『薔薇色』に染まる

千瑛路音

『薔薇色』に染まる

 全てに恵まれていた。富も名誉もすべて思いのままに。まさに薔薇色の人生であった。一線を退くと大きな屋敷に一人で住んだ。ガーデンの薔薇は世話をすればするほどきれいな花を咲かせてくれる。大好きな薔薇に囲まれて過ごす、これほど幸せな事があるだろうか。屋敷には地下があり、そこで屋敷の主は寝泊まりした。地上は何かと物騒だ。地下なら目立たない。ある冬の日、ある部屋の窓を閉め忘れた為、寒気が流れ込んでいた。屋敷の構造上その部屋と地下の寝室は通気口で繋がっていた。屋敷の主は亡くなると、遺体はその寒さにより凍結し、そのまま変わることなく時間が過ぎ去っていった。地下の温度は一定で、薔薇は主が無くとも旺盛に繁殖していく。年が過ぎ、薔薇は主を探す様に屋敷中に溢れかえっていた。蔦の絡まるに任せて主の体はほぼその薔薇の中へと埋もれていった。薔薇の茎に含まれる薔薇の花弁の色素が体内へと注がれていく。肌色からだんだんと赤味を増し、最後にはとうとう『薔薇色』に皮膚の色が変わっていく。ぽっちゃりとした脂肪のたっぷり付いた顔は薔薇の根によって養分を吸収され、後には皮が皺皺になって顔にへばり付いているだけとなった。まるで薔薇の花弁の様に。   完

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