大阪のおばちゃん勇者
橋元 宏平
もしもコッテコテの大阪のおばちゃんが勇者だったら
「出でよ! 異世界の勇者っ!」
召喚士の言葉と共に、魔法陣の上にひとりの勇者が現れました。
召喚された勇者は、ふくよかな中年女性でした。
おばちゃんパーマに、白い
どこで買ったのか分からない
背中に大きなリュックサックを
足には、
「ようこそおいで下さいました、異世界の勇者様」
召喚士がうやうやしく礼をすると、勇者はツカツカツカーッと詰め寄ります。
「ちょっと、アンタ! ここ、どこなんっ? 急に呼び出されても困るわ! おばちゃんな、こう見えても忙しいねんっ! 6時のタイムセールで、買い出ししたばっかりでな! これから、ご飯作らなアカンのよっ! うちには食べ盛りの高校生と中学生の息子が3人もおって、よう食べんねんっ! せやから、
勇者のマシンガントークに
「いえ、あの、その、それはもう、お忙しいところをお呼び
「なんや、おっちゃん、困っとるんか? せやったら、
心優しい勇者は、「どっこいせっと」と言いながら魔法陣の上に座りました。
召喚士はやっと落ち着いて、話し始めます。
「は、はい、ありがとうございます、勇者様。実はこの世界には
「あんな、おっちゃん。おばちゃんなぁ、
勇者は、短気でした。
話の腰を折られた召喚士はムッとして、「やりにくいなぁ」と思いました。
召喚士は、気を取り直して簡単に言い直します。
「早い話が、勇者様に魔王を倒して欲しいのです」
「嫌やっ!」
勇者は、
まさか、断られるとは思っていなかった召喚士は、とても驚きました。
「何故ですかっ?」
「アンタこそ、おばちゃんの話、聞いとらんかったんかっ? おばちゃん、忙しい
「そ、それはご安心下さい、勇者様。魔王を倒した
召喚士の話を聞いて、勇者はキョトンとします。
「そうなん? そういうことは、
「申し訳ございません。勇者様のおっしゃる通り、先に説明するべきでした」
召喚士は、「それもそうか」と反省して
短気な勇者は、話を進めます。
「せやったら、魔王とやらをちゃちゃっと倒して、帰らしてもらうわ」
「そ、そうですね。では、勇者様の旅にご
召喚士が奥の扉を開くと、3人の男が入って来ました。
勇者の前に立つと、それぞれ自己紹介をします。
「騎士のナイトでございます」
「魔術師のマジクです」
「聖職者のクレリックと申します。以後お見知りおきを、勇者様」
勇者は3人を見て、ポッと頬を赤らめて笑顔を浮かべます。
「あらぁ~、えらいシュッとしたイケメンの
勇者はニコニコ笑いながら、
3人はドン引きしながらも飴ちゃんを受け取って、お礼を言いました。
「「「あ、ありがとうございます、勇者様……」」」
「右から、
「「「は、はい。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」」」
3人は顔を引きつらせながらも、頭を下げました。
3人は、「訂正してもたぶん直らない」とか、「反論すると色々面倒臭そう」とか、
聖職者は、勇者に向かって一本の剣を差し出します。
「勇者様、こちらが代々伝わる
「あらやだ、ずいぶん古ぼけた剣やねぇ。
勇者は受け取った聖剣を、さっそく
聖職者は、苦笑いします。
「魔王を倒すまでは、勇者様がお持ち下さい。ですが、魔王を倒したらお返し頂きますようにお願いします」
「なんや、貸してくれるだけかい。まぁええわ。こんなん、向こうであってもよう使わんし。使い終わったら返すわ」
「そうして頂けると、助かります」
そんなこんなで、勇者と騎士と魔術師と聖職者の4人は、魔王退治に出掛けていきました。
召喚士は
☆
勇者の強さは、
魔王の手下たちは、手も足も出ません。
剣も魔法も使わず、
勇者があまりにも強いので、騎士と魔術師と聖職者はすることがありません。
「うわ~……、勇者様が強すぎて、ぼくたち全然出番ないんだけど」
「オレたち、いる意味ある?」
「いやはや、私たちがやれることといったら、勇者様が倒した敵の
3人は勇者を見ながら、やれやれと肩を
日が暮れてくると、3人は
「勇者様、こんなところで申し訳ございませんが、ここらで
「せやったら、おばちゃんがご飯作ったるわ。おばちゃんのご飯、
「「「は?」」」
勇者の言葉を聞いて、3人は
この世界で
驚く3人をよそに、勇者は背負っていたリュックサックと買い物袋を下ろします。
「やれやれ、どっこいしょっと。買い物帰りやったから、ちょうどええわ。腐らしたらもったいないから、
「あ、あの、勇者様。もしよろしければ、マジックバックがありますよ」
魔術師が麻で出来た布袋を差し出すと、勇者は首を
「なんや、そのズタ袋?」
「これはマジックバックと言いまして、この中に入れた物は時間が停止して腐ることはありません」
「ややわぁ、そんな便利なものがあるんやったら、
「すみません、なんか言いそびれてしまって」
「まぁ、ええわ。さっそく、入れ替えさせてもらお」
勇者がリュックサックを開けると、食材が出るわ出るわ。
たまねぎやにんじんなどの野菜。
保冷バックに、保冷剤と一緒に入った肉や魚。
醤油や味噌などの調味料。
パスタやうどんなどの
5kgの米袋。
「今まで
地面に落ちている枯れ枝や枯れ葉を
「こら、ぼさっと突っ立ってないで、アンタらも手伝いな。働かざる者、食うべからずだよ。
「「「は、はいっ!」」」
3人は言われるまま、食事の準備を手伝いました。
「おばちゃんちは、月1回で家族キャンプしとぅから
聖剣を包丁代わりにして、野菜や豚肉を小さく切って鍋で煮ます。
別の鍋では、お米が炊かれて美味しそうな
炊き上がったご飯はおにぎりにして、
肉と野菜が柔らかく煮えたら、味噌とネギを入れて完成です。
30分で、おにぎりと具だくさんの豚汁が出来上がりました。
美味しそうな
「やっぱりキャンプといったら、カレーか豚汁やな。みんな、ちゃんと手を洗って、両手を合わせて『いただきます』って
「「「いただきますっ」」」
勇者に
おにぎりと豚汁を食べると、3人はその美味しさに感動しました。
「美味しい! こんな美味しいもの、食べたことがないっ!」
「なんだこれ? 初めて食べる味なのに、どこか懐かしいおふくろの味がする」
「お母ちゃん……」
「口に合ったみたいで良かったわ。みんな、どんどん食べ食べ」
「「「はいっ!」」」
3人は、勇者に胃袋を
これ以降、3人は「勇者様」ではなく、「お母ちゃん」と呼ぶようになりました。
☆
ハッキリ言って、旅は順調でした。
毎食美味しいご飯をたくさん食べているので、みんな元気いっぱいです。
3人はいつも、「次のご飯は何かな?」と考えています。
強くて料理上手な勇者を、3人は心から尊敬していました。
勇者もまた、「お母ちゃんお母ちゃん」と
勇者がめちゃくちゃ強いので、
「アンタが、魔王かいっ?」
「そうだ。勇者とその
勇者は
あっという間に、魔王の顔はパンパンに
「ま、待て、勇者……。いや、そもそも、お前は勇者なのか? まずは、我の話を――」
「いい年こいて、悪さばっかして恥ずかしくないのかいっ? おばちゃんがその腐った根性、叩き直したるっ!」
勇者は、話を聞いてくれません。
反撃の
最終的には正座させられて、散々お
「魔王、もう悪いことしちゃアカンよっ!」
「うわ~ん、ごめんよ、母ちゃ~ん……! もう許して~……っ!」
心を折られた魔王は、もう二度と悪さをしないと約束しました。
魔王の手下たちも、フルボッコにされる魔王を見て
☆
勇者は魔王を国へ連れて帰り、人間の王様と
こうして、世界に平和が訪れました。
魔王を倒して役目を終えた勇者は、元の世界へ帰ることになりました。
ところが、勇者に
「お母ちゃ~ん、お願いだから帰らんで~っ!」
「オレもう、お母ちゃんのご飯以外食べられ~んっ!」
「お母ちゃ~ん、一生ここにいて~っ!」
勇者は泣き付く3人の頭を
「もうアンタら、いつまでもお母ちゃんお母ちゃん
「「「お母ちゃ~んっ!」」」
「ほなね、みんな元気でな」
勇者は笑顔で手を振りながら、自分の世界へ帰っていきました。
めでたしめでたし。
大阪のおばちゃん勇者 橋元 宏平 @Kouhei-K
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