第24話 旅出

 最後の朝食も終え、村の北門に家族と共に向かう。とそこには村のみんなが待っていた。お婆ちゃんシスターのエルダさん、お調子者のハンクさん、ミクさんにロウ爺、模擬戦の相手をしてくれた幼馴染のグロウ……関わりのある村人たちが全員集合していた。


 周りを見回しているとロウ爺が一歩前に出てきて俺に何かを差し出して来た。


「これは選別じゃ」


「こ、これは…」


 それは俺が普段使っている〈鉄の剣〉の長さとほぼ同じ長さの銅色に輝いている一振りの剣だった。


「そんなに大したものでもない。〈ブロンズソード〉じゃ。アレン坊はこういうの好きじゃろう?」


 〈ブロンズソード〉……ゲームだったらブロンズゴーレムから出る確率ドロップアイテムとその他アイテムを魔法の鍛治台に入れてリズム良く叩けば出来る武器だ。最初の攻撃力は鉄の剣と大差ないが、シルバーゴーレムのドロップアイテムと〈ブロンズソード〉を魔法の鍛治台に入れて叩けば〈シルバーソード〉になるのだ。当然その先も……


「ありがとうロウ爺!大切にするよ!」


「ほっほっほ」


 ロウ爺が下がると入れ替わるように一つ下の幼馴染が前に出てくる。


「アレン」


「グロウ!」


 少し長めの銀色の髪に銀色の瞳、最近付け始めた眼鏡と彼のクールな表情の相乗効果でとても知的に見える少年だ。俺が6歳の時から模擬戦に付き合ってくれている。本の虫だからか実年齢よりもかなり達観した性格をしている気がする。


「グロウがいなかったらここまで楽しく鍛錬出来なかった、ありがとう。———」


 俺は娯楽冒険を楽しむために毎日鍛錬をしていた。RPGの世界に転生したくて転生したのに冒険をしないなどあり得ないだろう。だから鍛錬に飽きるという事はなかったし娯楽が少ないので他の事に目移りするなどという事もなかった。


「——それと、友達になってくれてありがとう。本当に嬉しかったよ。


 俺は前世の年齢も含めたら20代後半。齢9才の子どもと友達なんておかしいと前世の人なら思うかも知れないが、この世界にはエルフや精霊がいるのだ友達に年齢なんて関係ないと思う。


 前世ではゲームを第一に考えていたので学校で親密な友人などはいなかった。それでいいと思っていたし別に無理に友人を作る必要も無いしそれでよかったのかも知れない。でも異世界で友達ができてこの世界特有の考え方などを知ることができた。何が言いたいのかというと人との繋がりは大切だと言うことだ。


「ああ、僕も嬉しかった……模擬戦、次は勝つぞ」


 若干照れながら自分の心情を吐露したかと思えば急に模擬戦の話をし出す。数瞬呆気に取られたが、最後にした模擬戦は俺の勝ちだった事を思い出した。


「いいや、次も負けないよ」


 そう俺が言うと微笑しながら肩を竦めて下がる。そう言えばある時を境に彼が気持ちマザコン気質になったのは何が原因なんだろう……。まぁ原因も何も無いか。


 最後に家族の方に振り向く。


「ここまで育ててくれてありがとう。お母さん、お父さん。」


「ええ…」


「ああ」


お父さんもお母さんもどこと無く寂しそうだ。


「数年後には一度戻ってくると思うから、すぐに会えるよ。」


「……どこに向かうつもりだ?」


「ここから北にある都市、ヴァースに向かうよ。」


 アストリア王国には三大公爵家という莫大な領地を持った貴族がいる。それぞれダルヴァン、グラヴィア、エヴェリスという。

 ア、イ、エだな。ダルヴァンが一番領土が広くエヴェリスが狭い。まぁ狭いと言ってもめちゃくちゃ広いが…


 なぜこんな話をしたのかというと、ここがダルヴァン公爵家の領地らしいからだ。お婆ちゃんシスターのエルダさんが勉強を教えてくれた成果だ。大体の地名などはわかっているはずだ。


「…なら馬がいるな。」


「え?」


 馬?馬なんていないけど……


 当然馬を買おうかなと思ったけど30万ゴルで速そうな馬は買えなかったので諦めた。この世界では馬が一番効率のいい移動手段なので買うとなると目が飛び出る値段になるのだ。だから徒歩で向かうつもりだ。


「少し待っていろ。」


 そんなことを言ってお父さんがどこかにいく。数分後、連れてきたのは大人が乗るには少し小さい一頭の黒馬だった。


「この子は?」


「……チェイスの子供だ。」


 チェイス……当然知っている、父の馬の名前だ。5年前は知らなかったけど黒一色の馬は特に高い。


「え、チェイスって子供いたの!?」


「ああ、驚かすために内緒にしていた。少し気性は荒いが、アレンなら乗りこなせるだろう。3才の牝馬だ。」


「……いいの?」


「ああ。アレンのために育てていた。」


「君も、俺についてきてくれる?」


 お父さんがいいと言ってもやっぱり馬の気持ちが大切だ。馬は賢いらしいし人間の言葉もわかってるかもしれない。この子が嫌なら無理強いするわけにはいかない。ちなみに従魔には契約らしい契約は無いっぽい。


 その黒馬は俺の頭の匂いや、手の匂いをすんすんと嗅ぎ、数瞬後こちらに頭を押しつけてくる。


「お、おお……ありがとう……」


 まだ従魔ではないが言いたいことはわかる。「一緒に行くよ!」と行動で示してくれている。動物に好かれるのはとても嬉しい事だと転生していなかったら知ることはなかったかもしれない。


「……驚いたな……お父さんには全くなつかなかったのに。」


「そうなんだ……この子の名前はなんていうの?」


「もともとアレンにあげるつもりだったんだ。つけていない。アレンがつけなさい。」


 名前が無かったのか…それが懐かれない原因だったのでは?と内心思ったが真相はわからない。


 マシロは名前をつける前はマップに表示されるアイコンは動物だったが、今は従魔になっている。見習い魔物使いのことはまだよくわかっていないが、名前をつけたら十中八九従魔になるだろう。だが、俺は従魔になってからレベルが生まれて進化が解禁されると予想している。契約内容のようなものもないし従魔になって損はない……はずだ。


 よし、決めたぞこの子の名前は—


「セレンだ。」


 セレン、名前の由来はセレンディバイト。前世の黒い宝石の名前だ。セレンの綺麗な黒い毛並みと佇まいから脳の奥底にあったその宝石の名前が出てきた。


 俺は前世子供の頃、子供らしく虫図鑑、魚図鑑、恐竜図鑑どれも好きでよく眺めていた。だがそれよりも好きなものがあった。それは宝石図鑑だ。どのページも光って見えた。思えば子供の頃からやり込み勢の兆しがあるな……図鑑好きすぎだろう。


 宝石図鑑を見ていて名前も宝石も綺麗で妙に頭に残っていた。それがセレンディバイトだ。


「どうだ?気に入ったか?」


「ぶるる」


 名前をつけたことにより案の定従魔になり、気持ちがなんとなくわかるようになった。喜んでくれているみたいだ。


「お父さんありがとう!大切にするよ。」


「ああ…」


 お父さんは普段無口だ。お酒が入った時はかなり饒舌になるけど…普段は無口なのだ。そして表情もあまり崩れない。が、今は嬉しそうな、それでいて寂しそうな、そんな表情をしている。


 父は無口で酒が入るとちょっとめんどくさいけど頼もしい自慢の父だ。母は優しいけど厳しい時は厳しい最高の母で、弟は無邪気で素直な元気っ子一緒にいると元気が出る太陽のような弟。


 早く行かないと泣いてしまいそうだ。


「それじゃあもう行くよ。」


「そうか…アレンは戦いの才能がある。あまり心配はしていないが…事件などには巻き込まれるなよ。」


「うん。危なそうな人には近づかないよ。」


「体調に気をつけてね。病が一番恐ろしいのよ」


「気をつけるよ。お母さん。お母さんも気をつけて」


「にいちゃん!お土産よろしくね!暗黒竜の角とか!」


「……え、暗黒竜の角?」


 暗黒竜……ゲーム時代にはいなかったしこの世界にいるのかもわからない。最も有名な英雄譚の絵本に出てくる竜だけど個人的にはその英雄譚は創作で暗黒竜なんていない気がす——


「よろしくね!」


「あ、ああ。もちろん!お兄ちゃんに任せなさい」


 あまりの勢いに了承してしまったけどどうしよう……。もっとすごい物をあげるしか無いな。


 それにしてもアロンだけ旅が終わった後の心配をしている。なんと言うかすごい弟だ。


「それじゃあ行ってくるよ!みんなお土産楽しみにしてて!」


 村のみんなの方を向き、みんなの顔を目に収める。満足し、セレンに許可を取り跨る。ヴァースへと続く道を見る。


「アレン頑張れよ〜」


「また一緒に恋愛鑑賞しようね〜!」


「次は絶対マシロをもふもふするんだから!」


「元気で」


 これから冒険が始まると言うのに気持ち的にはクライマックスだ。


「行ってきます。」


『行ってらっしゃい。』


 北に向かって走り出す。思えば父が乗馬の仕方を教えてくれたのはこの時のためだったのかもしれない……。


 もうみんなが見えなくなるほど道を進んだ。


 そこで一際大きな風が吹く。


「絶好の旅日和だ。」


 風も祝福してくれている。



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 後書き

 間話と小数点の話を読まなくても伝わるようにしているので既に説明している内容があります。

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アレンのキセキ〜ゲームに似た世界で〜 SR @SR-himazin

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