第二章新たな動き
ティアナが女王に即位してから数か月が経過した。エストラード王国は戦後の復興を進める中で、国内の安定を保つために各地で改革を進めていた。だが隣国アーマーンとの緊張は依然として続いており、女王ティアナは新たな防衛体制の必要性を感じていた。
王城の一室。ティアナは龍と向かい合っていた。彼女の表情には、かつての戦いを共に乗り越えた信頼と、決意が宿って見えていた。
「龍、貴方の漆黒の騎士はこの国を守る象徴となったわ。」
ティアナが静かに口を開いた。
「今後、さらなる脅威に備えるために、騎士を強化する許可を出すことにしました。」
龍は無表情のまま彼女を見つめ、短く答えた。
「そうか。」
ティアナは少し微笑み、言葉を続けた。
「ただ、強化するだけではなく、他の国にはない独自の力を持たせたいの。貴方なら、それを実現できるわ。」
「俺にとっても都合がいい。」
龍は端末を操作しながら続ける。
「これまで集めたデータを活用すれば、騎士を次の段階へ進化させることができる。」
柔らかな陽射しが降り注ぐ午後、リィナが研究室に龍を訪ねてきた。彼女は厚い資料を抱え、その顔には興奮の色が浮かんでいた。
「龍、興味深い報告があるわ。」
リィナは資料を広げながら話し始める。
「南部のカラール山脈で、漆黒の騎士の装甲と同じ素材が採掘されたの。精密な解析はこれからだけど、間違いなく非常に強力な物質よ。」
龍は資料を手に取り、データに目を通した。
「この素材があれば、漆黒の騎士を増産できる可能性がある。」
リィナは驚きながら問いかけた。
「増産……つまり、複数体の騎士を作るつもりなの?」
龍は冷静に頷く。
「アーマーンとの戦いを見て分かった。敵の軍勢を抑えるには、圧倒的な数の力が必要だ。漆黒の騎士を俺の私兵団として量産することで、この国を守る力がさらに強化される。」
その言葉に、リィナは少し戸惑いながらも納得した表情を見せた。
「確かに、騎士団を作ることができれば、この国の防衛はさらに堅固になるわね。ただし、素材の加工方法や、エネルギー供給の問題も解決しなければならないわ。」
「それも含めて、全て俺が考える。」
龍は端末を操作しながら答えた。その冷徹な態度に、リィナは少しだけ微笑んだ。
「本当に貴方はブレないわね。」
その夜、龍は王城の庭園に呼出されティアナと会った。彼女は夜空を見上げながら、どこか感慨深げな様子だった。
「リィナから聞いたわ。南部の素材を使って、私兵団を作るつもりなのね。」
ティアナが言うと、龍は無表情のまま頷いた。
「数があれば、戦場での選択肢が増える。それだけだ。」
ティアナは少し笑いながら彼を見つめた。
「貴方らしいわね。でも、貴方が作るその力が、私たちを守るものになるのだと信じているわ。」
龍は短く答えた。
「俺の作るものが守るのは理想や感情ではない。ただ、効率的に脅威を排除するだけだ。」
「それでもいいわ。」
ティアナは微笑みながら続けた。
「貴方がこの国にいる限り、私は安心して前に進める。」
その言葉に、龍はわずかに表情を和らげたように見えたが、何も言わなかった。
南部のカラール山脈で発見された素材を解析するため、龍は研究室に籠り、端末を操作しながら膨大なデータを整理していた。素材は漆黒の騎士の装甲と極めて類似した性質を持ち、驚異的な耐久性と魔力伝導率を兼ね備えていることが判明していた。
「この素材を加工すれば、漆黒の騎士を量産できるだけでなく、さらに高性能化も可能だ。」
龍は冷静にそう呟き、資料を閉じた。
その時、リィナが部屋に入ってきた。
「解析は順調みたいね。」
「問題ない。だが、加工技術が現状の設備では追いつかない。」
龍はリィナを一瞥し、続けた。
「南部の鉱山に専用の工房を設置し、採掘と加工を一括管理する必要がある。」
リィナは驚きつつも納得した様子で頷いた。
「それなら、王国の技術者たちを動員して計画を進めるわ。けれど、どうやってエネルギー供給の問題を解決するつもり?」
龍は端末に新たな設計図を映し出し、冷静に答えた。
「エネルギー供給は魔法陣と次元干渉技術の組み合わせで解決する。漆黒の騎士のエネルギー効率をさらに高めれば、複数の騎士を同時に稼働させられる。」
リィナはその設計図を見つめ、感嘆の声を漏らした。
「本当に、貴方の発想は常識の範囲を超えているわ。」
「龍、しばらくあなたに会えないのは寂しいけれど、私を驚かせる成果を楽しみにしているわ」
ティアナに見送られ、龍は南部のカラール山脈へと向かった。
そこには、魔力を帯びた光沢のある黒い鉱石が無数に眠っており、漆黒の騎士の装甲とほぼ素材であることが確認されている。
現地の技術者たちは、その採掘と加工が困難であることを訴えていた。
「この素材は非常に硬く、通常の工具では削ることすらできません。」
龍はそれを聞き、端末を操作して新たな加工手段を提案した。
「高周波振動と魔力を組み合わせた特殊工具を開発する。この設計図を元に試作品をすぐに持ってこさせろ。」
その効率的な指示に、技術者たちは驚きながらも迅速に行動に移す。
ティアナもまた時折現地を視察に訪れ、龍の働きを見ては感心したようにはしゃいでいた。
「龍、貴方がいなければこの計画は実現しなかったわ。本当に感謝しています。」
ティアナは穏やかに微笑みながら言葉を続けた。
「この素材を使って、国を守る力を作り上げることができれば、国の未来はもっと明るくなるわ。」
龍は無表情のまま、冷たく答えた。
「感謝なら必要ない。俺がやるべきことをやっているだけだ。」
その冷徹な態度にも、ティアナはどこか信頼をこめたように頷いた。
王都に戻った後、龍は新たな構想をティアナに提案した。彼の目には冷静さと野心が宿っていた。
「漆黒の騎士を基にした私兵団を作る。この国を守るには、数と効率を兼ね備えた兵力が必要だ。」
ティアナは頷くと、龍の提案を真剣に受け止めた。
「私兵団……それが実現すれば、アーマーンの脅威にも対抗できるわね。でも、リスクもあるわ。この力が制御できなくなったらどうするの?」
龍は短く答えた。
「それを防ぐためのプログラムを作る。全ての騎士は俺の端末で統括する形にする。俺が存在する限り、この力が暴走することはない。」
その冷徹な言葉に、ティアナは少しだけ安心したように微笑んだ。
「だったら私はあなたを大事にしなくてはいけないわね。」
だが、その言葉の裏には、彼女自身も気づかない感情が芽生えつつあった。
異世界転生征服者〜黒スーツの青年は野望を燃やす 天汐香弓 @teshiok
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