篝月輝子の身の上話

今からおよそ十年前。世界中で人は、自分の大切な人を守るために誰かの大切な人を殺し、その誰かの大切な人を守ろうとする誰かの大切な人に殺されていった。高次元生命体が今を生きる人々に声をかけ、未来を見せてきたせいだ。見せられる未来は決まっていた。自分にとっての大切な人間が誰かに殺される瞬間である。殺さなければならない、しかし人を殺すのか？　自分が、この手で、愛する者を守るために――葛藤の末、自ら命を絶つ人間も少なくなかった。殺し殺され、巻き込まれた不運な事故死、やむなくの自殺と心中。

法医学者の篝月輝子は左遷先で、心理学者の風上龍尋と出会う。月輝子が左遷することになった原因を作ったのは自分だと、龍尋が打ち明ける。困惑する月輝子のもとに、さらに左遷の原因となった事件の被害者遺族が病院から脱走した連…続きを読む