第11話

 カーテンの隙間から入り込む日差しが瞼の裏まで伸びてくる。

 僕は無理やり世界に起こされる感覚で、上半身を起き上がらせる。

 起き上がると頭がズキズキと痛むことに気がついた。嫌な痛みだったが、この痛みが昨日のことは夢ではなく、紛れもない現実であることを教えてくれる気がした。

 全くひどいものだ。


 頭痛もひどいが、匂いもひどかった。

 そりゃそうだ。昨日、軽い熱中症になるほどに歩き回って、家に帰ってきても風呂にも入らずすぐに寝てしまったのだから。

 この鼻にくる臭いをまずはどうにかしたい。

 色々考えたくないことが多かったけれど、とりあえず風呂でシャワーを浴びなければと、ベッドから起き上がって、1階のリビングに降りる。

 日が差すおかげで、人はいないながらも寂しさは昨日の夜よりだいぶマシだった。

 テーブルの上には一万円札が置いてあった。なんでこんなものが置いてあるのだろうと、僕はその前で一瞬フリーズしてしまう。

 ……あぁ、今日の飯代か。

 まぁそんなことはどうでもよかった。

 とりあえずシャワーを浴びるために僕は洗面所へと出向く。

 

 冷たいシャワーに当てられて、思わず体が震える。ズキズキする頭痛が少し和らぐ気がした。本当に気がしただけだったけど、ただ心地はよかった。

「僕は一体、どうすればいいんだろ」

 そんなことが口が零れる。

 シオ、ヒロ、ユウキ、ミオ、サオリ。

 彼ら彼女らが今も幸せにやっているのだとしたら、それでよかった。でももし彼らが幸せとは言えない境遇にいたら、僕と再び会ったことで不幸になってしまったら。

 そんな想像がおこがましいことは自分でもよくわかっている。でも死んだ人間が再び現れたら、どんなことになるのか、僕は今一度考えなければいけない。


 こんな気持ちじゃ会いに行くなんてことは無理だな。まぁそもそも彼らが今どこにいるのか、そんなことすらわからない。海外にいたりしたら、いよいよ僕は会うことができない。

 いや、それならそれでいいのか……。


 シャワーを浴び終えて、僕は着替える。

 テーブルの上に置いてあった一万円札を財布に入れて、僕は財布以外何も持たず家を出る。

 とりあえず、どこか家じゃないところに、外に出たかった。

 目的もなく外に出るのは久々だった。

 いつも何かしらに追われて外に出ている気がする。いや、今もきっと考えたくないことから追われている逃避なんだろうから、目的はあるんだろうか。

 駅前の商店街に行く。土曜日だからか人は多い。家族連れなんかは特に多くて、仲睦まじい姿が視界の端から端へと流れていく。そんなところに1人でいる僕はみんなの目には虚しいやつに映ってるんだろうか。それならそうで嬉しかった。僕は生きてるんだから。


 何も買うつもりもなかったけれど、服屋や本屋で時間を潰す。なんのための時間潰しなのかもわからないけど。

 服屋ではすでに秋服が少しずつ出されていて、値下げされた状態で並べられている。当たり前に秋が来るんだから当たり前だ。それにしても気が早い気がする。もう少しこの夏を味わっても良いんじゃないか。晩夏の気分になる。

 本屋には流行りの本が面でずらりと並べられている。帯には「SNSで話題沸騰!」だったり、「インフルエンサー〇〇さん推薦!」だったり、昔にはあまりなかった宣伝文句が並べられている。昔流行ったケータイ小説に売り方が似ていた。時代は巡るってことなのか?変わらないってことなのかもしれない。

 一般文芸のところには、僕がシオたちと出た当時に読んだ本が置いてあった。『星になる愛』。そういえばドラマになるだとかいう話を聞いた。その影響かカバーは映画のビジュアルの特別装丁になっている。個人的にはこれがあまり好きではなかったけれど、中身に違いはないから文句も言うこともなかった。


 これ、面白かったな。僕らは恋愛小説している小説をあまり読まなかったのだけれど、ミオに薦められて読んだんだ。仲間外れになるのが嫌でユウキも「俺も読む!」って言って、読み終わった後は4人で感想言い合ったっけ。

 青年と寿命2年の彼女との恋愛の話だった。青年は残り少ない2年という時間を噛み締めるように過ごすけれど、ある日事故にあって青年の方が先に死んでしまう。彼女はそれを追うように治療も中止して、最後彼と過ごした部屋で、病気のために命を落とすという話だった。

 僕は泣きはしなかったけれど、シオは泣いていて、その涙で僕も泣きそうになった。

 

 久しぶりに読もうか。僕は手に取ってレジに向かう。本屋に来ると何かしら買ってしまうのをどうにかしたほうがいい。積読本が増え過ぎてしょうがないのにね。ただ本は財産だからね。いくらあってもいいものだ、と前世の頃からこれは変わらないまま、自分に言い訳がましく言い聞かせる。

 結局レジに行くまでの間に本をもう2冊ほど手に取っていた。

 小説は逃避だと思う。現実に疲れたとき、僕らはあの場所に逃げられるんだ。今の僕には特にそれが必要だった。

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生まれ変わった僕の与太話 久火天十真 @juma_kukaten

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