この世で一番美しい景色を。
星乃かなた
破滅の願い
私は花の女子高生。学校には仲良しの友だちがいる。同級生の彼氏だっている。
優しい家族がいて、可愛い飼い犬もいて。
生活は一定水準以上。あったかいお風呂と美味しいごはん、それから夜は心地良い布団の中で眠りに着く。自分でも恵まれている自覚はある。それなのに。
「なんで夜の町を照らすネオンライトは、あんなにも薄汚く見えちゃうんだろう」
私の心はいつも満たされない。常に漠然とした渇きに苛まれている。展望スポットから見える景色も、画面越しの絶景もこの渇きを満たしてはくれない。「贅沢だね」って、言われても仕方が無い。それでも私は、いつでもこんな風に願っている。
「この世で一番、美しい景色が見てみたい」
ある日、友だちからこんな話を聞いた。「この学校の近くになんでも願いを叶えてくれる祠があるんだって」馬鹿みたいな都市伝説だよね。思い出したら笑っちゃう。なのに、そのはずなのに。放課後のチャイムを聞き流した私の足は、気付いたらその祠の目の前に立っていた。
「ここでお願い事をすれば、叶えてくれるんだよね」
荒唐無稽な話だとは思う。それでもこの心の中にある得体のしれない何かを埋めてくれるなら。だったら、試してみる価値はある。ダメで元々、手を合わせて祈る。心の中で願い事を呟く。
「世界で一番美しい景色を見せてください」
数分間だったと思う。目を閉じ、両手を合わせた状態で頭を下げ続けた。それからはっと我に返ったような感覚があって、私は目を開ける。
「なーんて、何にも変わるはずなんてないのにね」
自分が可笑しくなって、そのまま自宅へと歩を進めた。むしろ、こんなことでなにかがおこってしまったら困る。明日もきっと、何も変わらない一日が始まって、終わるのだろう。そう思っていた。それが起きるまでは。
翌日、学校の体育館は避難所になっていた。起きたのは未曽有の大災害。朝方に起きたとんでもなく大きな地震が、私が住んでいる町を一瞬にしてがれきの山へと変えてしまったのだ。
学校で被災した私は、制服姿のまま夜を迎えた。大したケガもなく、身体は無事だった。私自身は。
「お母さん、お父さん、リン、どこ……?」
冷たい体育館の床の上、持参していたタオルケットに身を包み、小さくこぼす。家族の行方は知れない。一緒に学校で被災した彼氏は「絶対に無事だよ」と言っていたけど、その根拠はどこにもない。優しい彼は、私を安心させたくて身もふたもないことを言っていただけだろう。
——うぅ、ううっ……
——おかあさあぁぁん!!
——大丈夫、きっと大丈夫
わずかな非常用の明かりしかない体育館の中、同じように被災した人たちの声がひしめく。
「こんな景色が、見たかったわけじゃない」
昨日のことがふと頭をよぎる。
「私があの祠に祈ったから?」
そんな考えが芽生えて、自分自身をいやおうなしに責め立てる。友だちの話では、あの祠は本当にその人が願っていることを叶えてくれるという。
「だとすれば、私は心の奥底で、こんな風になることを望んでいたってこと?」
こわい、こわいこわいこわい……私は私自身が恐ろしくなって、震えが止まらなくなる。 叫び出したくなる衝動に襲われて、もう我慢ができなくなる——その一歩手前だった。
「花梨!」
なじみ深い温もりと、優しい声が私を包んだ。
「お母さん……?」
「ええ、お母さんよ。お父さんも、リンも無事」
指された方を見ると、ほこり塗れの父と、無邪気に舌を出す飼い犬のリンがこちらを見ていた。
「ど、どうして、ここが分かったの……?」
「幸人くんが私たちを見つけてくれたのよ」
暗がりに目を凝らせば、私の彼氏も駆けつけていた。
「幸人……」
「いっただろ、絶対大丈夫だって」
私の彼氏……幸人はそう言って笑顔を作ってくれた。私がふるえてうずくまっている間に彼は私の家族を探してくれていたらしい。
「みんな……」
私は自分のふがいなさと、みんなと無事に再会できた安心感でめそめそと泣いた。それを見たみんなも涙を浮かべて再会を喜んだ。
ひとしきりの時間が過ぎると、お父さんが言った。
「花梨に見せたいものがあるんだ」
お父さんはそう言って、私を体育館の外に連れ出した。はぐれないよう、みんな一緒に。
「見てごらん」
指さされた場所は、空だった。
「はぁ……」
驚嘆と呆れ、感動と可笑しみがない混ぜになり、ため息が漏れる。
明かりの無い街の夜空に、満天の星空が広がっていた。
生まれてこのかた見たこともないような、この世で一番、美しい景色だった。
了
この世で一番美しい景色を。 星乃かなた @anima369
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