呪いの日本人形売ります
タルタルソース柱島
呪いの日本人形
「マユリ〜、聞いてよー!」
朝の教室に駆け込んできたミホは、いつもの元気な声とは違い、どこか焦った様子だった。
「おはー。どったの? ミホミホ」
窓際の席でスマホをいじっていたマユリは、顔を上げることなく答えた。
「婆ちゃんが亡くなってさあ、形見で貰った日本人形がちょーヤバいの!!」
ミホの言葉に、ようやくマユリが興味を示すように顔を上げる。普段からどこか破天荒で、怖いもの知らずのマユリらしい反応だった。
「ふーん? 呪いの人形って感じのヤツ?」
「そう! それ! 勝手に髪が伸びるし夜中に動き出すんだよ!?」
ミホの声が一段と大きくなる。マユリは驚くどころか、目を輝かせて笑った。
「やっばぁ! 激アツじゃん!」
「えぇ……」
呆れるミホをよそに、マユリは楽しげに考え込む。
「伸びた髪の毛、ウィッグ用に売れるじゃん!」
その発想にミホは思わず大声を上げた。
「は?! ヤバいってー! 捨てても捨てても帰って来るんだよ?! 呪われるって!」
ミホの訴えもどこ吹く風、マユリは真剣な顔つきで続けた。
「え! 激ヤバーッ!! それって何度でも手元に戻ってくるってことっしょ?」
マユリの破天荒な発想に、ミホは言葉を失った。
「この子、ほんとに普通の感覚持ってるの……?」心の中でそう呟くミホの視線をよそに、マユリはにやりと笑った。
この後、ミホから呪いの日本人形をあっさり譲り受けたマユリ。
そして、彼女の「激ヤバ」な計画が動き出す。
翌日、マユリは人形をしげしげと眺めていた。真っ白な顔にぱっちりとしたガラスの瞳、そして腰まで伸びる艶やかな黒髪。夜中に動き出すとか、髪が伸びるとか言われているが、マユリにとってそれはどうでもよかった。
「これ、めっちゃ売れるやん!」
そう、マユリの目には、この日本人形がまさに「稼ぎのチャンス」に見えていたのだ。呪いがどうとか関係ない。
「捨てて手元に帰る」=無限在庫という発想に至ったのだ。
マユリは即座にフリマアプリで人形を出品した。
「珍しいアンティークの日本人形。髪が自然に伸びる不思議な逸品!」
開始価格は2万円。
即座にコメント欄が盛り上がる。
- 「これ、本物ですか?」
- 「呪いの人形ってホントですか?」
- 「髪が伸びる瞬間の動画ありますか?」
マユリは適当に「本物です!」と返事をし、翌日には見事に落札された。
購入者との取引がスムーズに終わり、マユリの手元には2万円が転がり込む。
「やっばぁ! 楽勝じゃん!」
ところが、その夜。枕元に置いたスマホが通知音で震えた。振り向くと、そこには……売ったはずの日本人形が座っていた。
「これ、ほんとに帰ってくんだ! すっご!!」
むしろ嬉しそうなマユリは、再び人形を出品。しかも、今度は3万円に値上げした。「呪いの本物」であることを強調し、購入者が増えるたびに価格をつり上げていく。
初回:2万円
2回目:3万円
3回目:5万円
人形が戻るたびに売り直し、マユリの貯金額はどんどん膨らんでいく。呪いの日本人形は、マユリの「金の卵」だった。
一方、ミホは心配でたまらなかった。「呪い……大丈夫なのかな……」とマユリに尋ねるが、返ってくるのは笑顔と一言。
「問題ナッシング! むしろ呪いが足りないくらい!」
しかし、ミホは次第に気付く。マユリの周囲で小さな異変が起き始めていた。学校では突然落とし物が増えたり、家では電球がチカチカし始めたり。呪いの効果がじわじわとマユリに向かっているのでは、と不安になった。
そしてある夜、ついに異変が起きる。マユリが取引で得た大金を数えていると、人形の目が赤く光り出した。
「これ以上、私を利用するな……」
それは人形の低い声だった。マユリはさすがに怯え、冷や汗を流しながら言い訳する。
「いやいや、アンタも喜んでたじゃん!髪の毛伸ばしてさ! あーしのペガサス昇天盛りお気にっしょ!!」
あろうことか最近では伸びる髪の毛を盛り盛り結い直し、奇抜な髪型にセットしていた。
しかし、人形は無言で立ち上がり、部屋の隅に消えた。その後、人形は二度とマユリの元に帰ることはなかった。
フリマアプリでの大成功を誇っていたマユリの「ビジネス」は、呪いの終了とともに幕を下ろした。
「あっきれた……」
ミホは呆れながらも、マユリの大胆さに感心していた。怖いのは呪いの人形ではなく、その呪いすらビジネスに変えるマユリの執念だったのだ。
「次は何で稼ぐ気?」
「んー、何か動きそうなもんないかなぁ。あ、ミホのクマのぬいぐるみとか呪われてない?」
呪いの日本人形売ります タルタルソース柱島 @hashira_jima
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