろ」

「でもさ、楓っていつも帰るの早いから明日に回されるんじゃない?」

 大丈夫、そこも対策を練ってある。

「鬼血にさらっと言ってもらうんだ。そうだな……珍しく俺が帰るの遅い、って感じ?」

「おお、なるほどね!」

 どうやら作戦は決まったらしい。

「じゃ、放課後よろしく。」




 教室で待っていると、予定通り夜坂が来た。

「すげえ、本当にいた。」

「お、どうした」

「いや、なんかお前のノート鞄に入ってたから返しに来たんだけど。というか、なんで珍しくこんな時間まで残ってんだよ。お前いつも爆速で帰るだろ。」

 さて、どう返答したものか。うむ……お、そうだ。思いついた。

「丁度ノート探してたんだよ。夜坂の鞄にはいってたのか。」

「ああ、なるほどな。」

 なんとか上手いこと誤魔化し、俺は机を立った。そういや、このままじゃ夜坂が部室に戻っちゃうな……。

「夜坂ー」

「何だ、楓?」

「金切がお前に言いたいことあるらしいから、教室で待っといてくれ。」

 嘘である。

 まあ、流石に夜坂もチョコを渡されればサプライズだと気づくだろう。

「んじゃ、おつかれ。」

「おつー」

 俺は教室の扉をでて、廊下に身を隠す。

 そして教室前で待機する間にコ゚ーサインを出した。

「行って来い」

「……ありがと」

 間は教室に入っていった。

「四麻じゃん、どうした?」

「あ、あのさ……」

 間のその言葉は、どこか緊張した声色で発声された。

「楓」

「鬼血、おかえり」

 廊下で会話しているが小声で喋っているため、教室に響くのは二人の声だけである。

「四麻ちゃん、どう?」

「今始まったとこ」

 ギャラリーのような、恋心をコンテンツとして消費しているようで非常に心苦しい言い方だ。ただ、俺たちは彼女を応援したい気持ちしかない。

「もうすぐ二年生、だよね。」

「ああ、まあ二月だしな……中学だと入試休みとか試験とかあると思ってたから、何かあんまり実感ないけど」

 夜坂は夜坂でバレンタインであることを察したりしないのだろうか。してくれないほうが間にとって都合がいいと思うので、今はありがたいのだけど。

「この一年、大変だったね。色々あったしさ。」

「まあな……俺のせい、ってとこもあるしな。」

「あははっ、そうだね。」

 間は笑いながら続ける。

「でもさ、夜坂に助けられたこともあったよ。」

「んなことあったっけか」

「あったよ。」

 少し強い口調だった。

「それは何も、今年に限った話じゃないよ。小学生の頃さ、覚えてるかな。私がジャングルジムから落ちちゃった時あったじゃん。」

「あー、あったな。二年生のときだっけ。」

「そうそう。その時蓮さ、飛び込んでまで私助けようとして……逆に怪我してたよね」

「あの時は今までにないやばいサイズの擦り傷できたな。」

 どのくらいの傷なのかちょっと気になるな。

「でもあれさ、普通私たちあの程度の怪我ですまないじゃん。でもああいう結果になったのは――多分、『中二病』の影響なんじゃないかな?」

「そうか? 俺は普通に運が良かっただけだと思うけどな。『中二病』発現したのって四年のときだし。」

「そのときにも欠片があったんだよ、『中二病』の。」

 確かに異能というのは本来、人の中に眠っている力である。

「私はずっと、あんたに助けられてきたんだ。」

 少女が、それを取り出す音が聞こえた。

「だからこれ、お礼として。」

「ん、なにこれ。」

「チョコレート。」

 夜坂はようやく気付いたようで、四麻に対して言った。

「ああ、バレンタインデーか! 今日……え、これ義理!? それとも……」

「ばーか、教えるわけないでしょ。」




「成功したな。」

「ね。」

 やり遂げたように下駄箱に行く俺と鬼血。

 冬にしては珍しく綺麗に夕焼けが見えるな、と思いつつ靴を履き替えてるときだった。

「あ、そうだこれ。」

「え」

 鬼血の手にはチョコレートがあった。

「料理下手くそだから市販だけど。」

「鬼血も誰かに渡すのか…?」

「何言ってんの? 楓にだよ。」

「ま、まじか……」

 初めてだ。女子からチョコもらうの。

「ちなみに……義理? 本命?」

「渡した本人に聞くのはマナー違反だと思うな。」

 その通り過ぎる。どうやら驚きでまともに脳が回ってないらしい。

「でも、鈍感な楓には特別にヒントだけはあげよっかな。」


――他人にチョコあげるのは今日が初めてだよ。


 月が昇りつつあった。きっと、彼女を照らすために。

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