第12話:氷と葉の交流(3/3)

 大五郎さんとナヌークさんが最初の相互訪問を実現してから数週間が経った。


 この日、ナヌークさんとヘラードさんが再び「ダンジョン・マイッカ」を訪れた。

 アイス・ウィスパーでの自然の力の活用法をダンジョン・マイッカにも構築するためである。


 氷狼ヘラードはすでにダンジョン・マイッカの住民たちと顔見知りだったが、ナヌークさんが改めてヘラードの能力について説明した。


「ヘラードは我々のダンジョンの守護者ですね。ダンジョンの要であり、最上級の氷結魔法の使い手でもあります。氷の壁を瞬時に作り出し、冷気で空気を浄化する。氷の結晶を通じて情報を共有することもできる。さらにダンジョンの環境調整能力が秀でているのです」


 この説明を聞いて、ゴブリンや妖精たちは再びヘラードに興味を示し、彼の周りで活発に話し始めた。


 そしてダンジョン・マイッカが温泉を取り入れる実験と、アイス・ウィスパーがダンジョン内で農法を始めるための勉強会を同時並行で進めた。


 ナヌークさんはアイス・ウィスパーでの温泉の維持方法を説明しながら、ダンジョン・マイッカに温泉を作るための手順を進めていく。


「ダンジョン内の温泉では、地熱を利用するのです。氷の魔法で熱量をコントロールし、地下水を適度に温めて自然の温泉を再現しています。氷結魔法を使って動的に温度調整するのがポイントとなります」


 フィリウスさんが指揮をとり、納屋の裏手に温泉を作る準備が始まった。

 ファンタジーさんたちが動き回り地均しと縄張りをする。大きめの露天風呂をひとつと、屋内用の風呂をひとつ作ることにした。


 ナヌークさんとヘラードさんは、ダンジョンコアの力を使って地下水を引き上げながら氷の魔法で適温まで冷却、温泉水を作り出す手助けをする。いったん構築出来た魔法は、すぐに魔方陣に刻んで地下に展開させていった。

 この地に最適化された魔法陣がコアのエネルギーによって常時稼働し続けるのだ。


「ダンジョンコアの力を使うことで温泉の水質も自然のものに近づけることができるのです。自然の恵み、特に治癒効果を最大限に引き出せることが最大の特徴ですね」


 と、ナヌークさんが説明した。


 一方、大五郎さんはアイス・ウィスパー向けの農法について思ったことを話した。ダンジョン・マイッカで成功している自然とダンジョンとの共存型農法がアイス・ウィスパーにも適用できるんじゃないかと感じていたからだ。


「俺はダンジョンコアのエネルギー使って地表の植物を育てとるんや。光の粒子とか土壌改良、水の循環をダンジョンの力でコントロールすんねん。寒いとこでもこれ使えば、めっちゃええ収穫得られるはずやで。フィリウスちゃんの説明によるとダンジョンパワーを畑に使うとるんはうちんとこだけやそうや」


 ナヌークさんはこの話を聞いて、即座にアイス・ウィスパーでの農業導入を決意した。使っていない階層で畑が運用できれば、エネルギーを消費して暴走を回避できるし食糧事情も改善できるのだ。


「我々のダンジョンでは、極寒の気候が農業を難しくしているが、大五郎さんの方法ならばそれを克服できるかもしれない」


 思い立ったが吉日である。

 ナヌークさんと共にフィリウスさんやゴブリンたちがアイス・ウィスパーに向かった。

 ダンジョン「アイス・ウィスパー」では、大五郎さんが派遣したワイズゴブリンたちが小さな実験農場を一気に作り終えた。ヘラードの氷の魔法で温度を管理し、ダンジョンコアからエネルギーを引き出して畑に力を与え、種を植えて成長を促進する。


「お家芸の氷の魔法を使って、微妙な温度調整を行い、植物が生きられる環境を作る。これで、我々も自給自足の生活を一歩進めることができる」と、ナヌークさんが喜んだ。


 この実験は成功した。

 アイス・ウィスパーで初めての作物が芽吹き、氷の魔法とダンジョンのエネルギーが融合した新しい農法が実を結び始めた。


「これ、ただのダンジョン同士の交流やないで。自然守って、活かす方法を一緒に探した結果や」


 と、大五郎さんが感慨深げに言った。


「自然の力が結びつくことで、我々はもっと強く、豊かになれる。『イエロハ』はその象徴だ」


 ナヌークさんもまた同意して笑みを浮かべた。

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ダンジョン・マイッカ 出海マーチ @muku-ann

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