後編

「ゆうたさ、時間とかだいじょうぶ? 付き合ってくれてうれしいけど、親とか心配しない?」


 たけるくんが申しわけなさそうに聞いてきて、ゆうたくんはブンブンと首をふりました。

 橋をわたったあとも、何度か地図じょうの道とじっさいの道がちがうことがありました。そのたびにルートへんこうをくり返しながら、2人はゆっくりとすすんでいました。


「へーき。おれ、今日は家に帰らない!」

「そうなの? けんかとかした?」

「うん。ママとけんかしてさ、とび出してきちゃった」

「はは、おれも同じ。ママとけんかして家出して、そのまま帰れなくなっちゃった」

「たけるの家きびしそうだもんな」

「うん、そう。でも、ぜんぜん帰れてないから、さすがに心配してるかも……。あ、そうだ。おれの家着いたらさ、ゆうたとまってけよ。ママきびしいけどさ、ごはんはすっげぇウメェから」

「まじ? いいのかな。でも、ねる場所とか……」

「へーきへーき! ウチ2階建かいだてで、ちゃんと客間きゃくまとかあるから。おれのママからゆうたのママに電話してもらえば、きっとだいじょぶだって!」


 それはとってもうれしいもうし出でした。ゆうたくんは、もうけっこう歩きつかれていたはずでしたが、そのことばで足取りがかるくなります。


「じゃあおれもたけるの家とまろうかな!」

「やったー! けってーい!」

「あとはこの道まっすぐすすむだけ! よーし、ダッシュだ!」

「先に着いた方がかちな! 負けねー!」


 2人は走り出しました。たけるくんのおうちはもう目の前です。そしてそこは、さすが自分の家だからと言うべきか、たけるくんの方が早くとうちゃくしました。ピンポンをならして、


「ママー! おれだよ、たけるだよ! 帰ったよー!」


 少ししてから、中からガチャガチャとカギをける音がします。


親子おやこの、かんどうのさいかいだ。じゃましちゃわるいな)


 そう思って、ゆうたくんは少しはなれたところに立っていました。たけるくんは、きっとママにおこられて、またたくさん泣いて、それからゆうたくんをとめる話をしてくれるでしょう。


(今日はたけるの家にとまるから、地図はもういいや)


 地図アプリをとじてスマホをしまおうとして、ふと気づきます。


(あれ……。この場所、スマホだとマンションになってる。じっさいは2階建かいだての家なのに……)


 こういうことは、さっきから何回もありました。けれどここは、大事だいじなたけるくんのおうちです。さすがに心配しんぱいになって、ゆうたくんは声を上げました。


「なぁ、たける。おまえの家、本当にここで合ってる? ここ、スマホだとマンションになってて……」

「何言ってんだよ、合ってるよ。自分の家まちがえるわけないだろ。ほら、ママも──」


 げんかんのドアが開き、


「たける、たける! 本当にたけるなの!?!? 今までどこ行ってたの!?!??」


(たけるのママ、けっこうおばあちゃんなんだな)


 出てきたのは顔中かおじゅうにふかいシワがきざまれた女性じょせいでした。ゆうたくんのママはいつもきれいにしていて、同じようなのをそうぞうしていたから、たけるくんのママはとても年を取っているように感じました。


「ごめん、帰り道わかんなくなっちゃって……。でも、そこのゆうたがあんないしてくれたんだ!!」


 2人のしせんがゆうたくんに向きます。ゆうたくんはそれをえがおで受け止めました。


(ま、なんでもいっか! たけるはぶじに帰れたんだし!)


 そう思ったしゅんかん、ゆうたくんのしかいはぐにゃりと曲がりました。




「え…………。あれ…………」


 思わず目をつぶって、ふたたび目を開けたゆうたくんは、あわてて辺りを見回しました。


 さっきまで目の前にあったはずの、たけるくんの家も、たけるくんのママも、たけるくんも、どこにもいません。


 代わりに、初めて見るマンションが真っ黒にそびえ立っていました。


「うそ、どういうこと……。そうだ、スマホ、地図……」


 手がふるえるのは、きっと寒いからです。すっかり日が落ちてくらい中、スマホの画面がめんがぴかりと光ります。

 ゆうたくんは、ホッと息をはきながらスマホのロックをかいじょしました。なれた手つきで地図アプリを立ち上げます。


「……あれ。ぜんぜん立ち上がらない。ずっとグルグルしちゃう……」


 あわててアプリを立ち上げ直したりスマホをさいきどうさせたりしましたが、どうにも地図アプリは立ち上がりません。しばらくしてから、ゆうたくんはやっとそのわけに気がつきました。


 スマホの右上、いつもなら電波でんぱじゅしんのぼうが並んでいる位置いち。そこに、ぼうの代わりに「圏外」という文字が並んでいます。


「どうしよう、スマホ、使えない……。あ、でも! ママがGPSで見つけてくれるはず……」


 そう思ったとたん、とつぜんスマホの画面がめんが真っ黒になりました。いくら電げんボタンをしても、長押ながおししても、スマホの画面がめんは付きません。


「どうしよう。じゅうでん、なくなっちゃった……」


 聞いたことがあります。GPSというのは、スマホの電げんが付いていないとダメなのだと。つまり、これだとママはゆうたくんのことを探せないのです。


「どうしようどうしようどうしよう…………。ママーーー!! パパーーーー!! たけるーー!! どこだよーー!!」


 ゆうたくんはわけもなく走り出しました。もちろんどこへ向かえばいいかなんてわかりません。道を聞こうにも、ふしぎと、ひとっ子ひとり見当たりません。

 真っ黒な道を、さけびながら、走って、走って──

 いき切れしたゆうたくんは、立ち止まって、ふとかおを上げました。


 そこには、ふるめかしい、小さな神社がたたずんでいました。




♦︎♢♦︎




「ムリムリ! 迷子の幽霊って、同い年くらいの子どもしか会えないらしいよ?」

「えぇ〜そうなの? でも、『くらい』なら、だんだんと年齢が上がっていけばワンチャン……」

「ウケるー、そこまでして会いたい?」

「だって願いが叶うんでしょ? そりゃ会いたいわー」

「まーそうだけど。でもさー、この噂には続きがあって。迷子の幽霊を無事に送り届けると、次は自分が迷子の幽霊になっちゃうんだって!」

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チャイムがなったら帰りましょ 氷室凛 @166P_himurinn

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