薔薇作品のパイオニア三野幸子

たたみや

第1話

「ついに、私の作品をコミケに出す時が来た!」

 私、三野幸子みのさちこは薔薇色の作品、すなわちBL漫画家として活動している。

 普段はみんなから古文の先生ですかってバカにされているけど、それはかりそめの姿。

 かの伊藤文學いとうぶんがく大先生から薫陶くんとうを受けし者なのよ。

「あのー、静かにしてもらえますか?」

 隣の方から女性漫画家が出て、生意気にも私を注意してくる。

 ちょっとブースを見てみると、線の細い男の子のBL本を出しているようだ。

「それにおたくの作品、何ですかこれ? トレンドから外れまくってるじゃないですか?」

「あなたに何が分かって?」

「確かに分からないですね、何かテーマでもあるんですか?」

 生意気ながら、私の作品に興味を示してくれたのは褒めてあげよう。


「ズバリ、平昌オリンピックよ!」

「ってことは羽生選手と宇野選手のBL本ですか?」

「ちがーう!!」

「へえっ?」

「平昌オリンピックと言えば金正恩キム・ジョンウン×文在寅ムン・ジェインでしょうがああっ! 二人が抱擁している写真見たことあるでしょ?」

 相手の女性漫画家は少々教養が不足しているようね。

「当然金正恩がタチ! 文在寅がネコ!」

「あれのどこに需要があるって言うんですか? 絵面にも問題があるし……」

「BLってのはねえ、絵面が汚くてなんぼなのよ!」

 私は心からの主張を言葉にした。

 汚いものの中にこそ本当の尊さが隠れている。

 私はそこに真実を見出そうとしている。

 若い奴らには分からんでしょうねぇ。

「汚いおっさんが交わるのなんて何一つ萌えないじゃないですか……」

「それで若い線の細い子にとろける表情、とろけるチーズってかあ?」

「言いたいことが全く分かりません……」

「それで若い線の細い子にアヘる表情、アヘるチーズってかあ?」

「何なんですかアヘるチーズって……」

 相手の女性漫画家気に入らないのかつっかかってきた。

 何となくお互いの好みが合っていないことだけは分かる。


「じゃああなたはどんなシチュエーションだったらいいんですか?」

「そうねえ、ホームレス同士の交流なんかもいいわね」

「ホームレス?」

「汚い、臭い、貧乏といった強烈な要素を身にまとったジジイたちの交わりは深いわよ」

「想像するだけでドン引きなんですが」

「はじめはホームレスって底辺みたいな扱いだけど、中から強いホームレスが這い上がって虎になるのよ!」

「それだと誰かを想起してしまうんですが……」

「そして強いホームレスはBLの虎として独立して倉庫性活館を興すのよ」

「完全に誰かさんのこと言ってますよね……」

 そうして相手の女性漫画家は自分のブースに戻ってしまった。

 そして、しばらく経って結果がはっきりとした。

 隣の女性漫画家は無事マンガを完売させ、対する私は売れ残ってしまった。

 私は勝負に勝って、結果に負けてしまった。

 でも私はこんなことで諦めはしない。

 本物のBLは汚い世界にこそ存在するものなのだから!

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薔薇作品のパイオニア三野幸子 たたみや @tatamiya77

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