薔薇色の約束

ソコニ

第1話  薔薇色の約束



祖母が他界して一年が経った春の午後、私は実家の庭に残された薔薇園の手入れをしていた。


「おばあちゃんの青い薔薇、やっぱり咲かないね」


妹の美咲が、空っぽの鉢を覗き込みながら呟いた。祖母は生前、遺伝子組み換えで作られた青い薔薇の栽培に執着していた。けれど、どんなに丹精込めて育てても、その薔薇は一度も花を咲かせることはなかった。


「でも、おばあちゃんは最後まで諦めなかったよね」


私は土の中に指を差し入れ、適度な湿り気を確かめる。祖母は、この薔薇園を「私の虹色の宝石箱」と呼んでいた。確かに、赤やピンクはもちろん、黄色や紫、そして珍しい緑の薔薇まで、まるで宝石を散りばめたような美しさだった。


「姉ちゃん、見て!」


突然の美咲の声に振り向くと、青い薔薇の鉢に、小さな新芽が顔を出していた。それは、まるで祖母の残した最後の言葉を思い出させた。


「薔薇は、諦めない人の前でしか咲かないのよ」


私たちは息を呑んで、その小さな希望を見つめた。やがてその新芽は、誰も見たことのない色の花を咲かせた。それは青でも白でもない、まるで夜明けの空のような、薔薇色の光を帯びていた。


祖母は、最期まで青い薔薇を夢見ていた。でも今になって思う。彼女が本当に追い求めていたのは、不可能を可能にすることではなく、夢を追い続けることそのものだったのかもしれない。


薔薇園には今も、様々な色の薔薇が咲き誇っている。そして私たちは知っている。どんな色の薔薇も、それぞれの物語を持っていることを。諦めないことの美しさを教えてくれた祖母の薔薇は、今も私たちの心の中で、薔薇色に輝き続けている。


(終)

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