さぁ、世の既婚者男性諸君よ。ここに問うぞよ。
貴方は妻の浮気を赦しますか? 愛した妻がとんでもない放蕩女で、あちこちと関係を結んでいたとしたら……?
これはあの歴史の英雄、ナポレオンの物語です。ナポレオンの妻、ジョゼフィーヌは浮気し放題の放蕩女。あちこちに「オトコ」がいます。
さぁ、結婚当初こそヨワヨワ男子だったナポレオンも、時が経てば伝説の男。ジョゼフィーヌも不義理を問われてはひとたまりもありません。それまで舐め腐っていて、不倫しても無理やり赦させていた男が力を。形勢は逆転。妻は赦しを乞います。
しかし多くの男性がそうであるように(というか男性も女性もありませんが)浮気は赦し難い。しかし赦してもらいたい妻。ここで何と、考えがある男が……?
NTRじゃないですよ(既に寝取られてるから、まぁ、何とも言えませんが)。でも背徳の味がする作品。
貴方がナポレオンの立場ならどうするか。
ぜひ一読して、考えてみてください。
唐突ですが、クーデターを成功させる方法ってご存じですか?
たぶん学校では教えてくれませんが、しかし学校では歴史を教えてくれます。その歴史の示すところによると、クーデターの成否を握るのは「王様を倒した後」の処理をどれだけ上手くやれるか、です。
「下」から全てをひっくり返す革命と違って、クーデターは「上」の人たちによる暴力的な権力闘争。今の「王様」を戦闘や暗殺で倒すことができたとしても、それは終わりではなく、むしろ新たな権力闘争の始まりです。
さて、一軍人の立場でクーデターを成功させて権力の座に就き、ついには皇帝にまで上り詰めた男といえばナポレオン・ボナパルト。彼はブリュメール18日のクーデターで権力の頂点に立ちますが、兵士には人気があっても政府のブルジョワ連中とのコネはほとんど無い彼がクーデターを成功させることができたのは――言い換えれば、武力行使だけではなくその後の権力闘争にも勝利し得たのは――「薔薇」のおかげでした。
ナポレオンが婚約者を振ってまで熱烈に求婚した子持ち未亡人のジョゼフィーヌ。ナポレオンがジョゼフィーヌと呼び始める前は「ローズ」と呼ばれてた彼女は、よく言えば社交的、悪く言えば奔放で、総裁政府の偉いさんと愛人関係にあったりナポレオンの遠征中に不倫したりとやりたい放題の困った「薔薇」。しかしそんな彼女が、夫ナポレオンのクーデターを成功に導く鍵となる――それが本作のテーマです。
詳細はネタバレになるので避けますが、ジョゼフィーヌの奔放さが招いた事態を本人が懸命に収拾しようとすることが……いや、やはり本編をお読みください。
本作後の二人の関係について(ネタバレにはならないので)触れておきますと、1810年にナポレオンはジョセフィーヌを離別しますが、その4か月後には半島戦争で大敗を喫します。そして1812年のロシア遠征で帝国は崩壊、1814年にナポレオンが退位してエルバ島に逼塞した直後に、ジョゼフィーヌは天に召されます。その翌年、ナポレオンはエルバ島を脱出するもワーテルローで敗北し、ついに帝位に復することなく1821年に亡くなります。
「薔薇がもたらした幸運は、薔薇が去るとともに消えた」。そんな史実を踏まえながら、この短編を味わいましょう。