恋愛に興味なんてない俺、痴漢から助けた高嶺の花に好かれるが気がつかない〜〜外堀を埋められて、気づいたときにはもう遅い〜〜

本編

 俺は恋愛が嫌いだ。…別に負け惜しみしてるとかってわけじゃないけど、恋は人を馬鹿にする。今俺の目の前で繰り広げられてる惨状を見れば誰だってそう思うはずである。


 「お嬢さん綺麗だね?俺らとどこか遊びに行かないか?」

 「い、いやです。ど、どこかに行ってください!」

 「おっ、いいね〜!積極的じゃん!どこ行こうか?カラオケとか?」


 そう言って腕を伸ばす大学生くらいの男性。見るからにナンパなのに道行く人は巻き込まれないようにそそくさと逃げていくだけ。…そりゃ2mくらいのがっしりした男が2人もいて怖いのは分かるけど、いくら何でも薄情すぎないか?


 「…おい」


 仕方ないから俺が止めに行くか。人として困ってるヤツがいたら助けるのが当然だしな。動かない周りを責めるなら俺は行動に移さないとな。


 「あん?何だテメェ、邪魔だ」

 「そこまでにしといた方がいいんじゃない?」

 「舐めてんのか?ケガしたくなきゃ消えろ」


 …なんてくらいで引くわけないか。これで終われば楽だったんだけどな。


 「あんたらが消えたらどうだ?」

 「このガキが!」


 激昂した彼らは俺に殴りかかってきた。…これだから恋愛脳の馬鹿は嫌いなんだ。ただの犯罪だって自覚あるのかな?俺は相手の拳をひらりと躱わす…


 「グハッ!」


 なんてことはできずにそのまま吹き飛ばされた。喧嘩慣れしてない平凡な俺が避けられるわけないよな。


 「はっ!ただの雑魚じゃねぇか」


 そうだな。俺は強かったり技術があるわけじゃない。だから俺はただ耐えることしかできない。その間にでも被害者の女性には逃げてほしいと思ってるけど、どうだろう?


 ウーウーウーウー!!


 10分くらい殴られていただろうか?もう痛いともあまり感じなくなってきた俺の耳にもその音は入ってきた。…ようやく、か。


 「…ちっ、運のいいやつだ。行くぞ!」

 「…警察か。仕方ねぇ、ずらかるか」


 俺が止めに入る前にかけていた電話がやっと機能したみたいだ。段々と近づいてくるサイレンの音を聞きながら俺は意識を手放した。



 「…知らない天井だ」


 目が覚めた俺は人生で言ってみたい台詞の一つを思わず口にした。床も天井も壁もベッドも全て白で統一されているここは恐らく病院か?


 「…っ。てて」


 起きあがろうとすると全身に鈍い痛みが走った。それを我慢して起き上がるとどうしてこんなところにいるのか徐々に思い出してきた。


 「…いくら何でも殴られたくらいで病院にいるのはおかしいような気もするけどな」


 あの時は無理矢理ナンパなんてしてる馬鹿と揉めたんだった。一時の誤りで人生の全てを棒に振るようなことをどうしてするのか分からない。捕まるような悪いことしてる自覚があるなら最初からやらなきゃいいのに、とは思うけどやっぱり恋愛脳のヤツらの考えは俺には理解できない。


 コンコン


 「…陽ちゃん」

 「母さん?どうしたの?」

 「…えっ?うそ、本物?陽ちゃん!!」


 暗い声で俯きながら入ってきた母さんに俺が声をかけると、母さんはそのまま俺に抱きついてきた。いや、抱きつくよりも突進と言った方が正確かもしれないが。


 「陽ちゃん陽ちゃん陽ちゃん!痛いところない?私が分かる?」

 「お、落ち着いて母さん。俺なら大丈夫だから。それに、普通に殴られただけだから病院になんて連れてこなくても良かったのに」

 「何言ってるの!陽ちゃんはもう2日も寝てたんだよ!」

 「…マジ?」

 「もちろんです!お母さんがそんな嘘つく必要はないでしょ?」

 「…心配かけて悪かった」

 「もう、本当だよ。心配したんだからね?…でも、何があったのかは大体聞いた。その、ありがとね。流石は私の息子だよ!」

 「…当然だろ?」


 それまでの暗い雰囲気を吹き飛ばすように母さんは明るく言った。俺もその流れに乗るようにして明るく振る舞った。…だって母さんにとってこの話はすごく重い意味を持つから。


 母さん、倉敷くらしき 明日香あすかが無理矢理そういうことをされて産まれたのが俺、倉敷 陽介ようすけだから。にも関わらず母さんは俺にしっかりと愛情を注いで育ててくれた自慢の母さんだ。…だからこそ俺は恋愛が嫌いだ。



 それから3日が経った。俺はようやく退院することができた。その間は毎日のように母さんがお見舞いにきてくれたが、それ以外は暇すぎて辛かった。まだ高2の俺が何もなしに1日を浪費するのは退屈だった。…まぁ、そのせいで母さんの仕事が溜まって今日は連れてかれたんだけど。俺ももう体調は万全に近いし、そこまで気にしなくてもいいのにな。


 「あの!」


 そんなタイミングで俺のクラスでも1、2を争うような美少女と出会った。大桑おおくわ 一美ひとみさん。亜麻色のサラサラとした髪にパッチリとしたつぶらな瞳。スッと通った鼻筋にプルンと潤った唇。健康的な赤みのある頬に確かな存在感を放つ胸。…なんてジロジロ見過ぎか。


 …まぁ、向こうが俺みたいなただのクラスメイトのことを覚えてるわけないだろうし、別の人だろうな。そのまま横を通り過ぎようとすると、彼女に回り込まれてしまった。


 「ちょ、ちょっと待って倉敷君!」

 「…俺?」


 名前を呼ばれたら勘違いとかじゃないだろうけど、どうしたんだろう?そんなクラスでも、いや学年や学校でも屈指の高嶺の花である大桑さんに呼び止められるようなことなんて無いと思うけど…。そもそも、クラスでも目立つ方じゃない俺の苗字なんて覚えられてたのが意外だった。


 「そ、その!…この前はありがと。倉敷君のおかげで助かったよ。…言い訳じゃないけど、本当はもっと早くにお礼を言いに行こうと思ったのに、最初は面会遮断で病室に入らなくて、そうかと思ったら明日から学校に来れるって聞いたから。だから!は、薄情な女だと思わないでほしいなって」


 彼女は捲し立てるようにそう言った。…けど、俺には何が何だかさっぱり分からない。もしかしてあの時の女性が大桑さんだったってこと、なのかな?確かに大桑さんほど可愛ければナンパとかもされそうだけど…。


 「…何についての話なのか正直よく分からないけど、大桑さんの役に立てたなら良かったわ」

 「…倉敷君は私だから助けてくれたんじゃないの?」

 「いや、全然?そもそも大桑さんを助けたことなんてあったっけ?」

 「…へ〜。倉敷君は誰が相手でも助けちゃうようなお人よしなんだね♪」


 大桑さんはそう言って笑ったけど、俺にそんなつもりは全くない。困ってる人がいたら助けるのが当然だし、それが母さんみたいな悲しい思いをするかもしれない人ならなおさらな?


 「…っと、これ、私のノート。倉敷君が学校休んでたときの部分をまとめておいたから、よければ使ってみて?分からない部分があればいつでも聞いてもらって大丈夫だよ?…あっ!それじゃあ連絡先交換しよっ♪RAINやってる?」


 大桑さんはまた早口で言ってそのままズイッと身を乗り出すようにして近づいてきた。急に近くなった可愛らしい顔に驚いて視線を逸らすと、逸らした先にはプルンと震えている一部分が目に入った。俺は慌てて目をギュッと閉じた。…だけど女性は視線に敏感だって言うし、きっと気づかれたよな。


 「あ、あぁ。やってはいる、けど、ちょっと離れて」

 「あ、ごめん。つい興奮しちゃって」


 大桑さんが動いた気配を感じて目を開けると大桑さんは適切な距離に戻っていて、スマホで口を隠すように恥ずかしがっていた。


 「…ま、まぁいいけど、クラスRAINもあるんだし、そっちの方から申請してくれてもいいのに」

 「そんなのヤダ!!」

 「うおっ!?」


 俺も大桑さんもクラスみんなのグループRAINに参加してるから、そこから個別に登録した方が早いんじゃないかと思って聞いたけどすぐに大声で否定された。


 「私はちゃんと自分で友達になりたい人と交換するの!!それなのに用もない人から何度も何度も何度も友達申請が来て…。あんたたちなんか友達でも何でもないわよ!!……あっ!今のは違くて!」

 「…ぷっ、ふふ」

 「ちょっ、何で笑うのよ!」

 「いや、その。…大桑さんもそんな風に悩んだりするんだって思って。もっととっつきにくいかと思ってたのに案外話しやすいなって」

 「そ、それは!…お友達なら素の私を見られてもいいかなって。…嫌いになった?」

 「いや?むしろ好きになったくらいだよ」

 「す、すすすすす、好き!!!!???そそそ、それって!?…そ、その、私も、ごにょごにょ…」

 「?とりあえずRAIN交換するか」

 「う、うん!」


 大桑さんが最後何を言ってたのか聞き取れなかったけど大丈夫かな?それに、びっくりし過ぎだと思うけど?男子に対しては徹底して冷たい印象だったけど、それは勘違いだったみたい。俺なんかと友達になりたいって言ってくれるし、人並に悩んだりもする普通の女の子なんだって知れて好ましく思うのは当たり前だと思うけど…。


 「…えへへ〜。よーすけっ♪」

 「ッ!?」

 「RAINの名前、本名なんだね」


 …急に大桑さんみたいに可愛い人に名前を呼ばれて驚いたけど、RAINのことか。何故か一瞬ドキッとしたような感覚があったけど、そういうことならこれから先はもう名前を呼ばれる機会は無いかな?


 「…あ、あぁ、RAINの話ね!うん、そうだよ。そう言う大桑さんはひとみ?人のこと言えないじゃん」

 「〜〜ッ!!…な、なんか照れるね?け、けど、友達なら名前で呼び合うのが普通だし、慣れないとね、よーすけ君」


 …顔を赤くしてそう言う大桑さんは反則だろ!でも確かに一理あるし、これからも友達として接するなら名前呼びは早いうちにやっておいた方がいいの、かな?


 「…分かったよ、一美さん。確かに後々で変えるよりはいいかもね」

 「ッ!…あ、明日!明日からお弁当持ってくるので食べてくれますか?」


 大桑さん…一美さんは話題を変えるように唐突にそう言った。俺も彼女を困らせたいわけじゃないから話に乗るけど、お弁当!?


 「それは流石に申し訳ないよ!」

 「いえ!助けてもらったお礼って言うのもそうですが、すき、じゃなくて、友達に手作りお弁当を食べてもらうのもやってみたいことで。…ダメ、ですか?」

 「…そういうことなら、まぁ。せめて材料費くらいは出させてもらうけどな」


 上目遣いでそんなこと聞かれたらさすがに断れないよ。それに俺としてもありがたい話だし…。けど、対等な友達でいたいからせめて材料費だけでも払わせてもらう。これだけは譲れない。


 「…分かりました。それなら、明日だけはお礼なので素直に受け取ってください。明後日以降は材料費を払ってもらうので」

 「えっ!?明日だけじゃないの!?」

 「…美味しくなきゃ考えます。でも、よーすけ君の分も毎日作ってあげたいです。その、私の夢は毎日お味噌汁を作って食べてもらうことなので」

 「なるほどね。そういうことなら分かった。それじゃあ毎日お願いしようかな」


 …一美さんは将来シェフとかになりたいのかな?もう明確な目標があってそれに向かってるなら応援してあげたいな。俺なんかにできることは限られてるとは思うけど。


 「ホント!?それって私を受け入れてくれるって思っていいの!!?」

 「?もちろん。応援するよ?」

 「応援まで!!?…そ、その、ありがと。楽しみにしててね♪」

 「ああ。一美さんの作ってくれるお弁当は楽しみだ!」


 …ちょっと喜び方が大げさなような気がするけど、もしかして親に反対とかされてるのかな?応援くらいしかできないけど、一美さんにはちゃんと夢を叶えてほしいな。



 それから俺は家に帰ってきた。


 「…ここが俺の家だよ」

 「…へ〜。ここでよーすけ君が生活してるんだ」


 …一美さんと一緒に。


 「…うん、それじゃあ朝ここまでお弁当届けにくるね♪」

 「あ、ああ。駅とかでの待ち合わせにした方が分かりやすい気もするけどいいのか?」

 「うん!私がここまで来たいからいいの!」

 「…それならいいんだが」


 …どうしてこんなことになったのか、それは単純に教室とかでお弁当を渡してもらうと騒ぎになりそうだったからだ。クラスのマドンナ的存在の一美さんが俺みたいな一般的なクラスメイトにお弁当を手渡したらどうなるか。


 「そうそう!…あっ、それじゃあ毎朝私が朝食も用意させてもらえるかな?やっぱりお味噌汁も作ってあげたいし」

 「えっ!?…いやいや!流石にそれはやりすぎじゃない?」

 「お願い!私の夢なの!もし許してくれるなら、私にできる範囲で何でもやるから!」

 「ちょっ!女の子がそんな簡単に何でもって口に出すもんじゃないよ!」

 「簡単なんかじゃない!!よーすけ君だから言ってるの!!」


 …はぁ。よく分からないけど、一美さんってこんなに頑固だったんだ。今日は知らなかった一美さんの性格が見えてきたな。…いや、頑なに男子と世間話とかしようとしなかったんだから、頑固ではあったのか。


 「…なら、母さんがいいって言ったらな」

 「うん!ありがと♪」


 俺から止めるのは無理そうだと判断して母さんに丸投げすることにした。母さんなら女性の視点だったり大人の視点だったりで止めてくれるだろう。


 そうして一美さんを家に上げることになったんだけど…俺の部屋でいいのか?そこまで汚くはないと思うけど、あんまり親しくない異性の部屋に入れるのがどうなんだということくらい俺にも分かる。


 「…それじゃあ母さんが帰ってくるまで待っててもらいたいんだけど、俺の部屋かリビングあたりがいいと思うんだけどどっちがいい?」

 「…よーすけ君のお部屋にお邪魔してもいいの?」

 「俺の?一美さんが言うなら構わないけど…」

 「うん!ならよーすけ君のお部屋がいい!!」

 「分かった。それじゃあ、付いてきて」


 一美さんがそう言うならってことで俺は自分の部屋に案内した。…たった5日だけなのに、もうこんなに埃が溜まっちゃってたんだ。一美さんが帰ったら掃除とかもしないとな。


 「…ここがよーすけ君のお部屋。私のとはかなり違うね?…このベッドで寝たりするのかな?…ごくっ、えい!!」

 「一美さん?どうかしたの?」


 ポフッと音を出して一美さんはベッドにダイブした。…いや、いくら何でも無防備すぎない?制服(スカート。ここ重要!)で横になるなんて。俺は覗こうとしたりなんてしないけど、一美さんは友達との距離感が近いのかな?…いや、男の友達は俺だけだって言ってたし、女友達とのノリで接してるだけなのかな?いわゆる男として見られてないってことだね。


 「ただいま、陽ちゃん!ぶ、じ…?」


 それから30分くらいで帰ってきた母さんは勢いよく扉を開け、一瞬にして固まった。…まぁ、俺のベッドで見知らぬ女の子が横になってたら誰でも固まるよな。


 「お帰り母さん。こっちの一美さんが母さんに頼みがあるみたいだぞ」

 「あ、あの!お義母かあさま!明日から朝食をご一緒させていただけないかと相談に来ました!!…も、もちろん準備は私にさせていただきたいのですが…」

 「…そ、それは構わないけど、えっと一美さん?だっけ?それってそういうこと、でいいの?うちの陽ちゃんでいいってこと?」

 「あっ、そう言えばまだ自己紹介もしてませんでしたね。私は大桑 一美です。それで、その、よーすけ君がいいんです。誰にでも優しい、そんな彼が」

 「…そう。それなら一美ちゃんのご両親が許可したら私は構わないわ。私は倉敷 明日香。お義母さんって呼んでもらっても大丈夫よ」

 「はい!不束者ですが、末永くよろしくお願いします!!」


 ◆


 「起きて、よーすけ君。朝ごはんできたよ」

 「…ん?もう朝?…一美さん!?」

 「おはよ、よーすけ君♪」

 「何でここに!?…って、ああ、そっか。おはよう一美さん」


 結局すんなりとオッケーが出て今日から一美さんが来ることになるんだった。でも、朝からエプロン姿で起こしに来てくれるなんて、どこのラブコメ幼馴染なんだろ。…まぁ、そんなこと一美さんが意識してるわけもないか。


 「…美味い」

 「ほんと!?よーすけ君のお口に合ったなら良かった。まだまだ作ってあるから、遠慮せずにお代わりしてね♪」

 「ああ!これなら毎日でも食べたいと思うよ」

 「やった!もちろんそのつもりだよ!!よーすけ君が食べてくれるなら毎日でも毎食でも作ってあげる♪」


 流石は将来の夢だと豪語していただけはある。というか、普通に美味しい。いくら練習のためだとは言ってもこんなに美味しいご飯が毎日食べられるとか天国だな。


 「はは、毎食なんて流石に大変だろ?確かに俺は嬉しいけど、一美さんに無理させたいわけじゃないし」

 「…別に無理なんてしてないけど。それじゃあ、次の日が休みなら夕飯も一緒でいい?」

 「…まぁ、一美さんの負担にならないなら」

 「うん、決定!それじゃあ、週末は私が毎食用意するね♪一緒に食べよ?」

 「分かったよ。ならお願いする」

 「任されました♪」


 返事をしてからはたと思った。…あれ?土日祝日もわざわざ来てくれるの?って。でも、タイミングを逃して結局聞けなかった。



 「「行ってきます」」

 「2人とも行ってらっしゃい。車とかに気をつけるのよ」


 俺たちは母さんに見送られながら一緒に家を出た。周りのことを考えれば別々の方がいいとは思うけど、一美さんが友達と一緒に登校したいって言ってたから一緒に行く。わざわざご飯作ってきてくれたんだし、これくらいのお願いだったらな。


 それから一美さんと他愛のない話をしながら学校に向かっている。学校に近づくにつれ、視線を感じるようになってきた気がするけど気のせいじゃないだろう。それなのに話しかけてくる人はいないけど…。


 「あっ、一美。おはよー」

 「穂乃果ほのか?おはよ。それじゃ」

 「ちょちょ、ちょっと待って!隣にいる倉敷君は一美の彼氏?」

 「よーすけ君は私の大切な人なの!お友達から始めてるところなんだから邪魔しないで!」


 ?なんか気になる言い回しだけど、要は困ってる所を助けてもらった大切な人で、友達になり始めたばかりってことかな?邪魔って意味は分からないけど。


 「…まぁ、俺と一美さんは友達だよ」

 「ふ〜ん。よーすけ君、一美さん、ね〜」


 それだけ言うと彼女はすぐに学校に向かってしまった。自分も一美さんと一緒に登校したかったのに俺に気を遣って譲ってくれたのかな?それともただ挨拶に来ただけとか?



 それから朝は一緒に登校して金曜日は下校も一緒にするようになった。俺だけだったら呼び出されたりしたかもしれないけど、一美さんが俺のことを大切だって明言してくれたおかげで一美さんに嫌われたくないからかその手の話題を俺に聞かれたことはない。更に土日祝日も一緒になって、日曜日まで夕飯を一緒にすることになった。


 どれも友達として普通のことだと思うけど、何故か俺たちが一緒にいると生暖かい目で見られることが増えたように思う。


 …それが一美さんの策略なんだと、同棲してるんじゃないかって噂を流してもらってるからだなんて俺は気づかない。更に母さんにも通い妻をしていると思われてるなんて俺は全く知らない。…きっとこれが友達としてじゃなくて好きな人だからだって気づいたとき、俺は既に逃げられなくなっているんだろう。だけど、今の俺にはそんなことを意識する余裕なんて全く無かった。


 そう、これは俺が好意に気づいたときには全てが終わっているラブコメ、タイトルを付けるとしたら『恋愛に興味なんてない俺、痴漢から助けた高嶺の花に好かれるが気がつかない〜〜外堀を埋められて、気づいたときにはもう遅い〜〜』のプロローグ。一美さんの積極的なアプローチに俺がたじたじになる前の物語。

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