全属性の魔法を使える俺、神童だと思われていましたが実は全属性の魔法が微妙に弱いです。

ハンノーナシ/たいよね

入学の時


「この子はきっと、世紀の大魔道士になるわ……でしょう?」


 いつから言われただろうか、母親の期待の言葉。

 王都の中の、特産品は俺の苦手なトマトという微妙に辺ぴな村で生まれた俺は、類まれなる才能を誇っていた。

 それは……全ての属性の初級魔法を扱える才能を持っていた事。


 生まれて間もないと言うのに、検査を受けた結果圧倒的な魔力保有量を持つと言われた。

 その時までの俺は、凄く全能感に満ち溢れていた。

 村の中では子分さえ引き連れ、子供達の中だけの魔法大会では全戦全勝。


 この力が神に与えられた力だと、信じて疑わなかった。

 だけど、その幻想が壊れたのは15の時。

 早ければ中級魔法を扱える位の年頃。

 「俺なら楽勝だろう」と高を括っていた。


 そして判明したんだ、俺にはこれ以上魔法を極められない可能性が高いと。

 その時の失望、実の母親からの非難、父親からの怒り。

 幼馴染からは全属性扱えるだけで十分凄い、と言われていたが。


 その時から、恵まれていたはずの人生から転落した俺はずっと家に引きこもっていた。

 俺に残されたのは9つの初級魔術だけ。


 火傷するだけの炎。

 勢いが強いだけの水。

 冷気を感じるだけの氷。

 物がなびくだけの風。

 感電するだけの雷。

 少し操れるだけの土。

 珍しくはあるが小さな光。

 珍しいだけの影の様な闇。


 母親もあの時の事を反省してか、優しくはしてくれているが……あの時のトラウマが染み付いて、今では顔を見て話す事さえ出来やしない。

 唯一話せるのは……時たま、幼馴染のアイツが家に来るんだ。


「お〜い、しょげのアラン〜!」


「誰がしょげのアランだ! ただでさえ心に傷を負っている奴に塩を塗るな!」


「ごめん……マジで怒るとは思ってなかったから……今、家上がっていい? アランのお母さん、今居ないでしょ?」


 コイツはネア。

 「殴打式魔術」とかいうトンチキな宗派をやってる爺さんの孫娘。

 綺麗な赤髪、男勝りな性格、とてつもない腕力、そぐわない女の子らしい体型……色々困る奴である。

 腐れ縁の関係で、何十年も前から一緒に過ごしている。

 最初の出会いは村内の魔術大会で、俺に負けてから。


「相変わらずしょげた顔してるね……昔の元気なアランが懐かしいよ〜」


「自信を失った奴に言うセリフが気遣いの前にそれかよ! ノンデリ野郎がよぉ……」


「野郎じゃなくて可憐な乙女でしょ!まぁ、いっか! アランがちょっとは話せる元気があったらそれで良いよ!」


 ネアは勢いよく笑うと、俺の肩を優しく叩く。

 コイツは優しいんだが、何と言うかノリが結構日差しの元に生まれた人間である。

 俺は日差しから影に逃げた人間なので、その光はかなり辛い物がある。


「そうだ! ポストに何か入ってたよ!」


「勝手に人様の家のポストを漁るな」


 ネアに手渡された手紙を見ると、綺麗な紙と丁寧な梱包がされている。

 とても良い所育ちの人か、気遣いが出来る人の所から送られた感をひしひしと感じ取る。


「ボクの所にも来てたんだよ、コレ!」


「村内に配られる手紙か何かか……?」


 恐る恐る高価そうな封を破り、手紙を取り出す。

 手触りの良い紙には、かなりの長さの文章が綴られていた。


「背景、アラン・ケイン様へ。

アラン様のお噂はかねがね聞いております。

全属性の魔法を扱えるその才能に我々マーヴェ魔法学園は興味を持っております。

アラン様をマーヴェ魔法学園の生徒として招待させて頂きます。

勿論、貴方様が苦労なさっている事実も把握しております。

ですが、マーヴェ魔法学園の優秀な教師達ならアラン様の秘めたる才能を開花させられる事を信じて疑っておりません。

アラン様の判断次第ではありますが、快い返事を聞かせてくれる事を本校一同お待ちしております」


 マーヴェ魔法学園。

 ずっと引きこもっていたい俺でも、流石に聞いた事がある。

 子供の頃、親がよく言っていた。

 「この子はマーヴェ魔法学園にも行けるだろう」と。

 その夢が図らずも叶ってしまったのだろうか。


「見て! アラン! ボク、マーヴェ魔法学園に招待されちゃった!」


「俺もだよ……はぁ」


「何で溜め息?! すっごい立派な事なんだよ、コレ! ボク、お爺ちゃんの殴打式魔術、信じてて良かった〜!」


 正直、俺がマーヴェ魔法学園に行った所で、更にプライドを捩じ伏せられて太陽神様に顔向け出来なくなるのがオチである。

 文面からは俺の事を案じてくれているのかはわからないが、圧倒的な自信を持っている事は明らかそうである。


「ねぇ、アラン! 一緒に行こうよ!」


「俺? 俺は……やめと」


「聞こえなかった!!!」


 ネアのお得意技、俺が求める答えを言うまで声のデカさで潰してくる必殺奥義。

 こうなった以上、俺は「はい」の選択肢しか選べなくなってしまった。


「だ〜っ! わかったわかったわかったよ! 行けばいいんだろ、行けば!」


「ふふん、ボクの憧れるアランならそう言ってくれると思ってたよ! ほら、一緒にマーヴェ魔法学園まで馬車で行こ!」


「はいはい……わかりましたよ……」


 ネアに振り回されながら、俺は久しぶりの家の外へと歩いていく。

 日差しが酷く目を刺激する。

 村の馬車の繋ぎ場まで歩いて行くことになった。

 きっと明日は、これだけで筋肉痛だろう。

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全属性の魔法を使える俺、神童だと思われていましたが実は全属性の魔法が微妙に弱いです。 ハンノーナシ/たいよね @taiyonekun

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